甘々な五伊地

「まぁまだ焦るほどでも無いですかね…」
 壁掛けのカレンダーを眺めながら伊地知は呟いた。
 高専とは馴染みの深い建築会社の社名が入ったもので、そろそろ年末の挨拶がてら顔を出そうかと思考は横道に逸れる。今年も高専内の建物が損壊する被害も少なくはなかったので、世話をかけているのは確かだ。
 ついでに来年の分のカレンダーも貰えたら嬉しい。
 シンプルなデザインかつ一マスのサイズが大きいのでたくさん書き込めて重宝しているのだ。
 スタッフ間の休日の情報共有にも使っているので、見やすくて助かる。
「……いや、そうじゃなくて」
 未提出の報告書の締め切りについて考えている途中なのだ。
 締め切りは月末なので、まだあと四日ある。
 催促するにはまだ少しはやいだろうか。
 とはいえ、相手は五条である。特級という特殊な立場にある五条に与えられる任務は複雑な案件が多くなりがちであり、かつ並の術師に比べて祓除をこなす件数も段違いなのだ。故に抱えている書類の数も、格段に多いはずなのである。
「やっぱり一度連絡をしておこうかな。月末ですし、報告書の回収は早いほうがいいですよね」
 別に五条だけを特別扱いしている訳ではないと自分を納得させながら、伊地知はスマートフォンを手に取った。
「もしもし、五条さん?伊地知ですが」
『何、なんかあった?』
 すぐに応答した五条は、どこか慌てたように言う。
 勤務時間内にする連絡は大抵差し迫った救援要請なのでそれも致し方ないのかもしれない、と伊地知は今更ながら申し訳なくなった。そんな連絡が必要になるのは、事前調査が到らず、適切な呪術師を送り出せていないせいなのだ。 
「いえ、未提出の報告書の進捗は如何かなと思って。私でまとめられるものがあったらお手伝いするので、データを送っていただければ」
 伝えると、受話器の向こうから大きな溜め息が聞こえてきた。
『なんだ、仕事の話~?』
「勤務中に他に何の話をするんです?」
『真面目。愛するダーリンに今夜の晩御飯は何にしましょう?とか訊いてくれるんじゃないの~?』
「私の愛するダーリンなら今朝牡蠣の土手鍋が食べたいとか言っていた気がしますが」
 ふたりで朝食を摂っていた際、今日は冷えると話したら、晩御飯は鍋がいいのではということになったのだ。
『覚えててくれたの?おいしい出汁入り味噌買ってあるから楽しみにしてろよ♡』
 電話の向こうで五条の声が華やいだ。
 五条が自分で作るつもりらしい。
「はい。ちゃんと定時には仕事を終わらせますね。五条さんもデータの件よろしくお願いします」
『オッケー。送っとく』
「ありがとうございます。それでは……」
 何となく、まだ何かを伝えたりない気がしてすぐに通話を切れずにいると、じゃあね、と囁いた五条が小さなリップ音を鳴らした。
 ──五条さん、私も愛してます♡
 早く仕事を片づけて愛する人の待つ家に帰ろう、仕事を再開した伊地知は決意を固めるのだった。
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