アオになれ。 番外編
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「まだシてないの!?」
共同スペースに響くアホ面の声。そこらに散らばっていた奴らは一斉にこちらを見て手や足を止める。女共は売店へ行っているのか寮にはいなかったが、それでも若干気まずくなったこの空気。一体どうしてくれる。
日曜日の午後。特に予定もなく各々が好きな時間を過ごしていれば、急に始まった「彼女ほしー」とのアホの嘆き。そこから話は発展し、気づけば話題の的は俺に絞られる。
「なまえちゃんとはどうよ」
「どうもクソもねぇよ」
「順調ってことね」
「仲良いもんな!!」
こいつらには、というか誰にも言ってはいなかったが、俺となまえが付き合い始めたのは何故かクラス全体に広まっていた。俺もだが、あいつはそれをわざわざ報告するタイプの人間ではないため、どこからそれが漏れたのかは分からない。
だが、以前より増えたなまえの訪問、そして縮まった距離感に何かを察した奴らがそんな噂を立てたのだろう。まぁ遅かれ早かれいずれはバレるとそう思っていたわけだ。いまさらコソコソと隠す必要もない。
「可愛い彼女羨ましい………」
「あんなん可愛くねェ」
「いやいや何言ってんのよ」
「可愛いもあるけど美人だよな!!あと成績も良い、」
「それはてめーらと同じだ」
「そっか……てか美人なのは認めるのね」
嘆く上鳴にやたらと頷く切島。そしてニヤニヤとこちらを見つめる瀬呂。それぞれ反応は異なるが、どれもこれもウザったいのには変わりない。
俺となまえの関係がいままでとは異なり何か特別なそれになったとしても、別に俺らは何も変わらない。ただあいつが前より気を遣うことがなくなり、そしてよく笑うようになったが、あいつはあいつのままだ。だから周りが俺らの関係を気にかける意味が分からなかった。ただ、先程上鳴が騒いでいたことは少しだけ引っ掛かる。
先日行われた期末試験。俺は当然赤点もなく楽勝で終えたが、教えてやったにも関わらずなまえは赤点ギリギリだった。特に数学が。それでも回避はしたため、あいつが言った褒美とやらを与えてやることになった。
褒美と言ってもなまえはあまり欲というものがない。それに俺らはまだ学生であり自由に使える金もないわけだ。だから何をくれてやればいいのかと考え、でもめんどくせェからなまえ本人に直接聞けば「勝己の作るご飯が食べたい」と迷わずそう言った。
なまえの母親は他に男を作り出ていき、そして父親は単身赴任でほとんど家にいたことはない。他人が作る飯も、他人と食う飯も幼少期の頃からあまりしてこなかった。雄英入学後、時折俺んちで飯を食うなまえは、年相応というよりはそれよりもっと幼く見えた。
それに対する憧れがこいつにあるのか、はたまたそれ故の願いなのかは分からない。だが、そんな楽なことでいいんならいくらでもやってやる。ということで俺はなまえに飯を作ってやることになったのだ。
なまえがリクエストをしたものを何品か作り、そして俺の部屋で一緒に食す。作っている最中も食ってる時もニコニコ……いや、ニヤニヤしているなまえはウゼェと思ったが、「ありがとう」とへにゃりとした顔で言われればまぁあまり悪い気はしなかった。
飯を食い終わり当たり前のように隣に座るなまえ。俺の肩に頭を乗せ擦り寄ってくる様子はまるで猫のよう。そんな完全に気を抜いているであろうこいつを軽く押せば、受け身もなく簡単に転がった。床に広がる細い髪を梳くと、擽ったいのか少しだけ身を捩りクスクスと笑っている。無防備過ぎるその姿にこいつには危機感というものはないだろうか、とふと心配になる。だが、たぶん俺の前だから故の態度なのだろう。まぁ俺以外にこんなんになっていたらぶっ殺すところだが。
