アオになれ。 完結/全32話
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12月某日。かっちゃんと轟くんが無事に仮免を取得し、僕たち1年A組はヒーローへの道をまた一歩進めていた。これは大変喜ばしいことだ。
でも何故か数日後、かっちゃんと轟くんの空気が重くなっていた。それぞれの空気もだが、二人が顔を合わすと特にだ。もともと仲が特別いいと言うわけではないけれど、こんなにギスギスしていたわけではない。クラスの皆も何かを察してなのか、二人を極力遠ざけようとしていた。この短期間のうちに一体何があったのだろう。
「えっと………」
「……」
「何かあった?」
そしていま横にいる彼女の空気もまた然り。ものすごく重かった。
お昼休み。飯田くんと食堂へ向かう途中、なまえちゃんと会った。いつもは笑顔で駆け寄ってくる彼女。だけど今日は何故かそれがなく、僕たちの顔を見るなりその場に立ち尽くしている。
「ん、みょうじくんどうしたんだ?」
「あっ……」
飯田くんの声掛けになまえちゃんは肩を大袈裟に震わせた。反応が明らかにおかしい。いつもなら真っ直ぐに向けられる目はいまは焦点が定まらず、ぐらぐらと泳いでいる。そして表情がものすごく硬い。僕の勘は確かではないけれどきっと何かあったんだと察した。
数日前。彼女が失踪したことを聞き、心臓が飛び出そうになったことを思い出す。それでも彼女は無事に戻り、寮内で療養していると後に相澤先生から聞いた。
なまえちゃんの個性による家庭の事情は前から知っていた。それでも彼女は大丈夫だとそう言い僕に笑顔を向けていたものだから、てっきり本当にもう大丈夫であると決めつけてしまっていた。でも彼女はずっと傷ついていた。苦しんでいたんだ。
助けてあげられなくてごめん。それを伝えれば「隠しててごめんね」と顔を少しだけ歪めて、それでもゆっくりと今までのことを話してくれた。彼女と共に過ごしていた期間、そして別々の地で過ごした空白の期間も全てだ。
そしてなまえちゃんは数日前から復帰をしていた。ここ数日行ったメッセージのやりとりや電話の感じでは、いつもの彼女に戻っているそんな気がした。それでももしかしたらまだ本調子ではないのかもしれない。
「えっと………なまえちゃん時間ある?」
「え、」
「僕でよければ話聞くよ」
僕の勘はあまり当たらない。だけどいま目の前で困っている君を、もう一人になんて出来ないんだ。
飯田くんにお昼は今日は別でいいかと聞けば、彼は嫌な顔一つせずに「みょうじくんをよろしく頼む」と肩をポンと叩かれた。そしてそのまま僕たちはおにぎりやサンドイッチといった簡単に食べられるものを買い、中庭へと移動した。なるべく人気がない、それでも日の当たる所を探しベンチに腰をかける。が、なかなか彼女はそこに座ろうとしない。それでも彼女の肩を押してとりあえずまずは座るよう促した。
「なまえちゃんどうしたの?」
「………」
「あ、でも話したくなかったら無理に話さなくていいからね」
「き、」
「?」
「キスされた………」
「へーきすか…………………き、きききききききききききキス!!!!????」
「出久声大きい!!!!」
ベンチに腰を掛けて開口一番に発せられたその言葉。驚きのあまり叫んだ僕の口をなまえちゃんは慌てて塞いだ。そして二人して周りをキョロキョロと見渡す。だけど人気のない場所を選んだわけだ。当然、僕たちの話を気にする人はいなかった。
いや、それより何より彼女は「キス」と言った。「キス」それは魚の種類……ではないのはもちろんこの僕にだって分かる。それは口と口を重ねる行為。また敬愛を込めて口以外の部位にも唇を当てる行為。キス、口付け、接吻、チュウ。呼び方は実に様々。
早い子であれば小学生のときにするとかしないとか。そして僕たちは高校生だ。別にそれをしたからって悪いわけではない。それより何より彼女のその相手は誰かってことになるのだが……。
「だ、誰に?」
「………勝己に………」
「か、か、かっちゃん!?」
これまた僕はものすごく大きな声で幼馴染の名前を口にする。いや、そんなに驚くことじゃない、けど、心の準備が出来ていなかった。ただそれだけだ。
「そ、それは許可を得て……だよ、ね?」
