chain.4 日常
『んぅ……今、何時?えっと、18時か』
あのまま寝ちゃったのか。
長時間飛行機に乗ってたし、色々あって疲れたんだろうな。
隣で眠るシュウの襟元を捲ってみると、俺が付けたアザは綺麗に消えていた。
痕なんて残ってほしくないから、消えてくれてよかった。
……願わくば、あの痕まで消えてほしかったけど無理だよね。
あぁ、そういえば、そこらへんの音源好きに持っていっていいって言ってたっけ。
シュウを起こさないようにベットから降りた俺は、CDが並んでいる棚に向かった。
棚を見てて思うけど、クラシックが好きなのは昔から変わってないんだね。
俺はシュウと違ってクラシック以外も聞くからなぁ。
「……何してるの」
シュウの声が後ろから聞こえる。
起きたことは気配で感じていたから、振り返ることなく答えた。
『ねぇ、ロックとかJ-POPとかない?』
「あるわけないだろ」
だよねぇ?俺達、音楽の趣味だけは違うからなぁ
あ、俺もクラシックも好きだよ?
でもどっちかっていうと、激しい曲も好きかな。
『んー、でもこの辺りの聞いたことあるのばかりなんだよね。
……よし、買いに行こう!』
「……は?」
聞いた事あるやつばかりだから、買えばいいんだよ。
うん、それがいい。善は急げかな。
『はいシュウ、着替える!』
「おい!」
暴れるシュウを押さえつけて、有無を言わさず着替えさせた。
服はクローゼットから適当に引っ張り出したのを着させたけど、オシャレには気遣って選んだつもりだ。
めんどくさそうにため息をついたシュウは、諦めたように大人しくなった。
俺はそのままシュウの手を引っ張って夜の繁華街に足を向けた。
「……うるさい。眠い。怠い。帰りたい」
『あ、あそこのCDショップいいんじゃない?』
「……はぁ、勝手にしろ」
人の波が絶えない繁華街に来たシュウは、うるさそうにしながら文句を言っていた。
俺はそんな言葉を無視して目に入ったCDショップに入る。
後ろを見ると、シュウは頭をかきながらついてきていた。
なんだかんだ言って、ちゃんとついてきてくれるんだよね。
好きな音楽に関することだからかな?
視聴コーナーを見つけて、タッチパネルを操作して聴きたい曲を探す。
ヘッドホンをかけて曲を探していると、隣の同じ視聴機をシュウが使っていた。
画面を見るとクラシックを探している。
『クラシック以外も聴けば?』
「聴かない」
『そんな事ないよ、聴いてみれば?』
そう言うと、シュウは俺がつけてるヘッドホンに、外側から耳を当てた。
ヴァンパイアは聴力がいい。人間には聞こえない小さな音でも聞こえるほどだ。
ヘッドホンから微かに漏れる音に、不快な顔を示す。
「無理」
『なんでこの良さが分からないかなぁ。こう、心の奥底から湧き上がってくるのがいいんじゃない。
まぁ、クラシックも俺は好きだけど、ロックとJ-POPは歌詞に意味があるから考えさせられるよ?』
シュウにも分かってほしいなぁ。
でも、クラシックの良さを知ってるからそれで十分だ。
本当は二人で語りたいけどね?
