ゆめ微睡みのアリア
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シリウルはまずはアノリアンの北を流れるアンドゥインの川口に沿って、ミナス・ティリスの方角に下り、渡れそうな所を探した。
幸いカイア・アンドロスの島の近くに仮設の渡り橋があり、直ぐにアノリアンに抜けた。
アノリアンでボロミアに教えて貰ったいくつかの野営地の位置を地図に書き残していたので、それを頼りに彼女は旅を進めた。
道ゆきは驚くほど穏やかで、モルドールに比較的近い位置でも、オークの気配は一切ない。
これからもっと色んなところが安全に、そして静かになることだろう。
戦いが終わったことを身で感じ、彼女は事の重大さを改めて知るのだった。
森に帰ると、幸い彼女が出た時とあまり変わっていないようだった。森は相変わらず静かで、動物達はのどかに過ごしていた。
シリウルは自身の居にたどり着くと直ぐに、また旅支度を始めました。これからロリアンに直接赴くのだった。
シリウルの住む森の責任者はロリアンの奥方なので、正式な許可と、長く森を開けた次第をしかと説明しなければならなかった。
事の次第を説明するには文書だけでは不十分でした。森に一度戻ったのは、アンドゥインを今度は舟で登っていかなければならないからで、ボロミアがいた治癒の野の小川はアンドゥインにも繋げる事が出来たので、そこから向かうつもりだった。
「よく来ました、シンアダン。ここまで来るのは長い旅時だったでしょう」
「奥方様にお会いするためなら、惜しくありません。それに川をお守りになって下さったからとても楽に着けました」
「気づいていらっしゃったのね、あなたの慧眼にはいつも驚かされます」
「奥方様、孫のように接して下さるのはとても嬉しい限りですが、そろそろ要件を申させて下さい」
「いいわ、聞きましょう」
「今回お目通りをお願いしたのは、ある者が森に正式に立ち入る許可を求める為なのです。彼は私の伴侶になる者、名をボロミア、デネソール侯の長子になります」
「……驚いたわ、どういうことなのです?あなたが彼をミナス・ティリスに送り届けるのに時間がかかった事についての説明にいらしたのかとばかり思っていました」
「その為にも参りました」
「……随分いれあげているとは思ったけれど、それほどとは。もちろんとても喜ばしいことだわ、よろしければことの次第を聞かせて下さいな」
「彼は私を引き止めるために、私の咎を一緒に背負うと言われました」
「そうですか、だから立ち入りの許可を?」
「はい」
「……それは必要なくなります、これからあなたの森は完全にあなたの管轄になるのだもの」
「はい?」
「一つの指輪の伝承は知っておいででしょう、私達は三つの指輪の力を失い、安住の地を永久に失うことになりました。これを気に中つ国に残ったエルフは皆、西の地に去るでしょう。あなたに言えなかったのは一つの指輪の所在も、見出されたことも知られてはいけなかったからです」
「……そういうことでありましたか、ではこれから私はどう致しましょう」
「あなたが望むように、あなたの一族の運命は私達から切り離されるのです。あなたはもう咎人ではない」
「…………」
「ちょうどあなたに伝令を送ろうと思っていたの、こうして来てくれて手間が省けたわ。それから理由がなんであれ、あなたを咎める事は一切ありませぬ。そもそもあなたは善をなしただけなのですから、咎める理由もまたないのです」
「……寛大なお言葉痛み入ります」
「ですから、ここからはただの知り合いとして話しましょう。お座りになって」
それから彼女はボロミアを森で拾った次第や、送り届けた後の色々な話や、彼が彼女が帰るのを待ってくれていることを話した。
奥方様は孫の恋路を見るように、親近感をわかせながら彼女の話を聞き、時折乙女のように声をあげて楽しんだ。
奥方様はシリウルが小さかった頃から彼女の面倒を見て下さり、久方ぶりの子供を本当の家族のように扱ってくれていた。
彼女が先祖を忌んでいたのは、奥方様を大切に思っていたからでもあった。
奥方様の親族や友人の多くが先祖の裏切りをきっかけに死したからだった。
それも今は、なんの負の感情も二人の間に渦巻いてはいなかった。
「……あなたが指輪の一行の者と恋に落ちるとは思っても見ませんでした。あなたの運命はエルフのものと色濃く結び付けられている、元より全く無関係ではありませんでしたけど」
「一つの指輪がアモン・アマルスに投じられれば悪も力を失いますが、奥方様も同時に力を失われるからですね。そうなれば私の森も白日の元に晒されることになるでしょう」
「ええ、そうです。吉ばかりではないエルフの運命を、人間として生きるあなたに背負わせたくはなかったのですが。あなたの屋敷にある宝は私達がヴァリノールに持ち帰りましょう。人の世にもう悪の種を持ち込みたくないのです」
「わかりました」
「森の整理が終わったら、あなたは闇が完全に大人しくなるまでゴンドールに居た方がいい。力が完全に失われた時のここよりは安全ですが、用心するに超したことはないでしょう」
「全て、言う通りに致します」
「……あなたと心置き無く話せなくなるのは寂しいですわ。あなたは私達に並んでも劣らないほどの知識ある者ですから」
「いえ、そんな、私などひよっこに等しいです」
「謙虚が過ぎるのは良くないわ。そう、暇があればわたくしに慰めの詩を送ってくださらないかしら。あなたの言葉選びはエルフにはない新鮮なものばかりですもの」
「奥方様が望まれるならいくらでも綴ってみせましょう、出来ましたらスールロスに預けます」
「楽しみにしています」
シリウルは奥方との話し合いが終わると、夫君であらせられるケレボルン様にもいらして頂いてお二人に暇乞いの挨拶をした。
ケレボルン様も奥方様と同じく、シリウルのことを大切に思っていたので、自分たちエルフの加護が中つ国を去ることで得れなくなってしまうのを、申し訳なく思っておられた。
シリウルは恐縮しながらも深く礼をして、かれらの気遣いを感謝した。
かれら二人にはまだまみえることがあろう、されどロスロリアンに訪れるのは聞くからに、これが最後になるやもしれぬ、とシリウルは彼女の知り合いに挨拶して周り、別れの挨拶をした。
そうしてこの地に一晩宿泊して、彼女がロリアンを出る頃には、彼女とこの地への別れを謳うそれはそれは美しい詩が響き渡っていた。