それでも一応確認をしてみるが、なまえちゃんからは「はい」や「YES」という肯定の返事は聞かれない。いや待てよ、まさか………と嫌な考えが先走り、冷や汗がツーっと背中を伝っていく。
「もしかして無理矢、」
「ちがっ………うとは言い切れないけど」
「マジかよ……かっちゃん」
「同意の下だったらこんなに悩んでないよ」
いまにも泣き出しそうななまえちゃん。そして彼女は「うー」と唸りながら膝を抱えて小さく丸くなった。
かっちゃん、君ってやつは一体何してくれてるのさ。僕はかっちゃんが昔からなまえちゃんを好きなことは勘付いてた。そしてなまえちゃんも同じくかっちゃんのことが好きであることも。だから応援していたのだ。二人には幸せになってもらいたいと心から願っていたのだ。
それなのに無理矢理するだなんて。こんな展開ありなのか。いや、もう起きてしまったことは仕方ない。ただどうしてかっちゃんが強行突破に入ったのか、それが気がかりだ。誰よりも彼女のことを想い、大切にしたいはずなのに。それなのに彼女が嫌がることを果たして彼は選択するのだろうか。
何があったのかなんて安易に聞くわけにはいかない。なまえちゃんが傷つかないよう、言葉選びは慎重に。そして感情も彼女の眼に映らないようなるべく抑えていこう。
よし、と心を落ち着かせ口を開こうとすれば、僕より先になまえちゃんからポツリポツリと話し始める。そんな彼女の口から紡がれる「嫌悪」「拒絶」「絶縁」という、二人のことをいままでずっと見てきた僕からしたら疑ってしまうほどの言葉の羅列。でもそれは嘘ではない。信じたくないけど事実のようだった。
「どうすればいいのか分からなくなっちゃった」
尚も膝を抱えたままのなまえちゃんはそう吐き捨てる。
彼女が頭を抱える理由。たぶんそれはかっちゃんにキスをされたことではない。絶縁までされた彼の言葉と行動が矛盾している。だから困っているのだ。このまま彼が言ったように関係を断ち切るのか。それともまたズルズルと関わるのか。人より感情を読み取りやすい彼女だからこそ余計に悩み、もがき、苦しんでいる。
本当に嫌いだったら。関係を断ち切りたいのであればかっちゃんはとことん突き放すし、言葉も行動も彼を刺激するものは徹底的に全て消えるようそう過ごすだろう。それでも助け、手を取り、そして再び彼自身から関わりに行った。それだけで分かる。かっちゃんはなまえちゃんのことは嫌いじゃないことを。
やっぱり僕たち、そして君たちは切っても切れない縁なのかもしれない。僕とかっちゃんが長い付き合いの間一度も面と向かって話したことがなかったように、なまえちゃんもそれが出来ていない。そんな気がする。ならばもうやることは一つしかないと思うんだ。僕らは本音を言いあって漸く向き合うことが出来た。だからなまえちゃんもきっとそれが出来るんじゃないかって。
……でもただ話すだけじゃダメなんだ。壊さないといけない。君たちの壁を。そして『幼馴染』という関係を。
「なまえちゃん」
名前を呼べばゆっくりと顔が僕の方へと向けられる。真っ直ぐ向けられる目は綺麗で澄んでいて、それは昔から変わっていない。
「僕はもう大丈夫」
「え?」
「なまえちゃんが動けない理由は僕にもあるのかな、って」
彼女はとても慎重だ。だけど時折それとは真逆の大胆な行動をするときがある。それは大体は僕たちが関わっているとき。でもそれを制限させているのはいつだって僕の存在だった。彼女を、なまえちゃんを、縛り付けているのは幼馴染という関係だけではない。そう……僕なんだ。
昔からなまえちゃんは僕を贔屓目で見ていてくれていた。味方でいてくれた。それは僕が弱かったから、情けなかったから、そして無個性だったから。でもオールマイトに出会って個性を授かって、そして雄英に入って変われた。まだまだ迷惑も心配もたくさんかけてばかりだけど、猫背で地面しか見えてなかった世界は僕が思っているよりもっと広いことを知った。胸を張って前を見れば景色は色鮮やかで綺麗であることを知った。それが出来たのは君が、なまえちゃんがいたからなんだ。
「だからもう僕は大丈夫」
「い、」
「いままでごめんね。僕の味方でいてくれて、そしていつも『名前』で呼んでくれてありがとう」
「いず、く」
「君にとって必要なのは僕じゃない。かっちゃんだよ」
