スネイプ×助手(元・生徒)
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……またお仕事ですか、教授?」
シャワーを浴び終えたナマエがバスルームから戻ると、スネイプはベッドの端に腰掛け片手には羊皮紙を手にしていた。それが最近彼が夢中になっている研究に関するものというのはすぐに分かったが、なにもこんな時まで見なくてもいいのに、とナマエは少しだけ呆れたような笑いを零した。つい数十分前までベッドの中で互いの熱に溺れていたのに、目を離せばこれだ。微動だにせず羊皮紙の文字を睨みつけているスネイプの黒い瞳は、先ほどまであんなに劣情に燃えていたのが嘘のように凪いでいる。
「根っからの仕事人間ですね」
「別にそういうわけではない。考えついたことを忘れてしまわぬよう書き留めただけだ」
羊皮紙をサイドテーブルに無造作に置くとスネイプは淡々と応じる。
「研究熱心なところも素敵ですけど、ほどほどにしてくださいね?ただでさえ最近顔色が優れないんですから」
何かに夢中になるとスネイプは食べるのも眠るのも忘れてしまう男だ。彼の青白い顔を見つめ、ナマエは静かに彼の隣へと腰を下ろす。
「分かっている。今日はもう終わりにするつもりだった」
「それなら安心しました。……シャワー、どうぞ?」
杖を軽く振って自身の濡れた髪を乾かしながらナマエが言うと、スネイプは無言で立ち上がりバスルームへと気怠げに歩みを進めるのだった。
*
ナマエがベッドの中で毛布に包まり微睡んでいると、やがてスネイプの気配が戻ってくる。しばらく目を閉じ無言で横たわっていると、スプリングを軋ませながらベッドがゆっくりと沈み込んだ。背後から慈しむようにそっと髪を撫でられ、ナマエは嬉しそうに振り返る。そして半ばしがみつくようにその胸元へ抱きついた。
「……どうした」
投げかけられた声にいつもの棘はない。迷うように空中を彷徨ったスネイプの手はナマエの背中に触れ、壊れ物を扱うかのように優しく撫でた。
「教授のことが大好きすぎて、抱きしめたくて」
「聞き飽きた理由だな」
「ふふ、毎日言ってますものね」
小さく笑ってナマエは顔を上げる。普段より近い距離にいる彼の顔は、いつにも増して疲弊しているように見えた。眉間の皺と顔色の悪さはいつものことだが、最近目の下の隈が更に酷くなったような気がしてナマエは眉を下げる。
「最近、あまり眠れてないですか?」
「いや、眠れんのは今に始まったことではない。余計な心配は不要だ」
「……そんなの、なおさら心配ですよ」
ナマエがそう呟くとスネイプの口端が小さく歪んだ。
「君の居眠りの才能が羨ましい限りだ」
「な……!確かに学生の頃はよく居眠りして怒られてましたけど……最近はそんなに……」
「ほう。頻繁に机に突っ伏してる姿は私の見間違いだったようだな」
揶揄うような視線を向けられ、ナマエは誤魔化すように小さな咳払いをした。見られてほしくない場面であればあるほど彼に目撃されているような気がして、少しだけ悔しい。
「……あれは居眠りじゃなくて正当な仮眠というものです。さ、教授、もう寝ましょう」
強引に会話を打ち切るように言うとスネイプは小馬鹿にしたように鼻で笑った。しかしそれとは裏腹に、指先はナマエの後頭部を優しく撫でる。
彼の手は不思議だ。ベッドの中で苛烈に責め立てる時は灼けるように熱く激しいのに、今は胸が痛むほど優しく愛おしい。
「君が余計なことをしなければ、今頃とっくに眠れていたはずだがな」
「ええ?私のせいですか?」
「とぼけるな。あんな煽るような真似をしておいて何も起きんと思ったのか?」
「そ、それは教授が……」
言いかけた言葉は、後頭部に回された手の力によってあっけなく遮られた。そのまま強く顔を引き寄せられ、深く口付けられる。
突然のことにナマエは目を見開き、ただ甘く深いそれを享受するほかない。抗議の言葉は喉の奥で溶けて消え、代わりに先程の熱を彷彿とさせる甘い痺れに頭がじわじわと支配されていく。
「……んん、」
散々弄ばれ、ようやく唇が離れたと思えば今度はすっぽりと細い腕の中に抱きすくめられた。