今度、無理矢理にでも聴かせようかなぁ。
『シュウは何聴いてるの?』
「アディエマスのHYMN」
『ふぅん』
俺は自分のヘッドホンを外し、シュウのしてるヘッドホンに外側から耳を当てた。
人間たちの雑音が聞こえる中、女性の澄んだ声が聞こえていた。
穏やかで、引き込まれる感覚だった。
『他のは?』
「あと気になってるのは、ペディのジムノペディ第一番」
タッチパネルを操作して流された曲は、ピアノ伴奏だけのゆったりとした曲だった。
ああ、これなら寝るときとか良さそうだな。
『「これ、いいな」』
さすが双子、まさかハモるとは思わなかった。
お互いビックリして顔を見合わせた。
シュウはヘッドホンを外して暫く固まってたけど……。
『「ははっ」』
顔を見合わせて軽く笑った。
久しぶりだなぁ。こんなに楽しそうに笑うシュウの笑顔。
『それ買う?』
「……ヨウも気に入ったのか?」
『うん、俺のクラシックの好みにビンゴ』
暫く二人で視聴コーナーで数曲聞いた後、目当ての棚に行った。
俺はロックを、シュウはさっき聴いていたクラシックを。
先にシュウを外で待たせて、急いで会計を済ませた。
『いい買い物したね?』
「そうだな」
『たまには散歩でもいいから外に出なよ?』
「めんどくさい」
これは、俺が連れ出すしかないか。
でも、シュウを連れ出すの何かと理由が必要だから大変なんだよなぁ。
『さて、次ね?』
「は?まだ何かあるわけ?」
『もう二ヶ所行きたい所があるんだよ』
シュウの腕を引っ張り、賑やかな繁華街を歩いた。
めんどくさそうなシュウは無視して、メンズ専用のアクセサリーショップに入った。
『シュウ、何がいい?』
「いらない」
『ええ?シュウに似合いそうなのあるよ?
ちょうど俺も、新しいの欲しかったし一緒に買わない?』
棚に並べられた様々なアクセサリーを俺は見ていた。
シュウは店を出ることもなく、俺の傍を離れなかった。
面倒くさいって言ってるけど、ちゃんとついてきてくれるんだよなぁ。
『ピアスは、今の気に入ってるから変えたくないし……ブレスレットかネックレスがいいなぁ。
シュウはどれがいいと思う?』
隣にいるシュウに聞くと、俺と商品棚を見比べて一つのブレスレットを取った。
それは、金のチェーンにゴールド加工がされた羽が付いているものだった。
「あんた、すぐいなくなるから、これ」
『……俺、そんなに自由気ままに見える?』
「見えるから言ってるんだけど?」
まぁ、シュウが選んでくれたのはハズレがないから嬉しいけどね?
じゃあこれと、ベルト通しに付けるシルバーチェーンでいいかな。
「早く買ってきて」
『はーい。待ってて』
外に出て行ったシュウは、プレーヤーを弄りながらちゃんと外で待ってくれていた。
俺はその隙にもう一つ、目に止めていたアクセサリーを一緒に買った。
『お待たせ』
「で、次どこ行くの?」
『行ってくれるの!?』
「……ここまできたら、離してくれないだろ」
シュウは俺のことよく分かってるねぇ。双子だからかな?
まぁ、最後の行きたい場所はカフェなんだけどさ。
シュウは嫌がるかもしれないけど、久しぶりにゆっくりしたかった。
他愛ない会話をしながら、繁華街の一番手前にあるカフェに入った。
料理の好みもほぼ同じだから、紅茶を二つずつ注文した。
席に座り、シュウが窓の外を眺めている姿を俺はじっと見つめていた。
「……なに?」
『変わらないね?シュウは。
いつだって、後ろ向きに考えないで、前向きに考えてる』
俺はダメだな。全部悪いのは自分のせいだと考えてしまう。
それに対してシュウは、過去に囚われずに前向きに考えてる。
あの子に関しては、例外ではあるけど……。
「ヨウは考えすぎ。俺はもう、気にしてない
『……うん。ありがとう』
でもまだ、もうちょっとだけ、俺に時間をくれるかな?
完全に立ち直るには、今の俺には無理だから。
心の問題的に、正しい考えができないから。
「はぁ……めんどくさい」
『めんどくさいのは、いつもでしょ?
