こんにちはブラック本丸。私はただの迷子です。
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俺は微睡の中、審神者に初めて会った時のことを思い出していた。
あれは確か春だったか、暖かい日差しに桜の香りが風に乗って漂っていた。俺は、女の審神者の元に降ろされた。大将は俺が初めて鍛刀した刀だと教えてくれて、迷惑を掛けると思うが宜しくねと優しい笑顔で言われた。初期刀だという山姥切国広にも宜しく頼むと言われた。そして、こんのすけから早速出陣してほしいとのことで、山姥切と共に出陣し敵将からドロップした五虎退を回収し本丸へと帰還した。それからは、新しい仲間も出陣できる場所も段々と増えていき、三人だけだった本丸はいつの間にか大所帯となっていた。仕方がないとはいえ、最初の頃と比べて大将と一緒にいる事が少なくなった。だが、兄弟や縁のある刀たちも居たので寂しくはなかった。それでも大将に会いたくなって会いに行くと、いつもあの優しい笑顔で迎えてくれて、休日には兄弟たちと一緒に遊んでくれたりもした。だから大将は、俺たちのことを大切にしてくれていて、優しくて、楽しくて、ずっと幸せな日々が続くと思っていた。
…あの時までは。
その日は演練があった。大将は演練に連れて行くメンバーに特にこだわりがない為、いつもの様に部隊を組んで第一部隊と共に参加していた。もちろん俺も参加していた。
時間になり、対戦相手と試合前の挨拶を行う。相手の青年は平凡そうな出で立ちだったが、審神者としての腕は確かなのであろう、あの滅多に出現する事のない三日月宗近を筆頭に、レアだと言われる刀たちが編成されていた。青年曰く、練度上げのために編成したらレア刀だらけになってしまったとのことだ。頭に手を当てアハハと乾いた笑い声を上げる青年に呆れた視線を投げ掛ける相手の刀剣たち。その様子に思わず苦笑いが浮かぶが演練前にリラックスする事が出来た。
しかし、何故か何時もより静かな大将を不審に思った。
大将…?声を掛けるとハッとした大将は、何でも無いと言うとそろそろ演練開始時間なのかそれじゃあ皆演練頑張ってね。皆の活躍ちゃんと観てるからと俺たちを送り出してくれた。俺たちはおう!と返事して演練会場へと入場する。
あの時、大将ときちんと話していればこんな事にはならなかったのかと今でも思ってしまう。
過去の過ちに後悔していると、何やら気配を感じた。
また来たのか…?
気配は玄関からだが、彼処は閉まっているはずだ。しかし、長いこと放置されていたせいか建て付けが悪くなってしまったのだろうか。気配は玄関の前から中に入ってきた。やばい、もし審神者なら見つかってしまえば折られてしまうかもしれない。今まで何度かこの様な状況に陥った事はあるが、悲しい事に折れていった仲間たちの図らいか彼らの本体の下敷になることで何とか今まで見つからずに済んでいた。ふつふつと湧き上がってくる警戒心。しかし、心身ともに疲れ果てたこの身体は顕現を解いてしまっており、もう一度顕現する程の力は残ってはいない。
気配は着実に此方に近づいて来る。高まる鼓動。背筋に冷や汗が流れる。気配は縁側に繋がる廊下の途中で止まった。大広間の前だ。こっちに来るっ…?!顔がサアっと青くなる。
来るな来るな来るなっ…!!
その思いは届かず障子が開かれる。しかし、聞こえたのは息を呑む声。…審神者じゃない?薬研は無意識に瞑っていた目を恐る恐る開く。開いたと思われる障子に視線を合わせる。少し開いた障子の隙間から覗くのは人の瞳。審神者の目はあんなに綺麗ではない。それどころか、瞳から感じられるのは驚愕、恐怖、不安。今の審神者は、その様な感情を持ち合わせていない。一体誰だ…?いつの間にか覗いていた瞳は離れ、恐らく瞳の持ち主であろう人が入って来た。少女だ。
何故こんな所に人が…?この本丸は、審神者があの様になってから放置され、転移門は凍結された事で入る事が出来ないはずだ。政府の者か?だが彼らの様な感じはしない。一体何者なのか。
次々と湧いて来る疑問。だが答えてくれる者は誰も居ない。薬研が物思いに耽っていると少女が動き始めた。少女の眉が顰められている。そりゃそうだろうな。こんな悲惨な光景、普通なら見ないもんな。薬研はこの様な光景を少女に見せてしまっている事に対して罪悪感を抱いていた。少女が途中、膝を折った。嗚呼、仲間の破片だ。少女の足元には折れていった仲間たちの破片が散らばっている。それを見る度に薬研は心が軋むのを感じる。俺がちゃんとしていれば…と仲間たちに何度も何度も心の中で謝る。謝ったところでその者たちは既に折れてしまっているのだが、それでも止める事は出来ない。
チャキ…と金属音が聞こえた。薬研が目を向けると、少女は一振り一振り丁寧に刀の状態を確認していた。一体何をしているのか。声を掛けようかと思ったが、今の自分は顕現する事が出来ず、少女の目に写ることも声を届けることも出来ない。その事実に歯痒い思いを噛み締める。だが、少女が仲間たちに何かをするという様子ではなく、確認するとまた丁寧に並べていた。どうやら刀種ごとに分けている様だ。
随分と沢山の仲間が折れちまっている。前回目を覚ました時は、大なり小なり傷を負ってはいたが、まだ数振り生き残っていた。だが、全て折れてしまっているという事は、自分で折ったか審神者に折られたか。何方にせよ此処に居た仲間たちは、自分以外全員折れてしまった様だ。一応此処には居なかった仲間がまだ居るが、生き残っているかどうかは分からない。
少女が俺を持ち上げた。久しぶりに触れた人の温かさに何故か胸に込み上げて来るものがあった。
人の手ってこんなにあったたかったっけ…?