「……もう、教授の意地悪」
「今更だな」
文句をキスで防ごうなんて横暴です、と口に出してしまいたかったが、再び抱きすくめられると不思議なものでそれらがすっかり落ち着いてしまう。我ながら実に簡単な女だと自嘲しつつ、ナマエは素直にスネイプの身体へと身を預けた。彼に包まれている時間は、あたたかく心地良い。普段は冷徹なこの男の体温がこんなにも優しく温かいことを、他に誰が知っているのだろう。
スネイプの鼓動を肌で感じながらナマエは胸の奥から溢れてくる感情を抑えきれずにいた。
大好きだ。愛おしい。あなたのことがこんなにも。
そんなことを思いながらナマエはそっとスネイプを見つめた。
「……意地悪な教授も大好きなのが悔しいです」
腕の中でそう静かに告げるとスネイプはほんの一瞬だけ目を伏せ、次いで静かに彼女の額に唇を押し当てた。いつものように嫌味か皮肉の一つくらい返ってくるだろうと思っていたが、今夜のスネイプは何も言わない。ただ彼は毛布の中でナマエを抱き寄せ、その体を逃がさぬとでも言うように腕に力を込めた。普段なら近すぎる距離を嫌う男が、まるで彼女を手放すのを恐れるかのように抱きすくめている。その事実に気がつき、ナマエはそっと小さく口元を緩めた。
「……教授?」
「少し黙っていろ」
低く囁かれた声は、いつもの刺々しさとは違う。疲労と安堵が入り混じった響きにナマエの胸がじんわりと熱くなった。
先ほど自分が抱いた愛おしさと似たものが、スネイプの中にも存在してくれているのだとしたら。そう考えるだけで自分の心が満たされていくのが分かる。
……どれほどそうしていただろう。
いつのまにかスネイプの呼吸は深く穏やかになっていた。寝つきの悪いはずの彼が、こんなにも早く眠りに落ちるのは珍しい。この状況が、少しでも彼に安らぎを与えたのだろうかとナマエは微睡みながら頭の隅でそんなことを考えた。
「……おやすみなさい」
彼を起こさないように小さく囁くと、ナマエもスネイプの腕の温もりに落ちていくように意識を手放すのだった。
*
翌朝遠くで微かに聞こえた鐘の音で目を覚ましたナマエは身じろぎしようとして動けないことに気がついた。理由はすぐに分かった。昨夜眠りについた時の状態とほぼ変わらぬ状態で、スネイプに抱きしめられている。寝ている間ずっとこの体勢だったのだと悟り、思わず胸に広がる多幸感に笑みが溢れた。微かな寝息を立てるスネイプの顔は眉間に皺こそ刻まれているものの普段よりずっと穏やかで、長年背負っている重圧がほんの少しだけ軽くなっているように見える。
実際にそれが軽くなることはなく、逃れられるものでもないのだろう。
けれど滅多に笑わない横顔の奥に、決して語られない痛みや恐怖が眠っているのを知っているからこそ、ナマエは願わずにいられない。眠っている間だけでも、彼がその重圧から解き放たれることを。こうやって二人で迎える朝が、彼にとって少しでも穏やかであることを。
規則的な呼吸を聞きながらナマエはそっと指先で彼の頬に触れた。硬い肌の感触に胸が詰まる。長年誰にも心を委ねず自分を縛り続けてきた人の、今だけ見せる無防備な姿。それを壊すのが怖くて、触れるのも躊躇われるほどだった。
「私……少しは教授の役に立ててますか?」
答えが返ってくるはずもない問いを小さく口にし、ナマエは苦笑する。やはり眠っている間だけが、この人の心の奥に一番近づけるような気がした。
「ずっとこうしていられたらいいのにな……」
囁くようにそう言って、熱くなった目頭を誤魔化すように彼の胸に頬を寄せる。聞き慣れた心音が落ち着いたリズムで響いていた。この安らぎを壊すべきか、それとももう少しこのままでいるべきか。ナマエは迷ったが結局その決断を先延ばしにして、ただ静かに目を閉じた。
今はこの温もりに身を委ねることが何よりも大切だと思えたからだ。
「今日も大好きですよ、教授」
その声に応えるように彼の指が僅かに動き、抱き寄せる力がほんの少し強まった。それは単なる偶然かもしれない。
けれどナマエにとってはそれは十分すぎるほどの答えであり、彼の腕の温もりに包まれながら迎える朝はどんな夢よりも甘く愛しいものだった。