付き合ってない五伊地

 ブランケットにくるまってカウチの上に横たわる。
 季節の変わり目には、体調を崩しやすいものだ。
 まして日々強いストレスを抱えながら働く伊地知にとってはなおさらだっただろう。
 ──もっと気にかけてやってればよかったな。
 うっすらとした後悔を抱えながら五条は目を閉じた。
 せめて心細い思いはさせないでやろう。
 静かな夜の空気を、時折伊地知が苦しげに咳き込む音が揺らす。
 深夜零時を回る頃、それが放ってはおけないほど激しくなった。
「伊地知」
 用意していたものの、使用を躊躇っていた薬を手に、五条は寝室へ向かう。
「大丈夫?」
 ベッドの側まで歩み寄ると、伊地知は体を起こそうとした。それを助けて、五条は伊地知の背中をさすってやる。
「ごめ…なさいごじょ……さん……」
「いいよ、無理に喋んなくて」
 それでも背中をさすられると幾分か楽にはなるのか、呼吸は荒いものの咳は止まった。
 伊地知を床に戻すと、五条はパジャマの襟元に手をかけて、言う。
「咳止めのお薬あるから使おう。前、開けるよ」
「ひゃ…っ」
 喉元に触れてしまった指に驚いたのか、伊地知が声をあげた。だから、これを使うのは躊躇っていたのだ。熱のせいで顔が赤く目が潤んでいる。その状態でそんな声を出されては。
 ──えっちじゃん??
 パジャマのボタンを外しながら、五条はいけないことをしている気分になって思わず顔をしかめた。
 違うから。これはただの看病!
「すぐ済むから、力抜いて」
 囁いて、五条は伊地知の胸を露わにする。
「ちょっと冷たいよー」
 用意していた塗り薬を手に取り、指を使って胸に塗りつけた。
「んぅ…」
 小さく声を漏らした伊地知は、つらそうに眉間にしわを寄せたがされるがまま五条に身を任せる。
 薬を塗った上にガーゼを貼りつけ、五条はパジャマのボタンを丁寧に留めていった。
「これで楽になるといいんだけど」
「ありがとうございます」
 喉元まで布団を被せてやると、伊地知は健気にも微笑んで見せる。けれど、その表情はすぐに不安げに変わってしまった。
 熱のせいで心細くなっているのだろう。
「うん。眠るまで側にいるから、そんな寂しそうな顔しなくていいよ。手、握ってよっか?」
「そこまで甘えられません……」
 泣きそうな顔をしているくせに、伊地知はまだ遠慮しようとしている。
「ばーか。僕に甘えないで誰に甘えるの?いいから、ほら」
 いらないとは言われなかったので、五条は無理やりに伊地知の手をとった。きゅっと控え目に握り返してきたので、五条はそのまま伊地知の布団に潜り込む。
 明日の朝は何を食べさせようか。
 いつの間にかすやすやと寝息を立てる伊地知の隣で、五条もまた眠りについた。
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