ほぼネームレス小説ですが、たまに名前を呼んでもらえます
短編夢
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やっと午前中の試験が終わった。大きく伸びをして固まった体をほぐす。
土曜日の模試はハードだ。休日なのに朝から登校して、みっちり記述問題を解き続けるのだ。
でも、メリットもある。平日と違いテニス部が朝から練習しているので、模試の合間に練習を見学することができる。
ごはん買ってくる、とクラスメイトに伝えてひとり教室を出る。今日は暑いな、と強い日差しに目を細める。せっかくこの暑さの中でてきたんだし、時間いっぱい見学したい。コンビニでさっさと買い出しをすませ、足早にテニスコートへ向かう。
「あれ」
コートではいつも通り部活が実施されているのだが、なぜか蓮二の姿が見当たらない。不思議に思いつつ周辺を見回すと、コート近くの木の根元で誰かが座り込んでいるのに気付く。
幹を背に、長い脚を窮屈そうに折り曲げて動かない。俯いているから顔は見えないけれど、その体格と、濡れ羽色の髪の毛には覚えがある。
ゆっくりと近付いてみる。私の足音は聞こえているはずなのに、顔を上げない。木漏れ日の中で死んだように動かない彼に、声を掛けようか迷ったけれど。寝ているわけではなさそうなので控えめに声を掛ける。
「蓮二」
「……。佐和子」
蓮二が緩慢な動きでこちらを見る。顔が赤く、汗が珠になって浮いている。眉間に皺を寄せて、唇を震わせる。ジャージの上着を珍しく脱いでおり、傍らに放り出してある。様子がおかしいのは明らかだ。
追い返されなかったのをいいことに、並んで腰を下ろす。
「大丈夫?」
「日差しに、負けた。立てない」
「そっか」
蓮二は日光に弱い。通学のときは基本的に日傘を差しているが、部活中はそうもいかず、調子が悪いと日光に負けてしまうこともあるのだという。今日はちょうどダメな日だったんだろう。
私はコンビニの袋からペットボトルを取り出す。
「まだ開けてないお茶あるよ。冷えてて気持ちいいかも」
あげる、と蓋をゆるめたお茶を差し出すと、蓮二は素直に受け取った。ペットボトルを力なく傾けて、こくこくと、二口だけ飲む。音に合わせて喉が動く。汗が一筋、髪から首を伝い、ユニフォームの中に消えていく。
蓮二が、傍らに置いていたタオルを手に取り、顔を覆う。額や首の汗を拭っているけれど、あんまりスッキリはしていなさそう。私はコンビニの袋からお手拭きを取り出して、蓮二に声を掛ける。
「拭いてもいい?」
ひんやりシートとかじゃないけど、きっとないよりはマシだろう。蓮二は私を見て、少し考えてから「ありがとう」と小さく呟いた。拭きやすいように顔を寄せてくれる。私は近付いてきた蓮二の肩に手をかけて、そのまま私の膝に寝かせる。蓮二が戸惑ったように私を見上げるけれど、あやすようにぽんぽんと頭を撫でてあげると、大人しく目を閉じる。
前髪をかき分けて、おでこをそっと拭く。汗が浮いていた鼻筋や頬をなぞり、耳の裏へ。くすぐったそうに蓮二が身じろぎする。はあ、と漏れる息が気持ちよさそう。
「練習のときは帽子かぶったら? いくらか予防になるんじゃない」
声を掛けながらお手拭きを裏返して、顔の反対側を拭く。蓮二が、拭きやすいようにもぞもぞと顔を動かしてくれる。あおむけだった体を横にして、私の方へ。ブラウス越しに、私のお腹に蓮二の熱い息がかかる。
「ん……」
蓮二は掠れた声で呟いて、そのまま黙りこむ。頭が働いていないんだろう。口数が少ない蓮二は新鮮で、なんだか不安になる。
蓮二の首元を拭きながら、ちらと腕時計を見る。うん、まだいても大丈夫。少なくともテニス部が休憩に入るまではついていてあげたい。このままだと蓮二、一人で倒れちゃいそう。
汗を拭いて少しはスッキリしただろう首元に、冷えたペットボトルを当ててやる。蓮二は驚いたように、は、と息を吐き、気持ちよさそうに目を閉じる。表情が弛緩して眉間の皺が消える。いくらか楽になったのかな。安心して、私もほっと息をつく。
早く元気になってね。蓮二の、汗に濡れた髪の毛をすきながら、火照った顔にこっそりと念を送る。
* * *
13「木漏れ日」「帽子」「喉」