俺達は騙してきたからね。母様を、使用人を、弟達を……』
「……そんな昔のこと、もう忘れた」
嘘。本当は覚えてるくせに。
……あの日のことは今も忘れない。
昨日のことのように覚えてる。
俺は、シュウに……。
「なにぼーっとしてるの。紅茶、温くなるんだけど?」
シュウの声で思考を現実に戻すと、いつの間にかテーブルの上に紅茶が運ばれていた。
俺が気づかない内に、店員さんが持って来てたのか。
目を閉じて紅茶を飲むシュウを見て、俺もティーカップに手をかけた。
『そうだね。飲もうか』
運ばれてきた紅茶に口を付ける。
俺のはアールグレイだけど、シュウのはアップルティーだった。
『アップルティー美味しい?』
「普通」
そう言って飲んでる姿を見てると、ちょっとだけ飲みたくなった。
じっと見てると、シュウが自分のティーカップを俺に差し出してきた。
俺は微笑んでそれを受け取ると、シュウは俺の目の前にあるアールグレイの入ってるティーカップを手にとった。
『んっ、美味しい。こっちもいけるね?』
「俺は飲めればどっちでもいい」
またティーカップを交換して飲んだ。
何も言わなくても、シュウは俺の事分かってくれてる。
『今日は俺の我が儘に付き合ってくれてありがとう』
「……別に」
そう言ってシュウは、紅茶を飲み干した。
早く帰りたいのか、シュウは立ち上がり会計をしに行った。
俺はゆっくり紅茶を飲み、会計が終わったシュウが呼びにくるのを待った。
「帰るぞ」
『うん』
俺も席を立ち、店を後にした。
先ほどより人波が少なくなった繁華街を、横に並んで歩いた。
夜風が通り抜けて、気持ちがいい。
『っと……ごめん!』
繁華街を歩いてると、俺の肩にぶつかってきた男の子がいた。
髪は金髪で、振り返るとその瞳はオッドアイだった。
「あー、大丈夫大丈夫!俺の方こそごめんね!」
『本当に怪我してない?』
「うん!大丈夫!心配しないでよ、お兄さん!んじゃあねー!」
ニコッと微笑んだ男は俺に手を振り駆け出した。
その先には車が止まっていた。
「コウ!雑誌の撮影に遅れる!」
「ごめんって、マネージャー!ちょっと買い物してたから遅れちゃったー!
ぁ、お兄さん!また会おうねー!……いつか」
そう笑顔で大きく手を振った男は、車に乗った。
マネージャーって言ってたから、もしかして芸能人だったのかな?
それに最後、何か言ってたような気がしたけど、気のせいか?
「ヨウ、置いていかれたいの?」
『あ、待って!』
俺は気にせず、シュウの後をついていった。
屋敷についた頃には夜中だった。
シュウも疲れたみたいで、すぐに自室に向かった。
そのまま俺もシュウの部屋に入り、買ったCDを渡した。
『あと、これ。受け取ってくれる?』
「……ブレスレット?」
あのアクセサリーショップで、最後に買ったものだ。
どうせなら、お揃いがいい。
俺のとは逆の、シルバーブレスレットの羽を選んだ。
「……ふぅん」
『じゃあシュウ、おやすみ』
「おやすみ」
シュウの自室を出て、隣の自分の部屋に入った。
すぐに買ったCDをプレーヤーに入れた。
買ってきたアクセサリーをサイドテーブルに置いて、ベットに横になる。
『今日は楽しかったなぁ。久しぶりにシュウの笑顔も見れたし。
そういえば、あの男の子……何か、違和感が……』
帰り際、俺と肩が当たってしまった男の子を思い浮かべた。
どこか様子が、おかしい気がした。どこから出てきたのか、気配がなかったんだ。
天井を見上げながら、花瓶に挿さってる薔薇を一本手に取った。
甘い香りが、鼻を擽る。いい気分だ。
『……』
薔薇に口付けると、手に取った白薔薇は粉々に崩れる。
それを見て、俺は粉々になった薔薇をベット下に払い落とした。
『……寝よう』
今日は、色々疲れた。
明日からは、英国校から出された課題、早めに片付けないとな。
また忘れて留年とかになったら、今度こそ父さんに何を言われるか分からない。
シュウみたいに北極送りにされたら、堪ったもんじゃないしね。
今は何も考えず、寝てしまおう。
―――『シュウ、またさ!』
―――「うん、いいよ!また、そうして遊ぼうか!」
~chain.4 END~
あのまま寝ちゃったのか。
長時間飛行機に乗ってたし、色々あって疲れたんだろうな。
隣で眠るシュウの襟元を捲ってみると、俺が付けたアザは綺麗に消えていた。
痕なんて残ってほしくないから、消えてくれてよかった。
……願わくば、あの痕まで消えてほしかったけど無理だよね。
あぁ、そういえば、そこらへんの音源好きに持っていっていいって言ってたっけ。
シュウを起こさないようにベットから降りた俺は、CDが並んでいる棚に向かった。
棚を見てて思うけど、クラシックが好きなのは昔から変わってないんだね。
俺はシュウと違ってクラシック以外も聞くからなぁ。
「……何してるの」
シュウの声が後ろから聞こえる。
起きたことは気配で感じていたから、振り返ることなく答えた。
『ねぇ、ロックとかJ-POPとかない?』
「あるわけないだろ」
だよねぇ?俺達、音楽の趣味だけは違うからなぁ
あ、俺もクラシックも好きだよ?
