ほぼネームレス小説ですが、たまに名前を呼んでもらえます
短編夢
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「跡部くんはずるいー!」
「『ずるい』なんて卑しい言葉を使うな。何が言いたい」
駄々を捏ねる彼女を一瞥し、跡部は手元の本を繰る。
お昼時の生徒会室。ざわざわと喧騒が遠くから聞こえてくる。期末試験の1日目が終わり、全校生徒が一斉に下校しているのだ。跡部だって生徒会も部活も無いのだが、わざわざロータリーが混む時間帯に帰宅することもないだろうとこうして生徒会室で時間を潰している。
鞄を掴み教室を出ようとした跡部に彼女が声を掛けた。曰く、電車が混んでいて嫌だから車に乗せてよ、などと。まだ帰らない、と断ると、じゃあついてく、どうせ教室にいたら先生に追い出されるし、なんて言い出した。
生徒会役員でもなんでもない彼女だが、跡部に続いて何の気後れもせず生徒会室に入った。そのままソファに腰掛け教科書を開く。跡部は彼女の図々しさに呆れつつ、他の生徒がおらず特に問題もないからと放っておいた。
それから跡部は、会長用の椅子に座り読書に没頭していたのだが。彼女の方は、早々に勉強に飽きたらしい。
「だってさ。職権濫用だよ、こんなの。一斉下校って言われてるのに」
「組織経営の勉強をしている。生徒会にも関係あるだろうが」
「わあ、跡部くんが屁理屈いってる」
本から顔も上げずあしらう跡部に、彼女はわざと大げさなリアクションをする。馬鹿にしたような声音に、跡部は眉を寄せて彼女を見た。
彼女はシャープペンシルを机の上に転がして、すっかりソファの背もたれに寄りかかっている。まるで自宅にいるかのようなくつろぎぶり。跡部は大きく溜め息を吐く。
「……俺以上にこの設備を満喫しているじゃねえか」
「おまけに車のお迎えもあるしさー」
「おい」
読書を中断してまで相手をしようとしているのに。彼女は、跡部の話を聞かずに話し続ける。
「それに、帰ったら執事さんにお世話されながら優雅にお勉強でしょ。きっと美味しい飲み物とかが無限に用意されるんだ、ずるいなー」
「……作業効率を上げるための環境を整えることがずるいとは思わないな」
「私なんてずっと一人で机に向き合ってるんだよ。今日一日テスト受けて、また勉強するんだよ。結構頑張ってるのに。」
「私も、甘やかされたい」
彼女は唇を尖らせて。拗ねるように俯く。
跡部は椅子を立って、彼女の隣に座った。ソファが沈む。彼女は肩を揺らしたけれど、じっと俯いたまま跡部を見ない。
その横顔をじっくりと眺めて、跡部はまた溜め息を吐く。
「……ずるいのは、お前じゃねえの」
呟いて、長い指で彼女の髪の毛を耳にかけてやる。そうすると彼女がやっと跡部を見る。その表情に跡部は小さく笑って。
ゆっくりと、優しいキスを落とす。
唇が離れ、至近距離で見つめ合いながら跡部は口を開く。
「欲しい物があるのに、与えられるのを待つだけなんざナンセンスだぜ。俺は、欲しい物は全て掴み取るだけだ。ずるいなんて言われる筋合いはないな」
相変わらずの勝ち気な発言。彼女は目を丸くして、そして小さく吹き出した。
「うふ、そうかも。でもね、やっぱり跡部くんはずるいな」
「……まだ言うのか」
呆れ顔で、ソファの背もたれに片肘をつく跡部。そんな跡部に、彼女は恥ずかしそうに笑う。
「……だって。欲しがるだけじゃだめって言いつつ、欲しがったら分かってくれるんだもん。やっぱり好きだなーって思っちゃう」
控えめにはにかみながら、もじもじと指を動かす彼女。その仕草を見た跡部は、彼女の手を取って自分の背中に回す。そして自身も彼女の背中に腕を回して。彼女を、しっかりと抱きしめる。
