スネイプ×助手(元・生徒)
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夏の強い日差しが石畳を焼き、照り返しの眩しい光が目に刺さる。じりじりと肌を焼く感覚に顔を顰めながら、ナマエ・ミョウジは額に滲む汗をハンカチで拭った。
真夏の太陽に照らされたマグルの町は、彼女が普段長い時間を過ごしているホグワーツの地下とはまるで別世界だ。
ひんやりとした薄暗いあの空間に慣れきっている体にとって、このうだるような暑さは暴力的で、立っているだけでじわじわと体力が削り取られていく。今日のナマエはマグルに混じっても違和感のないよう軽やかなサマーワンピースを身につけていたが、いくら布地が薄くなろうがこの太陽の下では暑さが軽減されることはないようだった。
そしてナマエの隣を歩く男の格好は、見ているだけで暑さを助長させている。
セブルス・スネイプはマグルに扮しているものの、やはり頑なに自らの素肌を晒そうとはしなかった。
普段見えている部分といえば顔と指先程度であるが、マグル風の格好をしている今でもそれはほとんど変わりがない。衣服はこの暑さの中でも彼の肌を覆い隠しており、すれ違う薄着のマグルたちが彼の姿を見るたびに驚いたり訝しむような表情を浮かべるのだった。
汗ひとつかいていない、普段と全く同じの青白い横顔を見上げつつ、ナマエは口を開く。
「もしかして、教授ほどの冷徹人間にもなれば夏の暑さも感じないんですか?」
「……誰が冷徹人間だ。暑いか暑くないかで言えば今にも水に浸かりたいほどに暑い。冷却呪文にも限度がある」
ナマエの軽口を受け流しつつスネイプは元々不機嫌そうな顔を更に歪めて息を吐いた。一応暑さを感じる人間らしさはあるらしい、とナマエは少しだけ面白そうに笑う。
「それならもう少し薄着にしてみてはいかがですか?」
きっとすごくセクシーだと思いますよ、とナマエが悪戯っぽい笑みを浮かべ、彼の腕に自身の細い指を絡めた。ホグワーツでは指先が触れることさえ許されない二人だが、マグルの町では誰の目も気にしなくていい。
この町は魔法界には見られない、興味深いもので溢れている。それらはナマエの知的好奇心を刺激したが、ホグワーツでは叶わぬ触れ合いを堂々とできるというその事実を、彼女は何よりも気に入っていた。
スネイプは絡みついたナマエの腕を睨みつける。
「密着するな。暑い」
誰も二人を気にしていなかったが、その視線は周囲を警戒するように鋭く走った。
「さっさと済ませて城に帰るぞ」
「そうですね。教授が熱中症になってしまいますもの。目的地はすぐそこですよ」
ナマエは地図を取り出してにこやかにそう言った。今回の目的地は、この町にあるマグルの薬草店である。店主の老人が代替わりを機に店を畳むらしく、棚の奥に眠っている古い在庫を安くで売り切るという情報をナマエが事前に掴んできたのだった。
マグルにとっては大して価値のない『単なる売れ残り』でしかなくとも、魔法薬学の観点から見れば、それらは大変貴重な材料である。現在では入手困難となった希少な品が格安で手に入るとあれば多少の苦労は厭わなかった。
*
数十分後、古びた薬草店を出た二人を待っていたのは相変わらず強く咽せ返るような熱気だった。しかし目的の品を手に入れた満足感は、その暑さを忘れさせるほど大きい。ナマエが嬉しそうにトランクを開け、スネイプもまた、仏頂面を装いながらも静かに成果を噛み締めていた。
「──暑い中、ここまで来た甲斐がありましたね!まさかこんなにたくさん、しかもほとんどお金もかからずに材料の確保ができるなんて最高です」
ナマエはトランクに購入した商品を丁寧に仕舞いながら嬉しそうにスネイプを見上げた。見た目は小さな革製のトランクだったが中は魔法で拡張されており、大量の購入品が次から次へと収められていく。
「君の情報収集のおかげだな。普段は戯言ばかりを撒き散らしている君でも、たまには役に立つという証明ができたというわけだ」
「あら、私はいつだって教授のお役に立てるように頑張ってますよ。……これ、売れ残りだって言うから品質が少し心配でしたけど、状態は悪くありませんね。帰ったら分類して、それぞれ保管方法も考えないと」
ナマエは笑いながらトランクをパチンと閉めた。あとはホグワーツへ帰るのみだったが、ナマエの視線の先には魅力的なものが映っている。
「……でもその前に、このままでは暑くて死んでしまいそうです。教授、帰る前にあのお店に寄ってもいいですか?」