でもどっちかっていうと、激しい曲も好きかな。
『んー、でもこの辺りの聞いたことあるのばかりなんだよね。
……よし、買いに行こう!』
「……は?」
聞いた事あるやつばかりだから、買えばいいんだよ。
うん、それがいい。善は急げかな。
『はいシュウ、着替える!』
「おい!」
暴れるシュウを押さえつけて、有無を言わさず着替えさせた。
服はクローゼットから適当に引っ張り出したのを着させたけど、オシャレには気遣って選んだつもりだ。
めんどくさそうにため息をついたシュウは、諦めたように大人しくなった。
俺はそのままシュウの手を引っ張って夜の繁華街に足を向けた。
「……うるさい。眠い。怠い。帰りたい」
『あ、あそこのCDショップいいんじゃない?』
「……はぁ、勝手にしろ」
人の波が絶えない繁華街に来たシュウは、うるさそうにしながら文句を言っていた。
俺はそんな言葉を無視して目に入ったCDショップに入る。
後ろを見ると、シュウは頭をかきながらついてきていた。
なんだかんだ言って、ちゃんとついてきてくれるんだよね。
好きな音楽に関することだからかな?
視聴コーナーを見つけて、タッチパネルを操作して聴きたい曲を探す。
ヘッドホンをかけて曲を探していると、隣の同じ視聴機をシュウが使っていた。
画面を見るとクラシックを探している。
『クラシック以外も聴けば?』
「聴かない」
『そんな事ないよ、聴いてみれば?』
そう言うと、シュウは俺がつけてるヘッドホンに、外側から耳を当てた。
ヴァンパイアは聴力がいい。人間には聞こえない小さな音でも聞こえるほどだ。
ヘッドホンから微かに漏れる音に、不快な顔を示す。
「無理」
『なんでこの良さが分からないかなぁ。こう、心の奥底から湧き上がってくるのがいいんじゃない。
まぁ、クラシックも俺は好きだけど、ロックとJ-POPは歌詞に意味があるから考えさせられるよ?』
シュウにも分かってほしいなぁ。
でも、クラシックの良さを知ってるからそれで十分だ。
本当は二人で語りたいけどね?
