第1章

 ロレーヌ夫人から仕事の話を聞いていると、突然ネオンが赤と青で2人の顔を染めた。
 野球団セーブルズが優勝したらしい。
「勝ったみたいね、セーブルズ」
「そのようですね、ロレーヌ夫人」
 結とロレーヌ夫人は、チームに胴上げされている、セーブルズの監督を大型モニターで見た。
「でも、今の私たちには関係ないわ。仕事の話に戻りましょう」
 ロレーヌ夫人の前のテーブルの上で、月のホログラムが回転していた。
「これを飲んだら都内のとある区へ行ってきてほしいの。詳しい場所は追ってメールするわ」
「わかりました」
 結は渡された細かなカプセルを飲んだ。
「行って参ります」
「いってらっしゃい」
 結はスロットを9にしてワッフルガールと一緒に瞬間移動した。
 このディストピアな世界を生きていくのはサバイバーだ。
 それは結とワッフルガールが一番よく知っている。
 結は幼いころからずっとワッフルガールと一緒にディストピアな世界を生きてきたのだから。
 結は懐中時計からレーザーを発光させてゆっくり歩く。
 時々背後を確認するが、誰も居ない。
 ロレーヌ夫人から目的地が描かれた地図が結の電脳内に届いた。
 廃病院に着いてから、表面にトゲトゲが付いた手袋を両手にはめて、進んでいき、窓から入って行った。
 ワッフルガールとはリードで繋がっている。
 ロレーヌ夫人に連絡すると、次の指示を聞いた。
 しかし、結はその指示には従わなかった。
 目の前にどこか懐かしさを感じさせる、ダークブラウンのソバージュを風に靡かせながらダークグリーンのワンピースを着ている若い女性が。階段上に立っていたのである。
「もしかして、ジャスミンなの?」
 後ろ姿しか見せなかったジャスミンがこちらに振り向いた。
 外からの逆光で表情はわからない。
「結……? 結なの? 私はジャスミンよ」
「そうよ、私が四條院結。久しぶりね、ジャスミン。学生時代ぶりかしら」
「そうね、結。卒業してからずっと会いたかったのよ、結。本気で貴女を捜していたんだから」
「ダートンから聴いたんだけど、私のこと好きなんだってね。私も学生時代からずっと好きよ、ジャスミン。ずっと一緒に居たいけど、仕事があるからそろそろ行かなきゃ。後でメッセージを送信しておくわ。期待してる。じゃあね、ジャスミン。近いうちにまた会いましょう」
「また会いましょう、結。会えて嬉しかった」
 2人は別れ、結はワッフルガールと一緒に、幅の広い螺旋階段を駆け上がり、ジャスミンを追い越して目的の階に行った。
 しかしそこには何もなく、誰も居なかった。
「くそっ」
 仕方なく結はロレーヌ夫人の指示を思い出し、やることにする。
 再びマップを開いてロレーヌ夫人からのメッセージを開き、目的の部屋へ行く。
 そこには膨大ぼうだいな量のロストメモリーのとりでがあり、その向こうには、こしまでびたパールピンクの髪をおろして、ライトグレーのワンピースを着た情報屋モリィが回転椅子いす座面ざめんの上でひざを抱え、何やら小難こむずかしそうな本を読んでいた。
 モリィはこちらにり向かずに言った。
「残念。ジャスミンは失恋しつれんしたと思っているよ、今頃いまごろ
「こっちは仕事のために来たんだけど、私の?」

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