何時の間にか頬に涙が流れていた。拭っても拭っても溢れて来る涙は止まることを知らない。綺麗…と少女の呟きが聞こえた。少女は己の刀身を見ていた。刃こぼれしていて曇っている刀身は、はっきり言ってあまり綺麗ではない。だが少女は綺麗と言ってくれた。
視界に桃色の何かが見えた。誉桜だ。どうやら俺は嬉しいらしい。
俺ってこんなに単純な奴だったか…?綺麗と言われただけで誉桜が出た事に内心驚きつつも苦笑いしてしまう。
少女は刀身を鞘に納め俺を左手に携えていた。どうやら俺を連れて行くらしい。廊下へと足を進める少女に本体を持たれている俺は自然と着いて行く。眠るようになってから外を見ていなかったが、あれからどうなっているのだろうか。他の仲間たちは無事なのだろうか。もしあの審神者がまだ生きているのならば、此処は危険だ。出来れば何事もなく立ち去ってくれることを願う。しかし、心は何故かまだこの子と一緒にいたいと思っている。
矛盾した思いに口元が自然と緩む。
まあ、何かあれば俺が守ればいいか。
前を進む少女の姿を見る薬研の目には、強い覚悟があった。
少女が気付かないまま、薬研藤四郎が仲間になった。
あれは確か春だったか、暖かい日差しに桜の香りが風に乗って漂っていた。俺は、女の審神者の元に降ろされた。大将は俺が初めて鍛刀した刀だと教えてくれて、迷惑を掛けると思うが宜しくねと優しい笑顔で言われた。初期刀だという山姥切国広にも宜しく頼むと言われた。そして、こんのすけから早速出陣してほしいとのことで、山姥切と共に出陣し敵将からドロップした五虎退を回収し本丸へと帰還した。それからは、新しい仲間も出陣できる場所も段々と増えていき、三人だけだった本丸はいつの間にか大所帯となっていた。仕方がないとはいえ、最初の頃と比べて大将と一緒にいる事が少なくなった。だが、兄弟や縁のある刀たちも居たので寂しくはなかった。それでも大将に会いたくなって会いに行くと、いつもあの優しい笑顔で迎えてくれて、休日には兄弟たちと一緒に遊んでくれたりもした。だから大将は、俺たちのことを大切にしてくれていて、優しくて、楽しくて、ずっと幸せな日々が続くと思っていた。
…あの時までは。
その日は演練があった。大将は演練に連れて行くメンバーに特にこだわりがない為、いつもの様に部隊を組んで第一部隊と共に参加していた。もちろん俺も参加していた。
時間になり、対戦相手と試合前の挨拶を行う。相手の青年は平凡そうな出で立ちだったが、審神者としての腕は確かなのであろう、あの滅多に出現する事のない三日月宗近を筆頭に、レアだと言われる刀たちが編成されていた。青年曰く、練度上げのために編成したらレア刀だらけになってしまったとのことだ。頭に手を当てアハハと乾いた笑い声を上げる青年に呆れた視線を投げ掛ける相手の刀剣たち。その様子に思わず苦笑いが浮かぶが演練前にリラックスする事が出来た。
しかし、何故か何時もより静かな大将を不審に思った。
大将…?声を掛けるとハッとした大将は、何でも無いと言うとそろそろ演練開始時間なのかそれじゃあ皆演練頑張ってね。皆の活躍ちゃんと観てるからと俺たちを送り出してくれた。俺たちはおう!と返事して演練会場へと入場する。
あの時、大将ときちんと話していればこんな事にはならなかったのかと今でも思ってしまう。
過去の過ちに後悔していると、何やら気配を感じた。
また来たのか…?