ナマエが指差したのは、ガラス張りの小さな店だった。テラス席には様々な色のパラソルが咲いており、この炎天下の中マグルたちが涼を求めて列を作っている。その様子にスネイプは露骨に眉をひそめ、忌々しげに店を見つめた。
「……何だあれは」
「今マグルに人気のアイスクリーム屋さんです。とっても可愛いアイスが売ってるらしいですよ」
ナマエは事前に調べていたのかスネイプの問いに即座に答え、それから彼へと向き直る。
「今、断ろうとしていますね?……でも教授、トランクの中身を思い出してください。今日の私のお手柄を、少しは労ってくれても良いとは思いませんか?」
ナマエの甘えたような声にスネイプは深く息を吐き出した。彼女が一度こうと言い出せば、どんな拒絶を並べ立てようが無駄であることをこれまで嫌というほど味わっている。
「……私は長居をするつもりはないぞ」
「はい、もちろん!少し休憩するだけですから。教授はあちらのテラスで待っててくださいね。すぐに買ってきます」
ナマエはカラフルなパラソルを指差して楽しげに笑った。その彩りの中に不機嫌そうな漆黒が混ざる姿を想像するだけでナマエは可笑しくてたまらないらしい。スネイプはナマエの考えていることを瞬時に察し、うんざりしたように肩をすくめると無言で一番目立たない端の席へと腰を下ろした。
普段は汚れても目立たぬよう基本的に暗い色を選んでいるナマエの、パステルカラーのワンピース。列へと並びに駆けていく彼女のそれが嬉しそうに揺れるのを、スネイプは普段よりいくらか険を削いだ顔で見つめるのだった。
*
「──お待たせしました、教授」
テラスに戻ってきたナマエが両手に掲げていたのは、これでもかと盛り付けられたカラフルなアイスクリームのカップだった。そしてその頂点にはいかにも若い女性に好まれそうな、しかしスネイプが最も嫌悪するような、赤やピンクのハート型シュガーがこれ見よがしにトッピングされている。
スネイプの眉根が深く寄せられ、その表情が露骨に引き攣った。
「可愛いでしょう?トッピングが自分で選べるんです」
冷ややかな視線をいつものことだとばかりに受け流し、ナマエはスネイプの目の前にあるテーブルへ、ハートが散りばめられたカップを一つ押しやった。いかにも彼女が選びそうな『浮かれたハート』はスネイプの胃をキリキリと刺激する。
「はい、どうぞ。教授の分です」
「……馬鹿げた真似を。私がこのようなものを口にするとでも思っているのか」
「もう、何を恥ずかしがってるんですか。私と一緒に食べるためにここで待っていてくれたんじゃないんですか?」
悪びれることなく微笑むと、ナマエは肩に下げていたバッグをごそごそと探り始めた。かなり小さいバッグのはずだったが、トランク同様拡張呪文が施されているらしい。やっとそこから取り出されたのは少し無骨な四角い機械──マグルのポラロイドカメラだった。
「見てください、カメラです。先日、校長先生に教えていただいて……面白そうだったから買ってみたんです。なんと撮ってすぐ写真が出てくるんですよ!」
「……校長は君に余計なことしか教えんな」
スネイプが心底嫌そうに息を吐き出すのと同時に、ナマエはカメラのファインダーを覗き込み、彼とアイスのカップへとレンズを向けた。
「試しに一枚撮ってみましょう。教授、こちらを向いて笑顔をください」
「誰が笑顔などくれてやるか。カメラを収めろ、ナマエ」
スネイプは即座にカメラから顔を背け、横を向いた。笑顔を見せるどころか、どす黒く不機嫌なオーラを全身から放出させている。しかしナマエの指は躊躇なくシャッターボタンを押し込んでいた。カシャリ、という独特の機械音とともに、白いフラッシュが光る。
「ばっちりです」
カメラの下部から滑り出てきた長方形の紙を手に取り、ナマエは機嫌良く目を細めて見せた。しばらくそれを眺めていると、少しずつ白い枠の中にスネイプの横顔が浮かび上がってくる。横を向き不機嫌そうに眉をひそめた男と、背景に写り込むカラフルなパラソル、そしてテーブルの上のハートが散りばめられたアイスクリーム。
「すごい……魔法界の写真とは全然違うんですね。動かないなんて不思議ですけど、この空気まで閉じ込めたみたいで、すごく素敵!」
「……どこがだ。早く捨てろ」
「絶対嫌です。これは、この夏の思い出として私の部屋の一番目立つ場所に飾ることにします」
そう言って大切そうに写真を眺めるナマエに対し、スネイプは心底不満そうな顔をしていた。自分の不格好な横顔と、あまりにも可愛らしいアイスクリームが一枚の枠内に収まっている構図がどうにも気に食わないらしい。