僕の憧れるヒーローはオールマイト。身近にいた凄い人、勝利のイメージはかっちゃん。そしてなりたいと思う強くて優しい人はずっと変わらない。君はヒーローにはなれないとそう言った。だけど君は、なまえちゃんは、いつだって僕にとってのヒーローなんだ。
でも何故か数日後、かっちゃんと轟くんの空気が重くなっていた。それぞれの空気もだが、二人が顔を合わすと特にだ。もともと仲が特別いいと言うわけではないけれど、こんなにギスギスしていたわけではない。クラスの皆も何かを察してなのか、二人を極力遠ざけようとしていた。この短期間のうちに一体何があったのだろう。
「えっと………」
「……」
「何かあった?」
そしていま横にいる彼女の空気もまた然り。ものすごく重かった。
お昼休み。飯田くんと食堂へ向かう途中、なまえちゃんと会った。いつもは笑顔で駆け寄ってくる彼女。だけど今日は何故かそれがなく、僕たちの顔を見るなりその場に立ち尽くしている。
「ん、みょうじくんどうしたんだ?」
「あっ……」
飯田くんの声掛けになまえちゃんは肩を大袈裟に震わせた。反応が明らかにおかしい。いつもなら真っ直ぐに向けられる目はいまは焦点が定まらず、ぐらぐらと泳いでいる。そして表情がものすごく硬い。僕の勘は確かではないけれどきっと何かあったんだと察した。
数日前。彼女が失踪したことを聞き、心臓が飛び出そうになったことを思い出す。それでも彼女は無事に戻り、寮内で療養していると後に相澤先生から聞いた。
なまえちゃんの個性による家庭の事情は前から知っていた。それでも彼女は大丈夫だとそう言い僕に笑顔を向けていたものだから、てっきり本当にもう大丈夫であると決めつけてしまっていた。でも彼女はずっと傷ついていた。苦しんでいたんだ。
助けてあげられなくてごめん。それを伝えれば「隠しててごめんね」と顔を少しだけ歪めて、それでもゆっくりと今までのことを話してくれた。彼女と共に過ごしていた期間、そして別々の地で過ごした空白の期間も全てだ。
そしてなまえちゃんは数日前から復帰をしていた。ここ数日行ったメッセージのやりとりや電話の感じでは、いつもの彼女に戻っているそんな気がした。それでももしかしたらまだ本調子ではないのかもしれない。
「えっと………なまえちゃん時間ある?」
「え、」
「僕でよければ話聞くよ」
僕の勘はあまり当たらない。だけどいま目の前で困っている君を、もう一人になんて出来ないんだ。
飯田くんにお昼は今日は別でいいかと聞けば、彼は嫌な顔一つせずに「みょうじくんをよろしく頼む」と肩をポンと叩かれた。そしてそのまま僕たちはおにぎりやサンドイッチといった簡単に食べられるものを買い、中庭へと移動した。なるべく人気がない、それでも日の当たる所を探しベンチに腰をかける。が、なかなか彼女はそこに座ろうとしない。それでも彼女の肩を押してとりあえずまずは座るよう促した。
「なまえちゃんどうしたの?」
「………」
「あ、でも話したくなかったら無理に話さなくていいからね」
「き、」
「?」
「キスされた………」
「へーきすか…………………き、きききききききききききキス!!!!????」
「出久声大きい!!!!」
ベンチに腰を掛けて開口一番に発せられたその言葉。驚きのあまり叫んだ僕の口をなまえちゃんは慌てて塞いだ。そして二人して周りをキョロキョロと見渡す。だけど人気のない場所を選んだわけだ。当然、僕たちの話を気にする人はいなかった。
いや、それより何より彼女は「キス」と言った。「キス」それは魚の種類……ではないのはもちろんこの僕にだって分かる。それは口と口を重ねる行為。また敬愛を込めて口以外の部位にも唇を当てる行為。キス、口付け、接吻、チュウ。呼び方は実に様々。
早い子であれば小学生のときにするとかしないとか。そして僕たちは高校生だ。別にそれをしたからって悪いわけではない。それより何より彼女のその相手は誰かってことになるのだが……。
「だ、誰に?」
「………勝己に………」
「か、か、かっちゃん!?」
これまた僕はものすごく大きな声で幼馴染の名前を口にする。いや、そんなに驚くことじゃない、けど、心の準備が出来ていなかった。ただそれだけだ。
「そ、それは許可を得て……だよ、ね?」
それでも一応確認をしてみるが、なまえちゃんからは「はい」や「YES」という肯定の返事は聞かれない。いや待てよ、まさか………と嫌な考えが先走り、冷や汗がツーっと背中を伝っていく。
「もしかして無理矢、」