「食べたら眠くなっちゃった」と起きる気がないこいつの顔の横に手をついてみる。側からみれば押し倒しているだろうそんな格好。そして顔を少し近づけても逃げようとはしないなまえ。
ただ何となくそういった雰囲気になった時、急に声を上げ「待って」と俺を制す。いまさら恥ずかしいんかよと思ったが、なまえは別にそういった意味で言ったわけではないらしい。ならば何故止めたのか。ごろりと寝ていたなまえは起き上がり、だらけた姿勢から正座とると背筋をピンと伸ばした。
「学生のうちはそういったことはしないって約束してもいい?」
少しだけバツが悪そうな顔をして、でも声色は真剣なものだった。そういったこととはどこまでのことを差すのか。俺らはキスは2度したが、あれは俺が無理矢理の1回と、こいつの悪戯の1回によるもので、それをその行為とカウントしていいのかは怪しいところだ。とはいえ、いまの今まで身体は互いに触れることはなく、少しだけ預ける程度。ならばこいつの言う“そういったこと”に当て嵌めるのであれば、雄英を卒業するまで一切触れるなってことか。
そんなことをぐるぐると脳内で探っていれば、なまえは俺の服の袖を軽く引っ張る。そして目を逸らしながら「その……えっちは雄英を卒業してからでもいい?」と俺に聞こえるか聞こえないかぐらいのほんとにかの鳴くような声でそう言った。なまえの口から出た想像もしなかったその言葉。そして珍しく赤くなった顔に心臓は跳ね上がり、らしくないが動揺する。
なまえが言った言葉の意味を理解出来ないほど、俺はその行為に対して無知ではない。かといってクラスの奴らがそういった類の話で盛り上がっていれば、馬鹿じゃねぇのと遇らっていたぐらいに興味はなかった。
だが、こいつを手に入れ、そして明確な相手として想像することが出来るようになったいま、それはまた別になる。順を追い、いずれなまえの全てを手に入れることが出来ればと思ってはいた。だがそれがこいつの発言により、俺が考えていた以上に先の話になるとは思ってもみなかったのだ。
とはいえ、それが我慢出来ねぇほど俺は盛っているわけでもない。なまえがこう言ったのには何か意味があるわけで、こいつにはこいつのなりの考えがあるのだろう。たぶんそれは俺となまえがここ雄英に来た理由と合致するんだと思う。それぞれにやるべきことがある以上、その邪魔はしたくない、されたくない。そんなところか。
「それ以外はいいんか」
「っ……それ以外って?」
「キスとか身体に触れるとか」
「………我慢出来る?」
「俺のことナメてんのか」
「違うよ。その……ごめんね」
一線を越えたところでそこからハメを外し、学生の本分を疎かにするはずもない。それでもそういったことに現を抜かせば、多少は影響は出るのだろか。俺は絶対ないと言い切れるが、なまえはそれを恐れているらしい。
恋愛ってもんはほんと面倒だ。だがもう首も足も突っ込んでしまったのだから今更引き返すわけにもいかない。俺もなまえも同じ選択をした。ならばもう落ちる時は、一緒に底まで行くだけだ。
それでもなまえが謝る理由は分かっている。こいつも色々迷っての発言だったんだろう。不安そうな顔をするなまえを引き寄せ「そんなんで嫌いなんてなんねーよ」と言ってやれば、泣きそうなツラを堪えながらも背中に手を回し、いつになく力を込めていた。
ただそれからというもの、なまえは互いの部屋で過ごす度にキスをせがむようになった。そして変わらず俺の前では警戒心を解き、無防備な姿を晒している。試しているのか、俺のことを揶揄っているのか知らねぇ。だが我慢出来るとは豪語したが、ここまで好き勝手やられると俺の心も多少は揺れ動く。
