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第1話 いつもの会話と儀式の日

 大正時代中期。4月12日。
 軍人学校帰りの名家の子息・坂千秋は、使いの者の整 敬造ととのい・けいぞうに路面電車の中で許婚の夕希ゆうきの性格のことで愚痴っていた。
 
 路面電車は蒸気機関を全車両1両1両のコアとして走っている。

 千秋は疲労しているのか、帽子が斜めにズレて、髪はぼさぼさになり、少しやつれていた。

「あのお方はどうしてあんな態度をとってくるのだろうか。俺、彼女に何か悪いことしたか?」

 敬造は首を横に振った。格好は、所謂執事服である。

「お坊ちゃまは何も悪いことなどしていません」
「じゃあ、何故だ?」

 「おそらく、まだ素直になれないご年齢なのでしょう」

 夕希という女性は、千秋の許嫁いいなずけで、性格はいつもとげとげしいので、千秋にとっては少し恐い印象を受けている。
 しかし、敬造の言葉に、気が和んだ。

「思春期なのか、イヤイヤ期なのか、わからないな」
 面白そうに千秋は言った。


 帰宅すると、いつものように屋敷の裏口から入り、屋敷の3階の屋根裏部屋に入り、制服から私服の袴に着替えて、(夕希がいない)西棟へ向かう。

 今日は千秋が一人前の《妖魔退治代行師》として家業を正式に継ぐ儀式でもあり、千秋の17歳の誕生日でもある。

  西棟の2階の和室には大勢の使いの者と、千秋の祖父母が待っていた。

  大勢の使いの者たちに囲まれながら、16畳ほどの広間の中央へ行くと、そこで立ち止まり、座る。

  千秋の目の前に、山から流れてくる神清水が注がれた小さな盃をしっかりと両手で持ち上げ、口をつけて一気に飲み干した。

 盃を使いの者に渡す。

  今度は立ち上がり、竹刀を持ち、黒子に妖魔役として協力してもらいながら《後継の所作》を立派に披露してみせて儀式は終わった。

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