太陽の光をかり煌々と闇夜を照らす月明かりも、何万光年も先の光を地球へ届けている星明かりも、この街には関係ない。

そう、深夜にも関わらずネオンを光らせている街、東京には。



「ッカハ…ゲホッ…何…だ、お前は!!」


明るい東京の夜の街から、一歩入った路地裏。ぐったりと酔っ払ったサラリーマンが寝ているわけでも、ガラの悪い男に絡まれている誰かがいるわけでもない。

そこには、闇を背負った"少年"と腹から血を流す男がいた。あまりにも、あまりにも……場違いすぎる。

鋭利なナイフで内臓を傷つけられ、それでも"生"にしがみつきたがる男は、刺された腹をおさえながら上を見上げ問うた。

その問に、クツリと少年は笑う。心底バカにしたような冷たい光を宿す、真っ黒な目が、なぜか男には闇に光って見えた。

「お前はどうせ死ぬ…だから教えてやろう。俺の名は…」

思わず聞き惚れるような、耳に心地よい低音で述べられた綺麗な声は、闇の世界の人間なら誰しも聞いたことのある名を名乗った。

「龍越忍」

その名に、男は目を見張った。
当たり前である、少年の名乗ったその名は…

「…龍越だと!?裏世界の殺し屋のトップ…く、そが…俺ぁまだ…」

日本はおろか、世界中のマフィアすら手を出す時には相当の覚悟と下準備を行う、それほどに昔から全世界に力と名を馳せている一族の名だったのだから。

男は、無様にも体を引きずりなんとか少年から逃げようと試みた。
無論、それは叶うことなく少年は容赦なく男を足蹴にした。

うめき声すらあげず、まるでボロ切れのように男の体が蹴り飛ばされる。
ごみ山にぶつかり、ぐったりと頭垂れたその骸の脈を確認し、少年はなんの感情も見せず淡々と言葉を発した。


「…ん、死んだね。任務完了。」


これで少年に課せられた任務は終わった。これでこの街にも、骸にも……用はない。
ぐい、と口元を隠す覆い布を外し、くるりと踵をかえす。
返り血にまみれた黒い服を無造作に掴み、少年は光り輝く街へと足を踏み出した。

普通なら街からは悲鳴が上がっただろう。返り血にまみれた人間など、見かけることはまずない。

けれどそんな声が上がることはなかった。

当たり前である。

なぜなら、その子の服装は制服に通学鞄という、至って普通の女子高生の格好だったのだから。


果たして誰が思うだろうか？


“今通りすがった女子高生が殺しをした”のだと。