それは、ずるいとは言わない。跡部は、跡部の欲しい物を、手にしていたいだけなのだから。
「『ずるい』なんて卑しい言葉を使うな。何が言いたい」
駄々を捏ねる彼女を一瞥し、跡部は手元の本を繰る。
お昼時の生徒会室。ざわざわと喧騒が遠くから聞こえてくる。期末試験の1日目が終わり、全校生徒が一斉に下校しているのだ。跡部だって生徒会も部活も無いのだが、わざわざロータリーが混む時間帯に帰宅することもないだろうとこうして生徒会室で時間を潰している。
鞄を掴み教室を出ようとした跡部に彼女が声を掛けた。曰く、電車が混んでいて嫌だから車に乗せてよ、などと。まだ帰らない、と断ると、じゃあついてく、どうせ教室にいたら先生に追い出されるし、なんて言い出した。
生徒会役員でもなんでもない彼女だが、跡部に続いて何の気後れもせず生徒会室に入った。そのままソファに腰掛け教科書を開く。跡部は彼女の図々しさに呆れつつ、他の生徒がおらず特に問題もないからと放っておいた。
それから跡部は、会長用の椅子に座り読書に没頭していたのだが。彼女の方は、早々に勉強に飽きたらしい。
「だってさ。職権濫用だよ、こんなの。一斉下校って言われてるのに」
「組織経営の勉強をしている。生徒会にも関係あるだろうが」
「わあ、跡部くんが屁理屈いってる」
本から顔も上げずあしらう跡部に、彼女はわざと大げさなリアクションをする。馬鹿にしたような声音に、跡部は眉を寄せて彼女を見た。
彼女はシャープペンシルを机の上に転がして、すっかりソファの背もたれに寄りかかっている。まるで自宅にいるかのようなくつろぎぶり。跡部は大きく溜め息を吐く。
「……俺以上にこの設備を満喫しているじゃねえか」
「おまけに車のお迎えもあるしさー」
「おい」
読書を中断してまで相手をしようとしているのに。彼女は、跡部の話を聞かずに話し続ける。
「それに、帰ったら執事さんにお世話されながら優雅にお勉強でしょ。きっと美味しい飲み物とかが無限に用意されるんだ、ずるいなー」
「……作業効率を上げるための環境を整えることがずるいとは思わないな」
「私なんてずっと一人で机に向き合ってるんだよ。今日一日テスト受けて、また勉強するんだよ。結構頑張ってるのに。」
「私も、甘やかされたい」
彼女は唇を尖らせて。拗ねるように俯く。
跡部は椅子を立って、彼女の隣に座った。ソファが沈む。彼女は肩を揺らしたけれど、じっと俯いたまま跡部を見ない。
その横顔をじっくりと眺めて、跡部はまた溜め息を吐く。
「……ずるいのは、お前じゃねえの」
呟いて、長い指で彼女の髪の毛を耳にかけてやる。そうすると彼女がやっと跡部を見る。その表情に跡部は小さく笑って。
ゆっくりと、優しいキスを落とす。
唇が離れ、至近距離で見つめ合いながら跡部は口を開く。
「欲しい物があるのに、与えられるのを待つだけなんざナンセンスだぜ。俺は、欲しい物は全て掴み取るだけだ。ずるいなんて言われる筋合いはないな」
相変わらずの勝ち気な発言。彼女は目を丸くして、そして小さく吹き出した。
「うふ、そうかも。でもね、やっぱり跡部くんはずるいな」
「……まだ言うのか」
呆れ顔で、ソファの背もたれに片肘をつく跡部。そんな跡部に、彼女は恥ずかしそうに笑う。
「……だって。欲しがるだけじゃだめって言いつつ、欲しがったら分かってくれるんだもん。やっぱり好きだなーって思っちゃう」
控えめにはにかみながら、もじもじと指を動かす彼女。その仕草を見た跡部は、彼女の手を取って自分の背中に回す。そして自身も彼女の背中に腕を回して。彼女を、しっかりと抱きしめる。
それは、ずるいとは言わない。跡部は、跡部の欲しい物を、手にしていたいだけなのだから。