気配は玄関からだが、彼処は閉まっているはずだ。しかし、長いこと放置されていたせいか建て付けが悪くなってしまったのだろうか。気配は玄関の前から中に入ってきた。やばい、もし審神者なら見つかってしまえば折られてしまうかもしれない。今まで何度かこの様な状況に陥った事はあるが、悲しい事に折れていった仲間たちの図らいか彼らの本体の下敷になることで何とか今まで見つからずに済んでいた。ふつふつと湧き上がってくる警戒心。しかし、心身ともに疲れ果てたこの身体は顕現を解いてしまっており、もう一度顕現する程の力は残ってはいない。
気配は着実に此方に近づいて来る。高まる鼓動。背筋に冷や汗が流れる。気配は縁側に繋がる廊下の途中で止まった。大広間の前だ。こっちに来るっ…?!顔がサアっと青くなる。
来るな来るな来るなっ…!!
その思いは届かず障子が開かれる。しかし、聞こえたのは息を呑む声。…審神者じゃない?薬研は無意識に瞑っていた目を恐る恐る開く。開いたと思われる障子に視線を合わせる。少し開いた障子の隙間から覗くのは人の瞳。審神者の目はあんなに綺麗ではない。それどころか、瞳から感じられるのは驚愕、恐怖、不安。今の審神者は、その様な感情を持ち合わせていない。一体誰だ…?いつの間にか覗いていた瞳は離れ、恐らく瞳の持ち主であろう人が入って来た。少女だ。
何故こんな所に人が…?この本丸は、審神者があの様になってから放置され、転移門は凍結された事で入る事が出来ないはずだ。政府の者か?だが彼らの様な感じはしない。一体何者なのか。
次々と湧いて来る疑問。だが答えてくれる者は誰も居ない。薬研が物思いに耽っていると少女が動き始めた。少女の眉が顰められている。そりゃそうだろうな。こんな悲惨な光景、普通なら見ないもんな。薬研はこの様な光景を少女に見せてしまっている事に対して罪悪感を抱いていた。少女が途中、膝を折った。嗚呼、仲間の破片だ。少女の足元には折れていった仲間たちの破片が散らばっている。それを見る度に薬研は心が軋むのを感じる。俺がちゃんとしていれば…と仲間たちに何度も何度も心の中で謝る。謝ったところでその者たちは既に折れてしまっているのだが、それでも止める事は出来ない。
チャキ…と金属音が聞こえた。薬研が目を向けると、少女は一振り一振り丁寧に刀の状態を確認していた。一体何をしているのか。声を掛けようかと思ったが、今の自分は顕現する事が出来ず、少女の目に写ることも声を届けることも出来ない。その事実に歯痒い思いを噛み締める。だが、少女が仲間たちに何かをするという様子ではなく、確認するとまた丁寧に並べていた。どうやら刀種ごとに分けている様だ。
随分と沢山の仲間が折れちまっている。前回目を覚ました時は、大なり小なり傷を負ってはいたが、まだ数振り生き残っていた。だが、全て折れてしまっているという事は、自分で折ったか審神者に折られたか。何方にせよ此処に居た仲間たちは、自分以外全員折れてしまった様だ。一応此処には居なかった仲間がまだ居るが、生き残っているかどうかは分からない。
少女が俺を持ち上げた。久しぶりに触れた人の温かさに何故か胸に込み上げて来るものがあった。
人の手ってこんなにあったたかったっけ…?
何時の間にか頬に涙が流れていた。拭っても拭っても溢れて来る涙は止まることを知らない。綺麗…と少女の呟きが聞こえた。少女は己の刀身を見ていた。刃こぼれしていて曇っている刀身は、はっきり言ってあまり綺麗ではない。だが少女は綺麗と言ってくれた。
視界に桃色の何かが見えた。誉桜だ。どうやら俺は嬉しいらしい。
俺ってこんなに単純な奴だったか…?綺麗と言われただけで誉桜が出た事に内心驚きつつも苦笑いしてしまう。
少女は刀身を鞘に納め俺を左手に携えていた。どうやら俺を連れて行くらしい。廊下へと足を進める少女に本体を持たれている俺は自然と着いて行く。眠るようになってから外を見ていなかったが、あれからどうなっているのだろうか。他の仲間たちは無事なのだろうか。もしあの審神者がまだ生きているのならば、此処は危険だ。出来れば何事もなく立ち去ってくれることを願う。しかし、心は何故かまだこの子と一緒にいたいと思っている。
矛盾した思いに口元が自然と緩む。
まあ、何かあれば俺が守ればいいか。
前を進む少女の姿を見る薬研の目には、強い覚悟があった。
少女が気付かないまま、薬研藤四郎が仲間になった。