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第2式

「まあ、素敵。それで?もっとお話し聞かせてくれないかしら?さっきの話なんて、茨の中のお姫様を王子様が見つけたみたいでとても魅力的よ。そうね、入場の演出にこう取り入れるのはどう?」
ニコニコとペンを滑らせる散垣さんの隣で、保奈美さんは穏やかな表情をしていた。

保奈美さんが散垣さんに怒鳴った後、意外とトントンと事態は丸く収まった。散垣さんの言った「私たちは他人」という言葉が、よくも悪くも彼女の肩にのしかかっていた荷を下ろしたらしい。
あれ以来、保奈美さんは嫌なものは嫌だときちんと主張するようになり、その代わりに少しずつ、人の称賛を素直に受け止めるようになってきつつあった。
「式のドレスが決まらないなら、先に披露宴のドレスはどうかしら。私、明るい色があなたに似合うと思うの。赤なんてどう?あなたの滑らかな白い肌と相まって、粉雪のかかる薔薇の様に素敵なはずよ」
「そ、そう?…で、でも、赤って膨張色って言うじゃない…?その…」
雲の上を夢見るようにうっとりとカタログを見つめる散垣さんの隣で、保奈美さんは戸惑いながらも照れ混じりに反応を返す。
その満更でもないという顔を見て、散垣さんは嬉しそうに焼き菓子を手に取った。
「赤は情熱的で素敵な色よ。見え方が気になるのなら、肩や胸元にフリルがたくさんあって、腰から下がボリューミーなこの形はどうかしら。女性らしい線を強調してくれるわ」
パクリと菓子を口に入れ、幸せそうに顔を綻ばせる散垣さんを見て、保奈美さんも自分が差し入れた菓子を手に取り笑顔を浮かべる。
散垣さんはコンサルタントとして、いや、商人としてすこぶる優秀だった。
ドレスが決まらないとあんなに嘆いていた保奈美さんに、あれよあれよとドレスの候補を絞らせていく。しかも、そのドレスのどれもが大きいサイズがあるものばかり。
「こ、このドレスも、いいかも…」
「まあ素敵!わかるわ。この形可愛らしいわよね。でもさっきのと形が似ているんじゃない?田上さんはどう?」
保奈美さんが選んでしまった大きなサイズのないドレスを、似た形だからとさりげなく候補から外した散垣さんは、保奈美さんに二の句を継がせないようにか田上さんに話を振った。突然回って来たバトンにもたじろぐことなく、彼は組んでいた足を解いて立ち上がると、保奈美さんの腕を引いて立ち上がらせる。
「きゃ!」
腕を引かれて軽々立ち上がったということは、保奈美さんも満更嫌ではなかったということだ。田上さんのことがということではなく、散垣さん以外の意見も聞いてみたいのだろう。
保奈美さんは楽しくなってきている。立ち上がってモジモジと田上さんと僕を見る彼女に、僕はそっと笑みを返した。
「……俺はこっちのが好きでごぜまーすわ」
田上さんはちゃんと大きなサイズのある、案外無難なドレスの写真を指先で叩いた。
可愛らしくてシンプルなドレスは、レースやフリルで肉を隠すそれとは違い、なかなかシンプルで体の線を強調する。
豊満な体を隠すドレスばかりを選んでいた保奈美さんだったが、そのドレスのデザインが余程可愛いのか、顔を赤くして取りかけていた焼き菓子を置いた。
「だ、ダイエットとか、してみようかしら…」
紅潮した頰。決してマイナスな気持ちから言い出したのではないことがわかる。
「まあ!私また違うあなたに会えるのかしら?保奈美さんの為なら、私お手伝いするわ。今のあなたと会えなくなってしまうのは、ほんのちょっぴり寂しいけれどね」
保奈美さんのふくふくとした頰を眺めて目を細める散垣さんの横で、田上さんがはあ?という顔をする。
「さっきから隠したり減らしたりわけわかんねーことを。武器カラダを押し出さねーんでどうするんです」

その体、見せつけるくらいでいいんでごぜーますといった田上さんの肩をバチンと凄い勢いで叩いたのは、真っ赤になった顔でふにゃふにゃと笑う保奈美さんだった。
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