「ちがっ………うとは言い切れないけど」
「マジかよ……かっちゃん」
「同意の下だったらこんなに悩んでないよ」
いまにも泣き出しそうななまえちゃん。そして彼女は「うー」と唸りながら膝を抱えて小さく丸くなった。
かっちゃん、君ってやつは一体何してくれてるのさ。僕はかっちゃんが昔からなまえちゃんを好きなことは勘付いてた。そしてなまえちゃんも同じくかっちゃんのことが好きであることも。だから応援していたのだ。二人には幸せになってもらいたいと心から願っていたのだ。
それなのに無理矢理するだなんて。こんな展開ありなのか。いや、もう起きてしまったことは仕方ない。ただどうしてかっちゃんが強行突破に入ったのか、それが気がかりだ。誰よりも彼女のことを想い、大切にしたいはずなのに。それなのに彼女が嫌がることを果たして彼は選択するのだろうか。
何があったのかなんて安易に聞くわけにはいかない。なまえちゃんが傷つかないよう、言葉選びは慎重に。そして感情も彼女の眼に映らないようなるべく抑えていこう。
よし、と心を落ち着かせ口を開こうとすれば、僕より先になまえちゃんからポツリポツリと話し始める。そんな彼女の口から紡がれる「嫌悪」「拒絶」「絶縁」という、二人のことをいままでずっと見てきた僕からしたら疑ってしまうほどの言葉の羅列。でもそれは嘘ではない。信じたくないけど事実のようだった。
「どうすればいいのか分からなくなっちゃった」
尚も膝を抱えたままのなまえちゃんはそう吐き捨てる。
彼女が頭を抱える理由。たぶんそれはかっちゃんにキスをされたことではない。絶縁までされた彼の言葉と行動が矛盾している。だから困っているのだ。このまま彼が言ったように関係を断ち切るのか。それともまたズルズルと関わるのか。人より感情を読み取りやすい彼女だからこそ余計に悩み、もがき、苦しんでいる。
本当に嫌いだったら。関係を断ち切りたいのであればかっちゃんはとことん突き放すし、言葉も行動も彼を刺激するものは徹底的に全て消えるようそう過ごすだろう。それでも助け、手を取り、そして再び彼自身から関わりに行った。それだけで分かる。かっちゃんはなまえちゃんのことは嫌いじゃないことを。
やっぱり僕たち、そして君たちは切っても切れない縁なのかもしれない。僕とかっちゃんが長い付き合いの間一度も面と向かって話したことがなかったように、なまえちゃんもそれが出来ていない。そんな気がする。ならばもうやることは一つしかないと思うんだ。僕らは本音を言いあって漸く向き合うことが出来た。だからなまえちゃんもきっとそれが出来るんじゃないかって。
……でもただ話すだけじゃダメなんだ。壊さないといけない。君たちの壁を。そして『幼馴染』という関係を。
「なまえちゃん」
名前を呼べばゆっくりと顔が僕の方へと向けられる。真っ直ぐ向けられる目は綺麗で澄んでいて、それは昔から変わっていない。
「僕はもう大丈夫」
「え?」
「なまえちゃんが動けない理由は僕にもあるのかな、って」
彼女はとても慎重だ。だけど時折それとは真逆の大胆な行動をするときがある。それは大体は僕たちが関わっているとき。でもそれを制限させているのはいつだって僕の存在だった。彼女を、なまえちゃんを、縛り付けているのは幼馴染という関係だけではない。そう……僕なんだ。
昔からなまえちゃんは僕を贔屓目で見ていてくれていた。味方でいてくれた。それは僕が弱かったから、情けなかったから、そして無個性だったから。でもオールマイトに出会って個性を授かって、そして雄英に入って変われた。まだまだ迷惑も心配もたくさんかけてばかりだけど、猫背で地面しか見えてなかった世界は僕が思っているよりもっと広いことを知った。胸を張って前を見れば景色は色鮮やかで綺麗であることを知った。それが出来たのは君が、なまえちゃんがいたからなんだ。
「だからもう僕は大丈夫」
「い、」
「いままでごめんね。僕の味方でいてくれて、そしていつも『名前』で呼んでくれてありがとう」
「いず、く」
「君にとって必要なのは僕じゃない。かっちゃんだよ」
僕の憧れるヒーローはオールマイト。身近にいた凄い人、勝利のイメージはかっちゃん。そしてなりたいと思う強くて優しい人はずっと変わらない。君はヒーローにはなれないとそう言った。だけど君は、なまえちゃんは、いつだって僕にとってのヒーローなんだ。