今度、無理矢理にでも聴かせようかなぁ。
『シュウは何聴いてるの?』
「アディエマスのHYMN」
『ふぅん』
俺は自分のヘッドホンを外し、シュウのしてるヘッドホンに外側から耳を当てた。
人間たちの雑音が聞こえる中、女性の澄んだ声が聞こえていた。
穏やかで、引き込まれる感覚だった。
『他のは?』
「あと気になってるのは、ペディのジムノペディ第一番」
タッチパネルを操作して流された曲は、ピアノ伴奏だけのゆったりとした曲だった。
ああ、これなら寝るときとか良さそうだな。
『「これ、いいな」』
さすが双子、まさかハモるとは思わなかった。
お互いビックリして顔を見合わせた。
シュウはヘッドホンを外して暫く固まってたけど……。
『「ははっ」』
顔を見合わせて軽く笑った。
久しぶりだなぁ。こんなに楽しそうに笑うシュウの笑顔。
『それ買う?』
「……ヨウも気に入ったのか?」
『うん、俺のクラシックの好みにビンゴ』
暫く二人で視聴コーナーで数曲聞いた後、目当ての棚に行った。
俺はロックを、シュウはさっき聴いていたクラシックを。
先にシュウを外で待たせて、急いで会計を済ませた。
『いい買い物したね?』
「そうだな」
『たまには散歩でもいいから外に出なよ?』
「めんどくさい」
これは、俺が連れ出すしかないか。
でも、シュウを連れ出すの何かと理由が必要だから大変なんだよなぁ。
『さて、次ね?』
「は?まだ何かあるわけ?」
『もう二ヶ所行きたい所があるんだよ』
シュウの腕を引っ張り、賑やかな繁華街を歩いた。
めんどくさそうなシュウは無視して、メンズ専用のアクセサリーショップに入った。
『シュウ、何がいい?』
「いらない」
『ええ?シュウに似合いそうなのあるよ?
ちょうど俺も、新しいの欲しかったし一緒に買わない?』
棚に並べられた様々なアクセサリーを俺は見ていた。
シュウは店を出ることもなく、俺の傍を離れなかった。
面倒くさいって言ってるけど、ちゃんとついてきてくれるんだよなぁ。
『ピアスは、今の気に入ってるから変えたくないし……ブレスレットかネックレスがいいなぁ。
シュウはどれがいいと思う?』
隣にいるシュウに聞くと、俺と商品棚を見比べて一つのブレスレットを取った。
それは、金のチェーンにゴールド加工がされた羽が付いているものだった。
「あんた、すぐいなくなるから、これ」
『……俺、そんなに自由気ままに見える?』
「見えるから言ってるんだけど?」
まぁ、シュウが選んでくれたのはハズレがないから嬉しいけどね?
じゃあこれと、ベルト通しに付けるシルバーチェーンでいいかな。
「早く買ってきて」
『はーい。待ってて』
外に出て行ったシュウは、プレーヤーを弄りながらちゃんと外で待ってくれていた。
俺はその隙にもう一つ、目に止めていたアクセサリーを一緒に買った。
『お待たせ』
「で、次どこ行くの?」
『行ってくれるの!?』
「……ここまできたら、離してくれないだろ」
シュウは俺のことよく分かってるねぇ。双子だからかな?
まぁ、最後の行きたい場所はカフェなんだけどさ。
シュウは嫌がるかもしれないけど、久しぶりにゆっくりしたかった。
他愛ない会話をしながら、繁華街の一番手前にあるカフェに入った。
料理の好みもほぼ同じだから、紅茶を二つずつ注文した。
席に座り、シュウが窓の外を眺めている姿を俺はじっと見つめていた。
「……なに?」
『変わらないね?シュウは。
いつだって、後ろ向きに考えないで、前向きに考えてる』
俺はダメだな。全部悪いのは自分のせいだと考えてしまう。
それに対してシュウは、過去に囚われずに前向きに考えてる。
あの子に関しては、例外ではあるけど……。
「ヨウは考えすぎ。俺はもう、気にしてない
『……うん。ありがとう』
でもまだ、もうちょっとだけ、俺に時間をくれるかな?
完全に立ち直るには、今の俺には無理だから。
心の問題的に、正しい考えができないから。
「はぁ……めんどくさい」
『めんどくさいのは、いつもでしょ?
