ゆめ微睡みのアリア
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その晩宛てがわれたテントでシリウルは帰り支度をしていた。
装飾品をしまい終わり、最後に残った物に目を向けると、それはボロミアに貰ったドレスだった。シリウルは一瞬苦悶の表情を浮かべ、そっと胸に抱きしめて、覚悟を決めるように布を被せると、しまってしまった。
別れの言葉が綴られた置き手紙を残し、テントの外に出ると隠れるようにフードを被った。
明け方になる前に出ようと、シリウルは早歩きで彼女の馬の元に行った。タルウェは彼女に気づくと、どうかしたのか聞くようにヒヒンと鳴いた。
静かにするように、と施すような仕草をして、シリウルは馬具の確認をし始めた。
その中でいつの間にかタルウェの目線がずっと彼女の後ろに向いていたのに気づくと、嫌な予感がして直ぐに後ろを振り向いた。
そこには、一番会いたくなかった人物、ボロミアが立っていた。
「なぜ……」
シリウルが思わずそう零すと、ボロミアは彼女の近くに寄ってから答えた。
「あなたが居なくなってしまいそうな気がした」
彼の優れた直感はこんなところでも使われてしまうらしい、そんな事を思いながらもシリウルはこの状況をどう打破しようか考えながら言った。
「……私の役目は終わりましたから、あなたはお国をお守り下さい」
冷たく響いたその言葉に、ボロミアは一度目を閉じて開くと、静かに彼女に詰め寄り、息がかかりそうな程に近づいた。
何をするつもりか身構えて、彼の双眸を見つめる彼女にボロミアは軽快な笑いを挟んだ。
シリウルは彼が笑うとは思わず、呆気に取られた顔をした。未だ微かに微笑みを浮かべながらボロミアはこう言った。
「離れ難いのだ、シリウル。こうしてあっさり手放すのが酷く惜しい、それでも貴方は行くのか」
「館に血を持って繕われた役目が残っています。私は咎人、どうあっても償いを手放す事はできない」
「では俺が貴方と共にその咎を背負う」
彼が言い放った一言のあまりの重さに、シリウルは一瞬何を言われたのかわからなかった。
そして理解すると、彼女の気持ちも知らずに易々とそう言えるボロミアに怒りを覚えた。
彼女自身が受けている咎、というのはドレン・グラドを末代に渡るまで受け継ぎ、守り抜くことで何世代もかれらの一族はこの地に縛られることである。
それを共に背負うというのは、彼女と共にドレン・グラドに縛られようという意味であった。
重荷をそう簡単に背負うと言い切ってしまうボロミアが、シリウルには辛かった。
「咎を?それがどういう意味なのか分かっておいでなのですか」
「ああ、重々に。それに貴方にそこまでする理由は言った筈だ、お忘れになったのか」
「覚えています。ですがもう報いる必要はありません!そしてそれでもそうしたいのならば、私を引き止めないでくださいませ!」
「それは出来ない相談だな、なぜならあなたを引き止める理由も、言ってこそいないがまた私の内にあるからだ」
「……それは?」
「貴方を愛しているからだ」
彼がついに言ってしまって、シリウルは苦しそうに顔を歪めまた。同じ気持ちが彼女の内にありましたが、彼の人生を奪いたくないと思って秘めていた。
ボロミアは続けた。
「シリウル、貴方とこれからの一生を共に過ごしたい。命の恩人に命を捧げる事は許されないのか?」
「そういうつもりではないのです、でも貴方はデネソール侯の長子でしょう。執政をやらないにしてもゴンドールを離れ、行方知らずになるのは許されるとは思えない」
彼女が精一杯考えて零したその言葉を受けて、ボロミアは響き渡りそうなほど豪快に笑った。シリウルは挟まれた彼の笑い声に更に戸惑いながらも、彼に問いかけた。
「何故笑うのです」
「くっ、ふっははは……違う、違うんだ。いやさて、なんと言おうか、これは貴方にとって残念なのか喜ばしいのか分からないが、もう許可は取ってあるんだ」
「許可って、誰に」
彼の余裕そうな姿に、恐る恐るシリウルは聞いた。ボロミアは下に伏せていた顔を上げると、優しげな声で言った。
「もちろん怪我の身でありながら既に執政を担っている弟に、そしてゴンドールの正当なる王アラゴルンに、また民達にも直ぐに知れ渡る」
シリウルは一瞬、金槌に頭を殴られたような衝撃を受けた。そして直ぐに焦りだした。
「な、なんてことをッ!」
「はははっ、そう言うと思った!!いやはや、笑い過ぎて傷に染みるほどに愉快だ!」
「何が愉快なので!貴方は心配する私を嘲笑ってどこが楽しいのと言われるのですか?」
ぽかぽかと彼の胸を殴りながら真剣に彼女が罵倒しますが、なおもボロミアの表情は満面に笑んだままだった。
そのうち彼女の腕と肩をボロミアが優しく掴んで、自らの胸に沈めた。
シリウルは戸惑いながらもボロミアの顔を見上げ、真剣で熱烈な恋の炎に濡れたボロミアの瞳を見とめ、彼の愛が何者にも覆せない事を知った。
彼女が諦めるようにゆったりとした動作で目を閉じると、抱き締める力が強まり、暖かい何かが彼女の唇をそっと塞いでしまった。