とはいえ、いまさらこいつと交わしてしまった約束を破り、襲うわけにもいかない。襲ったところで何か罰を受けるわけではないが、何となく俺のプライドが許さない。ただそれだけだ。
「お邪魔します」
「なまえちゃんいらっしゃーい!」
「何してたの?」
「ちょっと会議中」
「あ、邪魔しちゃたよね。ごめんなさい」
「大丈夫だぜ!」
「碌なこと話してないから」
「それよりなまえちゃんはかっちゃんに用?」
ガチャリと扉が開けば、ちょうど話題に上がっていた人物がタイミング良く、いや悪く現れる。若干の気まずさは残しつつ、それでもこいつには視えてしまうから、残ったクラスの奴らは慌てて隠しこいつを笑顔で迎えた。そして上鳴のそんな声掛けになまえは笑って「ううん」と首を横に振る。そんなはっきりと否定すんなとは思うが、俺に用がある時は決まって連絡を寄越すからこいつの反応は間違っちゃいない。
奴らと話すなまえは楽しそうであり、その表情はいつも通りのこいつ。だが何処か異なるのは気のせいか。そんななまえを見ていれば、上鳴も切島も瀬呂も何か言いたそうにしているから、さっさと用を済ませてはよ帰れとそう思う。
少しして扉は再び開き、出掛けていた女子たちが帰ってくるとなまえは「皆に誘われたの」と嬉しそうにそう言った。そして名前を呼ばれれば「また話そうね」と上鳴たちに手を振り、パタパタとそちらへ駆けていく。
「……やっぱ可愛いよなまえちゃん」
「大事にしなねかっちゃん」
「幸せにな!!」
3人は何か言っているが、俺はそんなの耳に入るわけもない。
やりやがった。
そう思わせたのは去り際に俺だけに見せた顔。それはこいつらと話をしていた先程とは異なり、柔らかくへにゃりとした部屋で見せる無防備のそれ。だから自然と出るのは深くデカいため息だった。
卒業まで2年と少し。それまで耐えられる自信はある。だが、あいつはかなりタチが悪い。失敗した。何も知らないこいつらはただ羨ましいといつまでも煩く嘆いている。
共同スペースに響くアホ面の声。そこらに散らばっていた奴らは一斉にこちらを見て手や足を止める。女共は売店へ行っているのか寮にはいなかったが、それでも若干気まずくなったこの空気。一体どうしてくれる。
日曜日の午後。特に予定もなく各々が好きな時間を過ごしていれば、急に始まった「彼女ほしー」とのアホの嘆き。そこから話は発展し、気づけば話題の的は俺に絞られる。
「なまえちゃんとはどうよ」
「どうもクソもねぇよ」
「順調ってことね」
「仲良いもんな!!」
こいつらには、というか誰にも言ってはいなかったが、俺となまえが付き合い始めたのは何故かクラス全体に広まっていた。俺もだが、あいつはそれをわざわざ報告するタイプの人間ではないため、どこからそれが漏れたのかは分からない。
だが、以前より増えたなまえの訪問、そして縮まった距離感に何かを察した奴らがそんな噂を立てたのだろう。まぁ遅かれ早かれいずれはバレるとそう思っていたわけだ。いまさらコソコソと隠す必要もない。
「可愛い彼女羨ましい………」
「あんなん可愛くねェ」
「いやいや何言ってんのよ」
「可愛いもあるけど美人だよな!!あと成績も良い、」
「それはてめーらと同じだ」
「そっか……てか美人なのは認めるのね」
嘆く上鳴にやたらと頷く切島。そしてニヤニヤとこちらを見つめる瀬呂。それぞれ反応は異なるが、どれもこれもウザったいのには変わりない。
俺となまえの関係がいままでとは異なり何か特別なそれになったとしても、別に俺らは何も変わらない。ただあいつが前より気を遣うことがなくなり、そしてよく笑うようになったが、あいつはあいつのままだ。だから周りが俺らの関係を気にかける意味が分からなかった。ただ、先程上鳴が騒いでいたことは少しだけ引っ掛かる。