「飾るなど許可しない。もし誰かの目に触れたらどうするつもりだ。処分しろと言っているだろう」
「私の部屋に来るのなんて教授くらいでしょう。処分なんてとんでもない、私の宝物にするんですから」
ナマエは写真を守るように胸元に抱え込み、悪戯っぽく舌を出してみせた。その生意気な仕草にスネイプは『子供か』と呆れたように呟くが、これ以上の追及を諦めた様子で腕を組む。
しかし浮かれていたナマエの興奮を冷ますのは、スネイプの不機嫌や小言ではなく夏の容赦ない暑さだった。
「あっ」
ナマエの目の前に置かれていた山盛りのアイスクリームが暑さにより溶け始めており、カップの縁から一滴、トロリと垂れ落ちたのである。
「……大変、溶けてる!」
慌てたナマエはカメラをテーブルに置くとカップを持ち上げ、溶け始めているアイスを口へと運んだ。
スネイプは、ナマエの普段授業の際に見せる知的な姿とは程遠い、まるで少女のような振る舞いを冷ややかに眺めていたが、ふと、その視線を彼女の鼻先に止めた。
ナマエの鼻の頭に、白とピンクが混ざり合ったアイスクリームが、小さく付着している。
一瞬、そのあざといとも言える光景に、わざとなのかと眉を顰めたスネイプだったが、どうやら本人は全く気づいていないらしく幸せそうな表情のままスプーンを口へと運んでいる。
一瞬の沈黙の後、スネイプの唇の端が微かに、しかし確実に持ち上がった。
彼は無言のまま手を伸ばし、ナマエが先ほどテーブルに置いたポラロイドカメラを引き寄せた。そして先ほど彼女がしたようにファインダーを覗き込むとレンズの角度を調整し、アイスへ視線を落としたままの彼女へと向ける。
「……?」
ナマエがスネイプの行動に気がついて顔を上げたその瞬間、カシャリと再びシャッター音が響いた。
「……あ!どうして何も言わずに撮るんですか?今の私、絶対変な顔をして……」
「いや、実に君らしい一枚だ」
スネイプはカメラから排出された写真を指先でつまみ上げ、写真が浮かび上がってくるのを待つ。やがてそこにぼんやりと現れたのは、鼻先にアイスクリームをくっつけ、目を丸くして固まっているナマエの姿だった。
「……何ですか?何笑ってるんですか?見せてください、確認します!」
ナマエが身を乗り出して手を伸ばすが、スネイプは長い腕を軽く持ち上げ、それを易々と交わした。これまで散々不機嫌そうだった男の瞳に、明らかな意地悪さと愉悦の色が宿っている。
「残念だが、これは私のものだ」
言いながらナマエの顔を一瞥し、苦笑するスネイプに、ナマエは察したようにハンカチを取り出した。
「もしかして顔に何かついてます?……絶対ついてますよね!?」
慌てて自分の口元やら頬やらをハンカチで拭うナマエの姿を見て、スネイプは低く、喉を鳴らして笑った。普段の厳格な面影を少しだけ和らげたその笑みは、ホグワーツでは決して見せることのない二人きりの時だけの甘さを孕んでいる。
「……見てみろ、ひどい間抜け面だ」
スネイプがぺらりと突きつけてきた写真を見つめたナマエは、ようやく鼻の頭にアイスがついていたことに気がついた。慌ててハンカチで鼻を拭い、目の前の男を恨めしそうに見上げる。
「最悪です。早く教えてくださいよ、教授の意地悪」
「実に良い被写体だったぞ、ナマエ。……しかしアイスクリームすらまともに食べることもできん助手に来期の調合計画を任せるのは考え直した方が良さそうだな」
「う……、それはそれ、これはこれです。私、仕事は真面目に頑張ってますよ。……とにかくその写真は返してください。可愛く撮れてるならまだしも、そんな変な顔の写真を教授が持ってるなんて絶対嫌です」
「断る」
スネイプは写真をポケットの奥深くへ仕舞い込むと、ようやく自分の前に置かれたカップへと手を伸ばした。スプーンを取り、どろどろと溶けかけたアイスクリームを一口、口に運ぶ。脳に直接訴えかけてくるような甘さが口いっぱいに広がり彼は顔を顰めたが、確かにこの冷たさは夏の暑さの中では僅かな拠り所になると静かに二口目を掬った。
「まぁまぁだな」
「……素直に美味しいって言っても、教授の威厳は減りませんよ?」
呆れたように言いながらも、ナマエの顔には隠しきれない笑みが零れていた。
照りつける太陽の下、マグルたちの喧騒の中で、そのカラフルなパラソルの下だけは魔法のように特別な時間が流れている。
溶けかけたアイスクリームの甘い香りとそれぞれのポケットの中に仕舞われた二枚の写真。
単なる日常のようでいて、かけがえのないひとときに、二人の夏はどこまでも満たされていくのだった。