このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

日記(名前変換なし)

ジャージ

2021/12/23 19:10
社会人女主と蓮二
20211218

*

 うららかな土曜日の午前。お仕事はお休みなので、私は一人暮らしのアパートで朝から家事をしている。
 一通りの洗濯物を干し終えて、私はちらと押入れを見る。
 ……はあ、違和感。
 そこには、今朝洗った洗濯物から離すようにして、立海テニス部のレギュラージャージが掛けてある。長押に掛けたハンガーが落ちないよう、押入れのふすまは半開きだ。みっともないので、蓮二が部活を終えて訪ねてくるまでには片づける予定だ。

 蓮二の洗濯物が私の家にあるなんて一見不健全極まりないけれど、元は昨日の雨が原因だった。蓮二が部活を終えたとき、雨の勢いが一番強い時間帯だったようだ。とはいえ学校も施錠されるので、急いで帰らねばならなかった。
 蓮二一人ならば、傘があるので問題なかった。しかし、天気予報を見ていない学友がいたようで、制服の上から被れるよう、蓮二が予備に持っていたジャージの上着を貸したらしい。とはいえ土日とも部活があり、もしジャージの返却が遅くなると不都合なため、貸したジャージは分かれ道で奪い返したのだと。結果、蓮二はびしょ濡れのジャージを抱えて私の家に現れたのだった。
「それ、持って帰るの大変でしょ」
 げんなりした蓮二に私が手を差し出すと、蓮二は小さく首を振った。
「だが、今日持って帰らないと、明日のジャージがない。大丈夫だ」
「2着あるんでしょ。今日練習で使ったのと、その濡れてるやつ。練習で使った方をお家で洗いなよ。濡れてるほうはうちで乾かして、明日の帰りに取りに来たらいいじゃない」
 明日も顔を見せてくれるでしょ、と笑うと、蓮二は苦笑しつつジャージを渡してくれた。
「ついでに、靴下も、スラックスも洗うよ。ドロドロになってる」
「こら。身ぐるみを剝がすな」
 どさくさ紛れにお泊りになだれ込むのは失敗した。

 そんなこんなで、昨日のうちに干した蓮二のジャージが我が家にあるのだった。一晩中エアコンをつけていたし、今日は空気がカラッと乾燥しているので、蓮二が部活を終えるまでには問題なく乾くだろう。
 そっとジャージを手に取り、生地に指を滑らせる。使い込まれて、あちこちの布が薄くなっている。よく見ると、目立たないように裏から繕われている箇所がある。
 ごつごつとした感触があったのでファスナーを開けると、裏地にひっそりと名前が刺繍されている。セミオーダーで見えない部分にお金が掛かっているのは、さすが私立中のテニス部といったところか。
 ふと思い出して、押入れをあける。すっかり忘れていたけれど、うちにはもう一着、蓮二のジャージが置いてある。とはいえサイズが小さくて、今の蓮二ではもう着られなくなったものだ。
 取り出して、今のジャージと並べて掛けてみる。
 小さいジャージは名前の刺繍がない。蓮二の先輩から受け継いだらしい。成長期の中学生にとっては、ジャージの生地がろくに痛む前にサイズが変わることも珍しくないらしく、名前の刺繡がないレギュラージャージを小柄なレギュラーで使いまわすのだそうだ。ただ、蓮二の代が強すぎて、次の世代にレギュラージャージを回すことがなかったため、着られなくなった今も蓮二の手元に……というか、いつの間にか私の手元にあるらしい。
 何がきっかけで私の家にあるのかも私は忘れたけれど、蓮二の記憶力で、大切なジャージを忘れるはずがないと思う。なんで置きっぱなしにしてるんだろう。
 いつの間にか、じわじわと蓮二の私物が増えている自室を見回す。
 ……昨日は私が蓮二を引き留めたけど、どちらかというと蓮二が私の家に居つこうとしているみたいじゃない? 無言の根回しに気づいて、私はちょっと怖くなった。

コメント

[ ログインして送信 ]

名前
コメント内容
削除用パスワード ※空欄可