修行2日目
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もぞり、と膝の上でルッチが身じろぎゆっくりと目を開けた。
目を覚まして早々、怪訝そうな顔でルッチは忍の顔を見る。
「お前…ちゃんと寝たのか?」
『あ、ああ。寝たぜ、うん。』
本当は眠っていないが、さらりと忍はそう答えた。
「そうか?隈があるが…」
ガッと頭をおさえ、顔を覗き込まれる。
彼が心配するとはなんとも意外だ。そんな心など持ち合わせぬ非情な男だと思っていたが、存外それは漫画だけの印象なのかもしれないなと思った。
じっと忍の顔色を見ていたルッチは立ち上がり、奥の部屋へと入っていった。
ほとんどなんの物音もたてず、何をしているのかと思いきや、出てきた彼は真新しいスーツに身を包み、片手にはもう一着スーツを持っていた。
「昨日、服がないと言っていただろう。俺のもやる。」
『お、ありがとう。』
「元から着ていた服と、昨日カクから貰った服は洗っておけ。風呂場の籠に入れておけば使用人が取りに来る。」
『ん、分かった。』
「俺は、朝飯を取ってくる。」
『ん、ありがと。』
必要最低限だけを自分に伝え、さっさとルッチは部屋を出ていった。
意外な面倒見の良さに驚きをかくせない。
最初はカクが良かったと思ったが、意外と心地よく暮らせるかもしれない。
まあそうだとしても夜の眠りのためには、一人部屋が最も望ましいのだが。
(今のうちに着替えておくか)
渡された大きいスーツを見て、忍はジャージを脱ぎ捨てた。
手早く着替えるが、最後のネクタイだけがうまく結べない。
『んー???』
思わず口に出して、色々と試行錯誤しているとドアノブが捻られルッチが戻ってきた。
「…だらしないな。」
『あ、やっぱ?ちょっとでけぇよな。しかも、ネクタイわかんねぇの。』
だらだらと大きいスーツに、全く正しくしめられていないネクタイ。
ため息をつき、持ってきた朝ごはんを机に置くと、ルッチは屈み袖を綺麗に折ってくれた。
それから、忍の手からネクタイを奪うと、シュルシュル綺麗に結んでいく。
『わ、ありがとう。』
「礼はいい。朝飯を食ったら、すぐ修業だ。今日は長官もいるらしい。」
綺麗に結ばれたネクタイに感激していると、さらりと今日の予定を伝えられた。
概ね昨日と変わりない予定ですすんでいくだろう。
持ってきてくれたパンに手を伸ばし噛り付いていると、丁寧な所作で食べ物を丁寧な所作で食べ物を口に運んでいたルッチが再度口を開いた。
「お前は、元々脚の筋力が強いみたいだから、今日は剃と嵐脚のコツを教える。動体視力はいい方か?」
『ほへなりひ(それなりに)。』
「飲み込んでから話せ。何を言ってるか分からん。」
慌てて口の中のパンを咀嚼する。
『それなりに。』
「じゃあ教えやすくていいな。」
そう言うと、また静かな空間が訪れた。
二人が食べものを咀嚼する音のみが聞こえる。
(しかし、こいつは何なんだろうか…)
ルッチは横目で忍を見た。
こうして飯を食ってる所は普通だ。…いや、むしろ不細工。顔はまあいいとして、あの訓練への対応力は正直驚いた。
普通、最初から六式の訓練なんぞに付いていけるわけがない。
昨日も、ついてこれないだろうと思い取り組ませたが、ヘロヘロになりながらも、最後までやり遂げた。
ましてや、忍の居た“らしい”世界だと、尚更この世界のやつよりも軟弱なものが多いであろう印象を受けた。
(こいつは、まだ俺達に話していないことがある)
しかもきっとそれは、大きな秘密なのだろう。
『何?ルッチ。』
「!いや…何でもない。」
『そうか?ま、いいや。早くいこう。』
「ああ。」
気づかぬうちに目線をむけていたらしい、とっくに朝食を腹に入れた忍が不思議そうに自分を見ていた。
立ち上がった忍を見て、ルッチは少し目を細めた。
どれほど聞いても、こいつは上手くはぐらかして言わないだろう。
そんな気がする…ならば。
(その時を待つしかないな)
話す気があるにしろないにしろ、世界政府に仇なす存在にならなければ自分にとってはどうでもいいことなのだ。
邪魔な存在になれば消してしまえばいい。
今まで、ずっとしてきたように。