見知らぬ世界
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「………」
『…………』
広い廊下に、ルッチの革靴の硬質な音と忍の裸足の足音が響く。
無駄なお喋りなど好まなそうなルッチのことだから、期待はしていなかったがこれほどに無口だとは。
正直、この移動時間になんの会話もないのは気まずい。
「…」
そろそろ、自分からなにかきりだすか、と忍が悩み始めたときだった。
いきなりルッチが立ち止まる。
どうやら部屋についたようだ。
(けど…)
ぐるりと、忍はあたりを見渡した。
似たような扉ばかりが、ずらりと並んでいる。
(場所覚えねぇとな。
間違えて、なにか大切な部屋に入りでもしたら…)
その後のことは、想像に難くない。
『お、おじゃましま~す…』
スタスタとルッチが歩み行った彼の部屋に、そーっと踏み入る。
(さっきも思ったけど…)
随分とシンプルな部屋だ。
必要最小限のものしか置かれていない。
「おい。」
『はいぃ!』
少し気を抜いていた状態で話しかけられ、思わず心臓がとびはねた。
緊張した面持ちで振り返れば、至極冷たい目でルッチに睨まれていた。
「他の奴等はお前のことを信じたようだが、俺は信じてなどいない。怪しい様子を見せれば、すぐ殺す。」
『は、はい…』
「俺に無断で何処かへ行くことも禁ずる。俺は監視役だからな。」
まあ、それは当然だろう。
自分が同じ立場なら、同じことをする。寧ろ、口を塞いだり動きを封じたりなども、軽くするかもしれない。
拘束されていないだけ、まだ良心的だろう。
『……』
まだ何か言われるかと身構えてみたら、どうやら言いたいことは言いきったようだ。
またすぐに沈黙が続く。
「…おい。」
『!』
「いつまで突っ立っているつもりだ。」
ルッチがポンポンとソファーの隣を叩いていた。
そこに座ってもいいということだろうか。
確かにこのままずっと立っている気はないが…
『……』
忍は少し考えてから恐る恐る、なるべく離れるようにして静かにソファーに座った。
「ルッチ。」
『へ?』
突然、ルッチが自分で自分の名を呼ぶ。
何が伝えたいのか分からず、すっとぼけた変な声を出してしまう。
「俺のことも呼び捨てで構わん。敬語も使うな。」
そっぽを向きそう言われ、ようやく彼が何を伝えたいか理解する。
そうか、そういうことか。
案外、彼は見栄っ張りなのかもしれない。
垣間見えた本当の彼が可愛くて、少し心の中で微笑む。
『はい…あ、うん。』
忍の返事を聞き、漸く満足そうにルッチは口角をあげて笑った。
ここに来てから、初めてルッチの笑顔を見た。
かっこいいとも可愛いとも形容し難い、なんとも不気味な笑みだけれど。
もっと見たいと、少し思う。