修行1日目
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忍が着替え終わり、三人で移動してきたのは広い武道場。三人でこんな広さが必要なのだろうかと思うが、普段は海兵達が大人数で訓練に励んでいる場なのだろう。
「よし。では今から六式修得の為の修業を始める。」
ルッチはピシリとシワのないスーツで腕組みをして、ぎろりと忍を睨みそう言い放った。隣のカクは、ジャージ姿でワクワクした顔で準備体操をしている。
『はい。』
至極真面目な顔で返事をした忍に、ルッチは最初の指示を出す。
「まず、一周…200mある。ここを350周走ってこい。最初だから軽くしてやる。」
『!!』
思わず、嘘だろうと聞き返したくなる。これで軽く?流石漫画の世界だ、ぶっ飛んでいる。きっと彼等ならフルマラソンなど屁でもないのだろうなと思う。
そのあまりの指示に、うわぁ…という顔をしてしまった忍を、ルッチは見逃さなかった。
「文句があるなら増やす。」
(げ、バレてる!)
そんなに顔に出ていたか、とペタペタ頬を触りながら、慌てて忍は言った。
『ギャー!!やりますやります、走ります。』
「安心するんじゃ、忍。ワシが生暖かい目で見守ってやるわい。」
『るっせー!バカク!!ガッツポーズしてんじゃねぇよ!生暖かい目って何だよ!てめぇもやりやがれ!!』
「なんと!女子が汚い言葉を使うでない。」
それでもカクは、走り始めた彼女の後ろについていくように走り出した。
ジャージ姿で準備体操をしていたのだから、最初からやるつもりだったのだろうが。
ならば素直になればいいものを。
いや、その素直でないところが彼の優しさか。たった二日でそれに気づかせる、あっけらかんと能天気で実は策士なカクの性格に少し口角を緩ませる。
「のーのー。忍ー。」
二人はなかなかの速さで走っていたが、まるで普段と変わらない様子で、カクはニコニコと忍に問いかけてきた。
『何だ?』
走っているのだから集中させろ、と言わんばかりにぶっきらぼうに彼女は答える。
「主は何でそう男のように話すんじゃ?」
『……』
忍は悩んだ。
彼等は、忍の家柄も知らないし唯一世間に知られている家訓も知らない。
だから、裏の世界の一族のことではなく表の世界の一族のことから話す必要がある。
何か言おうと口を開きかけ、またすぐに忍は口を閉じた。
なぜだか彼等には、表の世界の私達のことでも知られたくないと。
そう思った。
理由は分からない。胸の中がモヤモヤと、得体の知れない感情で埋め尽くされたような、そんな感じがした。
『んー。たんにこの話し方が好きだから。ほら、俺女っぽくねぇだろ?いっそのこと男に生まれりゃ良かったのにな。』
だから彼女は嘘をついた。
否、あながち嘘でもないのかもしれない。
自分が言った言葉に、心の中で頷く。
男だったら…何度思っただろう。
男に生まれていれば、認めてもらえていたかもしれない。
あの人に、受け入れてもらえたかもしれない。
ぎゅう、と強く拳を握り締める。
その様子を密かに見ていたカクは、少し探るようだった丸い目をすぐに無邪気な色に染め、にっこりと問うた。
「何故じゃ?ワシは主が女で良かったわい。それにの、確かに女っぽくはないが、主は可愛い顔をしとるぞ。」
『!?』
ニッと笑ったカクが放った言葉は、彼女には無縁の言葉だった。
思わず素でかたまってから、らしくもなく、頬が熱くなるのを感じた。
「!ほぉ…赤くなりおって。可愛いのぉ。」
『う、うるせー!黙れ!』
にやりとからかうカクの笑みに、もっと真っ赤になって怒鳴りつけた。
忍もまた、化物のような一族の出。人並みならぬその体力は、常人ならばすぐに根を上げる以上の周回数を、いとも簡単にカクと話しながらこなしていった。