修行1日目
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「忍…お前、そこまで…」
忍がさらっと言い放った嘘に、あっさりとスパンダムは騙され、その声に感動を滲ませた。
「 そっかー。うん、分かった。じゃあ、ここに居てもらおう。スパンダムちゃん、この子宜しくね?」
自分の意がかなわなかったことも厭わず、青キジはサラリとこう言い放った。何も気にしない、気にした素振りを何者にも見せない。
彼らしい反応だった。
「勿論です。」
強くスパンダムは頷く。
「んー、んじゃ俺の用は終わったんでね?
お邪魔したね~」
来てすぐにも関わらず、用事のすんだ青キジは扉にむかい、踵をかえした。元よりあまり長居をするつもりはなかったのだろう。
それにしても、たかだか自分一人のために時間を割くなど、やはり彼は上に立つ人間にしては異端だと思う。
「大将青キジ。」
そんな彼を、ルッチが呼び止めた。
「何?」
「一件、この女について報告が。昨日、この女の道力を測りました。結果は150。」
ルッチの報告にさほど驚くこともせず、青キジはいつもの調子で口を開き、忍に目をむけた。
「へぇ、一般人よりは格段に高いね。何かしてたのかな?」
疑問形と共に自分に向けられた視線を、やんわりと笑い、忍は軽く受け流した。
そのやりとりを少し眺め、空気をこわすようにルッチは続けた。
「ですから、今日から六式の体得の為の修業をやらせています。構いませんか?」
「うん。全然いいよ。」
「はっ。」
サラリと一任で許可を出し、彼はその大きな背をゆらりとゆらして扉へ歩き出した。
「それじゃ、忍ちゃん。俺、もう帰るね。」
『お気をつけて。』
さっと頭を下げ、見送る。
その姿を見て、少し足を止め青キジは言った。
「それと、さっきの威勢のいい声、聞こえてたよ?そんなにかしこまらないでよ。」
ニヤリ、と言われたその言葉に思わず今までの無表情を崩し、目を一瞬見開きそれから苦笑する。
『ハハ…お恥ずかしい。』
よく見ていやがる、と少し悪態をつく。
「じゃーねー。」
そんなことも気にせず、神出鬼没な彼はエニエス・ロビーを後にした。
海に氷の道を作り、キコキコと自転車をこぎ始めた青キジを窓から眺め、忍は少し目を細めた。
「…君、何か隠してるね?」
『!?(なっ…気づいて…)』
帰り際、自分のそばを通った時小声で大将が言ったこと。
それを思い出し、ギリと歯を噛み締める。
自分がどんな顔をしたか覚えていないが、もしかしたら感づかれたかもしれない。シラを切れなかったかもしれない。
(俺の持つ秘密にたどり着く…………
そのカケラになるかもしれない。)
かつて、あれほどに焦り、同時にあれほどに"殺るか"と想いを抱いたことはあっただろうか。通りすがりの一瞬で、暗殺前のあの身体中の毛が逆立つような得体の知れない感覚を味あわせた男。
「どんな事か知らないけど、いつか皆には話してやりなさいな。」
それほどに彼は、簡単に自分の警戒線をこえてきた。
そんなに楽に話せるなら、苦労はしないものを。
そう考えると、例えようもなく湧き上がる不思議な感情を落ち着かせるため、彼女は血が出るほどに強く、拳を握りしめた。
去り際に、ピンピンに張り詰めた警戒の糸をたやすくぬけ、頭を撫でて行ったあの温もりが、何故だか酷く憎らしかった。