ほぼネームレス小説ですが、たまに名前を呼んでもらえます
短編夢
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氷帝学園3年A組が管理する薔薇園には、暗黙の了解で跡部景吾専用となっている一角がある。忙しい跡部様が一息つけるよう周りが配慮しているのだ。ごく一部の生徒を除いて。
「跡部様~! 報道委員です、取材をお願いします」
「……あん?」
跡部様が文庫から顔を上げる。昼休み、薔薇に囲まれて優雅に読書をする跡部様。すらりと長い脚を組んだ姿も、取り繕わない不機嫌な顔も、すべてが耽美に演出される。
嫌そうな顔が見たくて私が毎回他人行儀に話しかけるのを、この人は分かっている。溜め息をついて文庫本を閉じ、ベンチの端に寄ってくれる。
「アポも取れねえのかお前は。今はオフだ。弁えろ」
「まあまあ、『景ちゃん』」
プライベート用の呼び方に切り替え、隣に座る。景ちゃんはまんざらでもなさそうに口角をあげる。
報道委員が発信する記事において、景ちゃんの特集は一番人気のコンテンツだ。突っ込んだ話題の時は、景ちゃんの幼馴染である私が取材を担当する。今日聞きたいのはずばり。
「CM大人気だね! 氷帝中がこの話題で持ち切りだよ~」
「ああ、そうだな」
先日公開されたCMは、景ちゃんが疲れた女性に優しく寄り添うもの。女優さんとの共演や、景ちゃんの甘い台詞が話題を呼んでいる。
「ずばり、周りの反応はいかがですか?」
「好評だな。雌猫どもが喜ぶなら引き受けた甲斐があるぜ」
「跡部様の呼び出しが増えているとの噂もありますが」
「応えてはやれねえが、行動を起こした勇気は認めるぜ」
「今後CM出演のご予定は」
「フン、欲しがりだな。まあ求められれば軽くこなしてやる」
「言うと思った。頑張りすぎだよ」
淡々と答えていた景ちゃんが不意に黙り、私をじっと見る。私は手を伸ばし、疲れの見える景ちゃんの目元をそっと撫でる。
「景ちゃんが疲れたら、私に甘えてね」
景ちゃんは、フ、と勝気に微笑んだ。透き通る碧眼を細め、柔らかそうな唇を薄く開く。私はつい見惚れて心臓が跳ねる。景ちゃんは私の反応ひとつひとつをじっくり観察し、満足そうに眉を上げる。
ごろん、と景ちゃんが寝転がる。私の膝に、景ちゃんの温かさと、重さと、柔らかい髪が触れる。
まっすぐ見上げてくる、全て見透かした瞳。
「甘やかしてみな。できるならな」
私はそっと景ちゃんの額に触れ、髪に触れ、そろそろと撫でる。「臆病だな、お前は」そんなに見詰められたら無理だって分かってるくせに。景ちゃんが優しく息をついて、そして、そっと瞳を閉じる。
誰よりかっこよくて、誰より優しくて、たまに甘えたな景ちゃん。私は薔薇の香りをめいっぱい吸い込むと、勇気をふりしぼり、ささやかなキスを贈る。
* * *
跡部様のCM(youtubeが開きます)
「跡部様~! 報道委員です、取材をお願いします」
「……あん?」
跡部様が文庫から顔を上げる。昼休み、薔薇に囲まれて優雅に読書をする跡部様。すらりと長い脚を組んだ姿も、取り繕わない不機嫌な顔も、すべてが耽美に演出される。
嫌そうな顔が見たくて私が毎回他人行儀に話しかけるのを、この人は分かっている。溜め息をついて文庫本を閉じ、ベンチの端に寄ってくれる。
「アポも取れねえのかお前は。今はオフだ。弁えろ」
「まあまあ、『景ちゃん』」
プライベート用の呼び方に切り替え、隣に座る。景ちゃんはまんざらでもなさそうに口角をあげる。
報道委員が発信する記事において、景ちゃんの特集は一番人気のコンテンツだ。突っ込んだ話題の時は、景ちゃんの幼馴染である私が取材を担当する。今日聞きたいのはずばり。
「CM大人気だね! 氷帝中がこの話題で持ち切りだよ~」
「ああ、そうだな」
先日公開されたCMは、景ちゃんが疲れた女性に優しく寄り添うもの。女優さんとの共演や、景ちゃんの甘い台詞が話題を呼んでいる。
「ずばり、周りの反応はいかがですか?」
「好評だな。雌猫どもが喜ぶなら引き受けた甲斐があるぜ」
「跡部様の呼び出しが増えているとの噂もありますが」
「応えてはやれねえが、行動を起こした勇気は認めるぜ」
「今後CM出演のご予定は」
「フン、欲しがりだな。まあ求められれば軽くこなしてやる」
「言うと思った。頑張りすぎだよ」
淡々と答えていた景ちゃんが不意に黙り、私をじっと見る。私は手を伸ばし、疲れの見える景ちゃんの目元をそっと撫でる。
「景ちゃんが疲れたら、私に甘えてね」
景ちゃんは、フ、と勝気に微笑んだ。透き通る碧眼を細め、柔らかそうな唇を薄く開く。私はつい見惚れて心臓が跳ねる。景ちゃんは私の反応ひとつひとつをじっくり観察し、満足そうに眉を上げる。
ごろん、と景ちゃんが寝転がる。私の膝に、景ちゃんの温かさと、重さと、柔らかい髪が触れる。
まっすぐ見上げてくる、全て見透かした瞳。
「甘やかしてみな。できるならな」
私はそっと景ちゃんの額に触れ、髪に触れ、そろそろと撫でる。「臆病だな、お前は」そんなに見詰められたら無理だって分かってるくせに。景ちゃんが優しく息をついて、そして、そっと瞳を閉じる。
誰よりかっこよくて、誰より優しくて、たまに甘えたな景ちゃん。私は薔薇の香りをめいっぱい吸い込むと、勇気をふりしぼり、ささやかなキスを贈る。
* * *
跡部様のCM(youtubeが開きます)