先日行われた期末試験。俺は当然赤点もなく楽勝で終えたが、教えてやったにも関わらずなまえは赤点ギリギリだった。特に数学が。それでも回避はしたため、あいつが言った褒美とやらを与えてやることになった。
褒美と言ってもなまえはあまり欲というものがない。それに俺らはまだ学生であり自由に使える金もないわけだ。だから何をくれてやればいいのかと考え、でもめんどくせェからなまえ本人に直接聞けば「勝己の作るご飯が食べたい」と迷わずそう言った。
なまえの母親は他に男を作り出ていき、そして父親は単身赴任でほとんど家にいたことはない。他人が作る飯も、他人と食う飯も幼少期の頃からあまりしてこなかった。雄英入学後、時折俺んちで飯を食うなまえは、年相応というよりはそれよりもっと幼く見えた。
それに対する憧れがこいつにあるのか、はたまたそれ故の願いなのかは分からない。だが、そんな楽なことでいいんならいくらでもやってやる。ということで俺はなまえに飯を作ってやることになったのだ。
なまえがリクエストをしたものを何品か作り、そして俺の部屋で一緒に食す。作っている最中も食ってる時もニコニコ……いや、ニヤニヤしているなまえはウゼェと思ったが、「ありがとう」とへにゃりとした顔で言われればまぁあまり悪い気はしなかった。
飯を食い終わり当たり前のように隣に座るなまえ。俺の肩に頭を乗せ擦り寄ってくる様子はまるで猫のよう。そんな完全に気を抜いているであろうこいつを軽く押せば、受け身もなく簡単に転がった。床に広がる細い髪を梳くと、擽ったいのか少しだけ身を捩りクスクスと笑っている。無防備過ぎるその姿にこいつには危機感というものはないだろうか、とふと心配になる。だが、たぶん俺の前だから故の態度なのだろう。まぁ俺以外にこんなんになっていたらぶっ殺すところだが。
「食べたら眠くなっちゃった」と起きる気がないこいつの顔の横に手をついてみる。側からみれば押し倒しているだろうそんな格好。そして顔を少し近づけても逃げようとはしないなまえ。
ただ何となくそういった雰囲気になった時、急に声を上げ「待って」と俺を制す。いまさら恥ずかしいんかよと思ったが、なまえは別にそういった意味で言ったわけではないらしい。ならば何故止めたのか。ごろりと寝ていたなまえは起き上がり、だらけた姿勢から正座とると背筋をピンと伸ばした。
「学生のうちはそういったことはしないって約束してもいい?」
少しだけバツが悪そうな顔をして、でも声色は真剣なものだった。そういったこととはどこまでのことを差すのか。俺らはキスは2度したが、あれは俺が無理矢理の1回と、こいつの悪戯の1回によるもので、それをその行為とカウントしていいのかは怪しいところだ。とはいえ、いまの今まで身体は互いに触れることはなく、少しだけ預ける程度。ならばこいつの言う“そういったこと”に当て嵌めるのであれば、雄英を卒業するまで一切触れるなってことか。
そんなことをぐるぐると脳内で探っていれば、なまえは俺の服の袖を軽く引っ張る。そして目を逸らしながら「その……えっちは雄英を卒業してからでもいい?」と俺に聞こえるか聞こえないかぐらいのほんとにかの鳴くような声でそう言った。なまえの口から出た想像もしなかったその言葉。そして珍しく赤くなった顔に心臓は跳ね上がり、らしくないが動揺する。
なまえが言った言葉の意味を理解出来ないほど、俺はその行為に対して無知ではない。かといってクラスの奴らがそういった類の話で盛り上がっていれば、馬鹿じゃねぇのと遇らっていたぐらいに興味はなかった。
だが、こいつを手に入れ、そして明確な相手として想像することが出来るようになったいま、それはまた別になる。順を追い、いずれなまえの全てを手に入れることが出来ればと思ってはいた。だがそれがこいつの発言により、俺が考えていた以上に先の話になるとは思ってもみなかったのだ。
