修行1日目
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日が沈まない島の朝は、時間通りに囀る鳥の声で始まる。
『くっ…』
忍は、その声にぱちりと目を開け少し呻いた。
身体が痛い。ぐるりと肩甲骨から回すように肩をまわすと、バキバキと音がした。
『ッハアァ…』
柔らかくて広いソファーだが、それでもベッドには敵わない。
『………ベッド…』
ぽそりとそう呟き、ルッチの寝室へ目をやる。
ルッチと添い寝など、命を取られかねない。
そもそもに自分は、過去の精神的障害の所為で誰かの気配を部屋に感じると眠れない。
(早く克服しねぇとな……)
人間が不眠不休で過ごせるのは、せいぜい3,4日。
このままだと身体がもたずに壊れるのは、目に見えている。
(精神的外傷(トラウマ)なんて…俺が弱い証拠だ。)
もう、あの人はいない。あの人はいないんだ。
そう、言い聞かせる。
尤も、そんなこともう分かっているのだが。
分かっていて尚、治らないからそれを精神的障害(トラウマ)と呼ぶのだ。
(ま…)
グチグチ悩んでもしょうがないのか、と開き直る。
悩むなら、行動に移す方がいい。できれば、だけれど。
忍は、伸びをして立ち上がった。
ともかく早く、気持ちの整理をつけよう。こんな事を思っている時点で、落ちこぼれであるが。自分を罵った父親の顔が脳裏をよぎり、一瞬忍は顔を曇らせた。
『ん…』
顔でも洗おうと洗面台へ向かうと、ルッチの姿が見当たらないことに気がついた。
(俺は一晩中起きていたのに…)
彼が出ていったことに気がつかなかった。流石というべきだろう。
兎にも角にも、自分は勝手に部屋を出ることを禁じられている。
このまま部屋にいる以外選択肢がないから、ルッチには早く戻ってきてもらわねば困ってしまう。
とりあえず、昨夜渡されたタオルケットを畳んでいるとコツコツと硬い足音が聞こえた。
ルッチの革靴の音だ。
「おい、忍。今から六式の為の修業を始める。」
『!?』
戻ってきて早々、挨拶すらなく(まあ、されるとは思っていなかったが)ルッチはそう言い放った。
なんとも気が早い。
驚く忍を余所に、淡々とルッチは続けた。
「今日は俺とカクが教える。」
忍は少しため息をついた。早朝からの修行は慣れているからいいのだが…
『ルッチ。俺、着替えたい。』
昨日からの願望をようやく口にできる時がきた。
「持ってきていないのか?」
きょとんと、ルッチは首をかしげた。
当たり前だ、誰がこんな世界にとばされると思っているのだ。
準備などしてるはずもない、着の身着のままで自分はトリップしてしまっている。
「そうか…じゃあ」
少し考え、ルッチが自分の寝室へ踵を返したとき。
バーン!!
「話は聞いたぞ忍ー!」
『うお、カク?』
長鼻の彼が、思い切りドアを開けてきた。
手には服が抱えられている。
扉の前でずっと耳でもくっつけていたのだろうか。だとすれば、予想以上に彼は変人…ということになりそうだ。
「ワシのジャージをやるわい。ジャージなら動きやすいじゃろ?」
『お、さんきゅー。』
しかし服を借りられるのは有難いので、素直に礼をいい忍はジャージを受け取った。
カクの方が身長も手足も長い。
おそらく大き過ぎるだろうが、捲ればなんとかなるだろう。
『あり、ルッチ?どした?』
ジャージの丈を確認していた忍が顔をあげると、不機嫌そうな顔でルッチが寝室からソファへ座っていた。
「…いい。何でもない。早く着替えろ。」
くい、と親指で後ろの寝室を示しまたむすっと腕組みをしてしまう。
なぜルッチの機嫌が急に優れなくなったか、忍は分からない。勿論、カクは理解していてニヤニヤと嬉しそうに口角を緩ませている。
『あの…ルッチ。奥の部屋で着替えていいか?』
男二人がいるところで着替えるのは気が引ける、と忍はおそるおそるルッチに問いかけた。
もっともルッチは、最初から自分の寝室で着替えろと暗に言ってくれていたのだが。
一応許可をとるあたり、なんとも彼女は律儀だ。
「何じゃ?そこで着替えんのか?楽しみにしとったのに!」
ぶー、と口を尖らせカクはふざけてそういった。
その冗談に困ったように笑い返す。
(俺の体は…人に見せられるようなもんじゃねぇ。)
過去の苦い記憶が蘇り、ゴクリと忍は唾を飲む。
「構わん。早くしろ。」
『うす!』
その忍の様子に
気付いたか否か、ルッチはくいと顎を動かし彼女を急かした。
スタスタと奥の寝室へ歩く忍の背中を見るルッチの目は、どこか探るような目だった。勿論、カクも。