修行1日目
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目元を覆ってくれたルッチの大きな手が案外心地よく、眠りには落ちないものの心地よい微睡みの中に意識をおいていた忍だったが、時間が経つにつれアルコールも抜け、だんだん頭が冴えてきた。
自分は何をしていたのだろうかと、思案する。
順をたどって思い出していると、だんだんとお披露目の席で無理矢理呑まされたことを思い出した。
その流れでふと、ルッチの元まで自分はたどり着いただろうか…と疑問に感じた。
ジャブラの元までは確か行った、スパンダムも水を渡してくれたような気がする。
だが、果たしてルッチのところには行っただろうか。
いくら考えても、やはりルッチのところへ自分は辿り着けなかったのだろうと思う。
それならば大変だ、どのぐらい時間が経ったのかもわからないが、彼の元へ行かねばなるまい。
つい、立ち上がろうと身体を動かすと、ドサリと重たい音がして何かが肩から膝に落ちた。
膝に目を向ける。
そこには、今しがた会いに行かねばと思った男の頭があった。
自分の肩で眠っていたのだろう、動いた拍子にずり落ちた彼は起きることもなく、今なお自分の膝で眠っている。
完全に記憶がない。おそらく、彼は自分をこの部屋に連れてきてくれたのだろう。
アルコールの力というのはおそろしいものだ、今後一切飲むべきではないだろう。
酔っている間に何か変なことを口走っていなければいいが、今更後悔してももう遅い。
自分の過去について誰にも勘付かれなければ、ここで穏やかに暮らしていければ。
幸せなのに、という考えが心の中にぽつんと浮かんだ。
(それにしても…)
ふと、膝の上のルッチの寝顔を見る。
CP9随一の殺し屋とはとても思えぬ、穏やかな顔だった。
つい、顔にかかっている髪をどかすついでに頬を撫でてしまう。
日本であろうがそうでない国であろうが、命を殺めたことのある人は割と多い。
恨みつらみで殺めた者や、自らの一族の人間からは聞いたことはないが、戦などで徴収され、命じられ、自らの命を危険に晒され、致し方なく手を汚したものは永遠と殺めた人間の亡霊が自分を呪っていると、精神的外傷を抱え、病んでしまう人も多いと聞く。
(ルッチにもそんな思いはあるのかな…)
そんなことを思ってから、ふっと口元に笑みが浮かんだ。
馬鹿らしい考えだ。彼に至ってそんなことはないだろう。
先程触った髪の毛は意外と柔らかく、なんとなくふわふわと手触りのいい髪を触りながら、自分の体の限界はいつだろうか…と考えてしまう。
いくら鍛えたとはいえ、人間の枠から外れるほど規格外なわけではない。
食べ物は十分にとっているとはいえ、眠りというのも人の体を維持するのに不可欠なものだ。
このままルッチと共にいれば、いずれ遠くない未来に限界は訪れる。
(本当に、弱いことは罪なのかもな)
弱くなければ。トラウマを抱えていなければ。
何に怯えることもなく、自分は眠れているはずだ。
色々なことを考えつつも、忍は慎重に上着を脱ぎ、ルッチにかけた。
『おやすみ、ルッチ。いい夢を。』
また頬を一撫でし、忍は物思いにふけることにした。