俺達は騙してきたからね。母様を、使用人を、弟達を……』
「……そんな昔のこと、もう忘れた」
嘘。本当は覚えてるくせに。
……あの日のことは今も忘れない。
昨日のことのように覚えてる。
俺は、シュウに……。
「なにぼーっとしてるの。紅茶、温くなるんだけど?」
シュウの声で思考を現実に戻すと、いつの間にかテーブルの上に紅茶が運ばれていた。
俺が気づかない内に、店員さんが持って来てたのか。
目を閉じて紅茶を飲むシュウを見て、俺もティーカップに手をかけた。
『そうだね。飲もうか』
運ばれてきた紅茶に口を付ける。
俺のはアールグレイだけど、シュウのはアップルティーだった。
『アップルティー美味しい?』
「普通」
そう言って飲んでる姿を見てると、ちょっとだけ飲みたくなった。
じっと見てると、シュウが自分のティーカップを俺に差し出してきた。
俺は微笑んでそれを受け取ると、シュウは俺の目の前にあるアールグレイの入ってるティーカップを手にとった。
『んっ、美味しい。こっちもいけるね?』
「俺は飲めればどっちでもいい」
またティーカップを交換して飲んだ。
何も言わなくても、シュウは俺の事分かってくれてる。
『今日は俺の我が儘に付き合ってくれてありがとう』
「……別に」
そう言ってシュウは、紅茶を飲み干した。
早く帰りたいのか、シュウは立ち上がり会計をしに行った。
俺はゆっくり紅茶を飲み、会計が終わったシュウが呼びにくるのを待った。
「帰るぞ」
『うん』
俺も席を立ち、店を後にした。
先ほどより人波が少なくなった繁華街を、横に並んで歩いた。
夜風が通り抜けて、気持ちがいい。
『っと……ごめん!』
繁華街を歩いてると、俺の肩にぶつかってきた男の子がいた。
髪は金髪で、振り返るとその瞳はオッドアイだった。
「あー、大丈夫大丈夫!俺の方こそごめんね!」
『本当に怪我してない?』
「うん!大丈夫!心配しないでよ、お兄さん!んじゃあねー!」
ニコッと微笑んだ男は俺に手を振り駆け出した。
その先には車が止まっていた。
「コウ!雑誌の撮影に遅れる!」
「ごめんって、マネージャー!ちょっと買い物してたから遅れちゃったー!
ぁ、お兄さん!また会おうねー!……いつか」
そう笑顔で大きく手を振った男は、車に乗った。
マネージャーって言ってたから、もしかして芸能人だったのかな?
それに最後、何か言ってたような気がしたけど、気のせいか?
「ヨウ、置いていかれたいの?」
『あ、待って!』
俺は気にせず、シュウの後をついていった。
屋敷についた頃には夜中だった。
シュウも疲れたみたいで、すぐに自室に向かった。
そのまま俺もシュウの部屋に入り、買ったCDを渡した。
『あと、これ。受け取ってくれる?』
「……ブレスレット?」
あのアクセサリーショップで、最後に買ったものだ。
どうせなら、お揃いがいい。
俺のとは逆の、シルバーブレスレットの羽を選んだ。
「……ふぅん」
『じゃあシュウ、おやすみ』
「おやすみ」
シュウの自室を出て、隣の自分の部屋に入った。
すぐに買ったCDをプレーヤーに入れた。
買ってきたアクセサリーをサイドテーブルに置いて、ベットに横になる。
『今日は楽しかったなぁ。久しぶりにシュウの笑顔も見れたし。
そういえば、あの男の子……何か、違和感が……』
帰り際、俺と肩が当たってしまった男の子を思い浮かべた。
どこか様子が、おかしい気がした。どこから出てきたのか、気配がなかったんだ。
天井を見上げながら、花瓶に挿さってる薔薇を一本手に取った。
甘い香りが、鼻を擽る。いい気分だ。
『……』
薔薇に口付けると、手に取った白薔薇は粉々に崩れる。
それを見て、俺は粉々になった薔薇をベット下に払い落とした。
『……寝よう』
今日は、色々疲れた。
明日からは、英国校から出された課題、早めに片付けないとな。
また忘れて留年とかになったら、今度こそ父さんに何を言われるか分からない。
シュウみたいに北極送りにされたら、堪ったもんじゃないしね。
今は何も考えず、寝てしまおう。
―――『シュウ、またさ!』
―――「うん、いいよ!また、そうして遊ぼうか!」
~chain.4 END~
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