修行1日目
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スパンダムが差し出してきたサンドイッチを手に取り、忍は齧り付いた。
『ん、うめぇ!』
その美味しさに、目を輝かせる。
「だろ?俺様を見直したか?」
『え、何これ長官が作ったんスか?コックとかでなく?』
「おおよ。ありがたく思え!」
得意げにドンと胸を叩かれるが、忍は一言、こう言い放つ。
『…暇なんスね…』
「ひでぇな!?お前の為を思ってだな、仕事の合間を縫って作ってやったんだぞ!」
本当のことを言った忍にスパンダムは反論するも、密かに聞いていたカクとルッチも日頃からそれは感じていたので、何もフォローはしない。
必死なスパンダムの言葉をさらりと聞き流し、もぐもぐと忍は咀嚼を続けた。
『へー。まあ、旨いのは事実ですし…ここは悔しいけど素直に誉めときます!!サンキューっす!』
感謝の言葉に、スパンダムは嬉しそうな様子を見せくるりとカクとルッチの方を向き笑いかけた。
「おう!ほら、カクとルッチも…ヒィッ!!」
『?』
小さく聞こえた長官の悲鳴。
何事かと思ってそちらを見ると、二人ともどす黒いオーラを放っていた。
『え…何…?二人とも何でそんな怒ってんだ?』
鈍い忍の言葉に、ぶっきらぼうにカクが言い返す。
「五月蝿い、何でもないわい。いただきます!」
「チッ…」
ルッチも不満げな様子を見せ、二人は黙々とサンドイッチを食べ始めた。
その二人の気持ちに、全く忍は気づかない。
「あ、そうだ忍。」
『何スか?』
もちろん、スパンダムも気づかずに平然と彼女に話しかける。
二人が耳をそばだてたことにすら、やはり気づかない。
「修業終わったら長官室に来い。あ、あとそのサンドイッチの籠も持ってきてくれ。伝えなきゃいけねぇことがあるもんでな。」
『うーす。』
伝えられたその言葉に、まあきっとたいした用事でもないのだろうと、去っていくスパンダムの背中に手を振る忍。
「おい、忍。」
『何でしょう。』
長官が去ったあと、モフモフとサンドイッチを食べている忍に、ルッチから声がかかった。
「午後からの修業は無しにしてやる。」
『マジで!!』
伝えられた言葉はなんとも嬉しいもので、本音が口から出る。
「まぁ、初日じゃしのう…むしろ、ここまでよく付いてきたわい。無理かと思うたがのぅ。」
にかっと少年のような笑みでわらい、カクはその長い綺麗な手を伸ばしてきた。
よしよしと、頭を撫でられる。
『…!』
生まれてからほとんど誰にもされたことのないその感覚が、不思議と心地よかった。
この感情をなんと呼ぶのだろう。
つい、撫でられた頭に手を伸ばした忍。その顔は少し綻び、嬉しそうだ。
「……じゃあ行くぞ。」
その様子をじっと眺めていたルッチは、おもむろにそう言い立ち上がった。
『何処に?』
慌てて持っていたサンドイッチを口に詰め込み、忍も後を追う。
「…ハァ…何処にだと?お前、さっき長官室に呼ばれてただろうが。ほら、早く来い。」
『あ、そこか。分かった。』
「忍ー!また後での~」
『おう!今日は修業してくれてあんがとな!またな~』
ルッチに言われるがままその場を去ろうとした忍は、見送るカクの言葉に快く手を振った。
「早くしろ。」
『ん。』
歩みを止め待ってくれていたルッチに急かされ、慌てて下に置いていた籠をひっつかみ、彼女はルッチの元へと走り寄った。
――――――(カク)
二人が去ったあと、カクは立ち上がりパンパンとお尻の埃を払う。
その彼の頬は、恋を知ったばかりの少年のような、うっすらとした紅に染まっていた。
(なんじゃ、あの最後の笑顔は…)
ときめく、とはこういうことを言うのだろう。ギュッと胸をしめつけられたような、そんな感覚が心地良い。
年相応に女性との経験はあるが、こんな感情は幼い頃からCP9のカクには無縁のものだった。
一目惚れなどそんな胡散臭いものはない、と思っていたがその考えは改めようと思う。
これは一目惚れだ、と自分の胸をおさえ薄く笑う。
(どうやらライバルも多そうじゃしのぅ…)
彼女は妙に、人の心を掴むのがうまい。恋愛感情とは関係なく、だ。
その事実は…………
暗殺にも、関係する。
人の心に漬け込むのがうまいのならば…彼女はこれからもCP9の中で、重宝されるべき存在となってしまうだろう。
その未来に、カクは少し顔を曇らせた。
(…あの、時折見せる哀しげな面影…)
無理に明るく振舞っているように、カクには見えた。
まるで"ワシと同じように"、無理をしていると。そう感じた。
ふっと、ウォーターセブンでの任務を思いだす。
(何もかも自分で背負ってなければよいが…)
考え込むようにしながら、カクは一人練習場を後にした。