後輩女子×蓮二
20191127

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　蓮二の長い指が、ぎこちなく鍵盤を押す。運指に気を取られ「猫の手」が崩れては、慌てて指を丸める。また鍵盤を押す。間違えた鍵を押し、不協和音が鳴る。
　小指で鍵を鳴らしたあと、音が止まる。私は楽譜を指しながら、蓮二に話しかける。
「ほら、少し前のここ。この音で親指をくぐらせる」
「む……」
「あと七音先まで上がるから、五本指じゃ足りないでしょ。運指は法則性があるから、覚えたら簡単だよ」
「理屈は単純だが、実践はなかなか難しいものだな。左手と右手で違う動きをするのがどうにも」
「テニスだって両手で違う動きするじゃん」
「テニスでは、指を複雑に動かすことがない」
「そういうもんかなあ」
　蓮二が、また初めから弾き始める。普段はなんでも器用にこなす蓮二なのに、不器用に戸惑う様子がなんだか可愛い。緊張した横顔と、こわばった指を眺めながら、不規則な音色に耳を傾ける。