修行1日目
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二人は、長官の部屋へとむかうべく、なんの会話もないまま広い廊下を歩いた。
他の部屋より少し重厚な扉を、ルッチはノックすることもなくガチャリとノブを捻った。
「長官、ただいま参りました。」
「お前…ノックぐらいしてくれよ。あれ、もう修業終わったのか?」
少し顔をしかめて言う彼の言葉は、尤もだと忍も思う。普通、目上の人間でなくとも部屋へノックしてから入るのは、当然の礼儀だ。
だがしかし、普通の人ならもう少し怒ってもよさそうなものを、スパンダムはその程度ですませ、すぐに後ろの忍の姿を確認し、彼は話をうつした。
『ああ、早めに終わらしてくれたんです。で、長官?用事って何スか?』
「おー。それな。それがな、お前の事を上に報告したらな、大将“青キジ”がお前に会いたいんだと。」
大将が一介の人間に会いたいなどという、大それた出来事なのに、軽い調子でニヤニヤとスパンダムは伝えてきた。
彼のニヤニヤの意図もつかめず、ただただ彼女は驚きを示す。
『マジっすかぁぁ!あの、大将があ!?』
「そうだ。でな、明日にはいらっしゃるらしい。…!?」
ニヤリと口角をあげたまま、ピシッと人差し指をたてて言ったスパンダムの指を、とても大きな誰かの手が掴む。
「ごめんね、スパンダムちゃん。待ちきれなくて今日来ちゃった。」
子供が遊ぶ時のように、スパンダムの指を握ったまま彼---大将青キジは、その高い背をおりスパンダムの顔を覗き込んだ。
「「『青キジ!?」」』
3人の声が見事に重なる。
当たり前だ、スパンダムの後ろに位置する彼の存在に、誰も気がつかなかったのだから。
いつからいたのだろう、はたまたいつ移動したのだろう。
ルッチすら気づくことができず、少し悔しそうな様子が彼からは見て取れた。
冷静にそんな事を考えていた忍と違い、ルッチと長官は青キジに向かって頭を下げた。
その二人の態度に、忍も慌てて彼らを見習う。
「あー、いいよいいよ。顔、上げて?」
やんわりとそう伝え、皆の顔が確認できるようになってから、青キジはポリポリと頭を掻き忍にむかい口を開いた。
「君だね。なんか、異世界から来たとか言う…」
スッ…と、目を凝らすように眼光が鋭くなる。
流石というか、なんというか。
《だらけきった正義》を掲げてはいても、そこは大将。
目力と、与えられる気迫は凄まじい。
ゴクリと生唾を飲み、彼女は声を震わせないよう腹から声を出すようにして、凛とした態度で彼を見上げた。
『はい。名を龍越忍と申します。直ぐに挨拶にお伺いせず、申し訳ございません。』
丁寧に挨拶をする、見たこともない自分の姿に、ルッチも長官も目を丸くしているが、彼女は気にしない。
「ま、そんなかしこまらないでよ。楽にして。」
眉を少ししかめ、ひらひらと手を振りながらそう言われるも、そんなこと出来るわけねぇだろと、心の中で呟く。
目上の人に対する礼儀は、文字通り“体に叩き込まれて”教えられたのだから。自分より強い相手には、どうするべきかも。
「面白いって聞いて見てみたくてさ。なにせ、CP9最強の男に気づかれもせずベッドにいるって…なかなかないよね。」
少し脂汗をかいて、乾いた笑いをこぼした彼女に気づいたか否か。真相は分からないが、青キジはそのまま話を続け、クククッ…と面白そうに笑った。
『はあ…』
「あ、センゴクさんには俺から話通しておいたから。わざわざ行かなくてもいいよ。大丈夫。」
『お手を煩わせてしまい、申し訳ございません。有難う御座います。』
なにかと先手を打ってくれた大将に、恭しく頭をさげる。
「それでね、いきなりなんだけど…君、これからどうする?」
楽しそうに話していた声の調子をかえないまま、彼はサラリとこう伝えてきた。
どきり、と軽く心臓が跳ねる。
「青キジ、それは」
スパンダムが助け舟を出すべく口を挟むが…
「黙ってて、スパンダムちゃん。俺、忍ちゃんに聞いてるの。」
そう言われ、大将相手に言い返す事など出来る訳もなく、長官は押し黙るしかなかった。
「別に、ここにいなくてもいいんだよ?君の好きに選べばいい。」
青キジは、選択肢を出してくれた。…ように見えるだろう。
だが忍にとってそれは、生きる道を消されたようにも感じる。
何もわからない世界で、女一人が生きていけるほど甘くないだろうに。この世界の字も読めない、勘定の仕方も分からない。
そんな自分が生きていける訳など、ない。
優しそうな仮面をかぶっているが…明らかに、自分を追い出そうとしていると、彼女は感じてしまった。それはあながち間違ってもいないが、その青キジの心理を彼女は知らない。
『私は、ここに居たいと思っております。例え、ここがどんな機関でも。』
青キジのその思惑をふまえ、それでも尚彼女はこう発言した。
「何か出来るの?」
彼の能力に相応しい、冷たい目が彼女を凍てつかせようとする。
"必要のない人間はいらない"
きっと青キジはそこまで言わないし、思ってもいないのかもしれない。だが自分は……
自分はそんな目を向けられて育ってきた。慣れている。
怖じけづくことはない。
自分の居場所ぐらい、自分で掴め。人であろうと獣であろうとそれは変わらない。
(チッ…)
けれど、感じる威圧感に緊張せずにはいられなかった。心の中で、驚異にたいして逃げようと構える自分に対して舌打ちをうつ。
『……家事なら全般はいけます。(たぶん)』
さらりと息をするように、嘘をついた。声は震えていないはず。
「ん、そっかー。ならいいかな。でも、本当にいいの?世界は広いよ?」
その答えが、あからさまにうそだと気づいているだろうに、青キジは何も言わなかった。
『私は、まだ二日しかこの世界に居ません。けれど、この二日でここを離れるのは辛いほどCP9の皆の優しさを知りました。(実はそうでもないけど)ですから、私はここに居たいんです。』