お題元
土曜日の模試はハードだ。休日なのに朝から登校して、みっちり記述問題を解き続けるのだ。
でも、メリットもある。平日と違いテニス部が朝から練習しているので、模試の合間に練習を見学することができる。
ごはん買ってくる、とクラスメイトに伝えてひとり教室を出る。今日は暑いな、と強い日差しに目を細める。せっかくこの暑さの中でてきたんだし、時間いっぱい見学したい。コンビニでさっさと買い出しをすませ、足早にテニスコートへ向かう。
「あれ」
コートではいつも通り部活が実施されているのだが、なぜか蓮二の姿が見当たらない。不思議に思いつつ周辺を見回すと、コート近くの木の根元で誰かが座り込んでいるのに気付く。
幹を背に、長い脚を窮屈そうに折り曲げて動かない。俯いているから顔は見えないけれど、その体格と、濡れ羽色の髪の毛には覚えがある。
ゆっくりと近付いてみる。私の足音は聞こえているはずなのに、顔を上げない。木漏れ日の中で死んだように動かない彼に、声を掛けようか迷ったけれど。寝ているわけではなさそうなので控えめに声を掛ける。
「蓮二」
「……。佐和子」
蓮二が緩慢な動きでこちらを見る。顔が赤く、汗が珠になって浮いている。眉間に皺を寄せて、唇を震わせる。ジャージの上着を珍しく脱いでおり、傍らに放り出してある。様子がおかしいのは明らかだ。
追い返されなかったのをいいことに、並んで腰を下ろす。
「大丈夫?」
「日差しに、負けた。立てない」
「そっか」
蓮二は日光に弱い。通学のときは基本的に日傘を差しているが、部活中はそうもいかず、調子が悪いと日光に負けてしまうこともあるのだという。今日はちょうどダメな日だったんだろう。
私はコンビニの袋からペットボトルを取り出す。
「まだ開けてないお茶あるよ。冷えてて気持ちいいかも」
あげる、と蓋をゆるめたお茶を差し出すと、蓮二は素直に受け取った。ペットボトルを力なく傾けて、こくこくと、二口だけ飲む。音に合わせて喉が動く。汗が一筋、髪から首を伝い、ユニフォームの中に消えていく。
蓮二が、傍らに置いていたタオルを手に取り、顔を覆う。額や首の汗を拭っているけれど、あんまりスッキリはしていなさそう。私はコンビニの袋からお手拭きを取り出して、蓮二に声を掛ける。
「拭いてもいい?」
ひんやりシートとかじゃないけど、きっとないよりはマシだろう。蓮二は私を見て、少し考えてから「ありがとう」と小さく呟いた。拭きやすいように顔を寄せてくれる。私は近付いてきた蓮二の肩に手をかけて、そのまま私の膝に寝かせる。蓮二が戸惑ったように私を見上げるけれど、あやすようにぽんぽんと頭を撫でてあげると、大人しく目を閉じる。
前髪をかき分けて、おでこをそっと拭く。汗が浮いていた鼻筋や頬をなぞり、耳の裏へ。くすぐったそうに蓮二が身じろぎする。はあ、と漏れる息が気持ちよさそう。
「練習のときは帽子かぶったら? いくらか予防になるんじゃない」
声を掛けながらお手拭きを裏返して、顔の反対側を拭く。蓮二が、拭きやすいようにもぞもぞと顔を動かしてくれる。あおむけだった体を横にして、私の方へ。ブラウス越しに、私のお腹に蓮二の熱い息がかかる。
「ん……」
蓮二は掠れた声で呟いて、そのまま黙りこむ。頭が働いていないんだろう。口数が少ない蓮二は新鮮で、なんだか不安になる。
蓮二の首元を拭きながら、ちらと腕時計を見る。うん、まだいても大丈夫。少なくともテニス部が休憩に入るまではついていてあげたい。このままだと蓮二、一人で倒れちゃいそう。
汗を拭いて少しはスッキリしただろう首元に、冷えたペットボトルを当ててやる。蓮二は驚いたように、は、と息を吐き、気持ちよさそうに目を閉じる。表情が弛緩して眉間の皺が消える。いくらか楽になったのかな。安心して、私もほっと息をつく。
早く元気になってね。蓮二の、汗に濡れた髪の毛をすきながら、火照った顔にこっそりと念を送る。
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13「木漏れ日」「帽子」「喉」
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