とはいえ、それが我慢出来ねぇほど俺は盛っているわけでもない。なまえがこう言ったのには何か意味があるわけで、こいつにはこいつのなりの考えがあるのだろう。たぶんそれは俺となまえがここ雄英に来た理由と合致するんだと思う。それぞれにやるべきことがある以上、その邪魔はしたくない、されたくない。そんなところか。
「それ以外はいいんか」
「っ……それ以外って?」
「キスとか身体に触れるとか」
「………我慢出来る?」
「俺のことナメてんのか」
「違うよ。その……ごめんね」
一線を越えたところでそこからハメを外し、学生の本分を疎かにするはずもない。それでもそういったことに現を抜かせば、多少は影響は出るのだろか。俺は絶対ないと言い切れるが、なまえはそれを恐れているらしい。
恋愛ってもんはほんと面倒だ。だがもう首も足も突っ込んでしまったのだから今更引き返すわけにもいかない。俺もなまえも同じ選択をした。ならばもう落ちる時は、一緒に底まで行くだけだ。
それでもなまえが謝る理由は分かっている。こいつも色々迷っての発言だったんだろう。不安そうな顔をするなまえを引き寄せ「そんなんで嫌いなんてなんねーよ」と言ってやれば、泣きそうなツラを堪えながらも背中に手を回し、いつになく力を込めていた。
ただそれからというもの、なまえは互いの部屋で過ごす度にキスをせがむようになった。そして変わらず俺の前では警戒心を解き、無防備な姿を晒している。試しているのか、俺のことを揶揄っているのか知らねぇ。だが我慢出来るとは豪語したが、ここまで好き勝手やられると俺の心も多少は揺れ動く。
とはいえ、いまさらこいつと交わしてしまった約束を破り、襲うわけにもいかない。襲ったところで何か罰を受けるわけではないが、何となく俺のプライドが許さない。ただそれだけだ。
「お邪魔します」
「なまえちゃんいらっしゃーい!」
「何してたの?」
「ちょっと会議中」
「あ、邪魔しちゃたよね。ごめんなさい」
「大丈夫だぜ!」
「碌なこと話してないから」
「それよりなまえちゃんはかっちゃんに用?」
ガチャリと扉が開けば、ちょうど話題に上がっていた人物がタイミング良く、いや悪く現れる。若干の気まずさは残しつつ、それでもこいつには視えてしまうから、残ったクラスの奴らは慌てて隠しこいつを笑顔で迎えた。そして上鳴のそんな声掛けになまえは笑って「ううん」と首を横に振る。そんなはっきりと否定すんなとは思うが、俺に用がある時は決まって連絡を寄越すからこいつの反応は間違っちゃいない。
奴らと話すなまえは楽しそうであり、その表情はいつも通りのこいつ。だが何処か異なるのは気のせいか。そんななまえを見ていれば、上鳴も切島も瀬呂も何か言いたそうにしているから、さっさと用を済ませてはよ帰れとそう思う。
少しして扉は再び開き、出掛けていた女子たちが帰ってくるとなまえは「皆に誘われたの」と嬉しそうにそう言った。そして名前を呼ばれれば「また話そうね」と上鳴たちに手を振り、パタパタとそちらへ駆けていく。
「……やっぱ可愛いよなまえちゃん」
「大事にしなねかっちゃん」
「幸せにな!!」
3人は何か言っているが、俺はそんなの耳に入るわけもない。
やりやがった。
そう思わせたのは去り際に俺だけに見せた顔。それはこいつらと話をしていた先程とは異なり、柔らかくへにゃりとした部屋で見せる無防備のそれ。だから自然と出るのは深くデカいため息だった。
卒業まで2年と少し。それまで耐えられる自信はある。だが、あいつはかなりタチが悪い。失敗した。何も知らないこいつらはただ羨ましいといつまでも煩く嘆いている。