羅針盤
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突如現れたイレギュラー達は、早くも#コンパス を占拠していった。交戦したヒーローを次々と蝕み増殖していくそれらは、例えるとするならばホラー映画のゾンビとか、難病の感染者に近く、気が付けば無事なのは私かVoidollしかいない。
イレギュラーが発生してから、Voidollは管理者室に引き篭る様になった。突如発生した非常事態に、一から対策を練っているのだろう。私はというと、解析者──即ちプレイヤーは、こういう時何も出来ない。元々ヒーローと共にポータルキーを介して戦闘摂理を解析し、チップを集めてまた解析する、そういうものであるから、こういう事には無頓着……というか、ほぼ運営たるVoidollらの仕事になってしまう。だから当然暇を持て余すわけで、Voidollから何か指示が無い限り適当に散歩している。重要な場所には必ずロックが掛かっているし、いざとなったら管理者権限でアリーナ外でもカードを使える様にすればいい。だが私としてもあの異形連中とつるみたくは無いし、解析者にも影響を及ぼすと釘を刺されている。だからロックが甘いところギリギリまで行って引き返す、というのがいつものパターンだった……いつもは。
「ダーれダ?」
所々ノイズがかった声と共に視界を塞がれる。しくじった。少々奴らが蔓延るエリアに近付き過ぎたか。
その声の主を私は知っているが、今の状態で名前を呼びたくない。そこまで強く覆っている訳でも無い腕を振りほどいて相手を睨み付けた。
「……またあんた?イレギュラー」
目の前にいたのは、イレギュラーに侵食されて変わり果ててしまった十文字アタリ。太陽の様に眩しい黄色の髪は光ひとつ無い空の様な黒色に、青空のように綺麗な瞳は氷のようにどこか冷たい瞳に変わっている。彼の姿を模したオリジナルは、ここに来てから……というか、ここに来る前から知ってるけど、私は少々めんどくさいと自負するくらいには目の前のこいつを十文字アタリとは認めたくなかった。例えバグったここのシステムが認めても、他のイレギュラーが認めても。
「そろソろオリジなルみたイに呼んでクれよ。傷付クだロ?」
「やだ。第一あいつとあんたは違う」
というかどうして後ろにいたんだと問えば、イレギュラーはひらひらとテレパスのカードを見せ付ける。クソ、忠告素直に聞いてとっとと戻れば良かった。バカだ自分。
それはそうと、他のイレギュラー達を元と同じ名前で呼ぶのに自分だけ『イレギュラー』と呼ぶ私が、こいつは気に入らないらしい。自分も『十文字アタリ』だろ、と訴えるのだ。でもこんな異形を十文字アタリと呼んでしまうのはあいつに失礼な気がして、呼んでいない。
「どこガちがウ?おレもオリジナるもレとロゲーム好きだシ、ぷれいやーのことも好き、見た目も色ガチガうだケだシ……」
「見た目とか、趣味嗜好の話じゃないんだよ」
サラッと突っ込まれた爆弾はスルーしよう。どうせいつもの口説き文句か何かだ。そうに違いない。
「あいつはそんなニヤニヤ顔で笑わないし、いきなり視界を塞ぐイタズラなんてしないし、何より……」
私にとって、一番のヒーローだから。そう言いかけた途端、首に圧迫感を感じた。一瞬の間に首を掴まれ、壁に押し付けられる。両手を首を掴む手に添えて解こうにも、同い年とは言え男女だ、力の差があって解けない。あの大きいグローブが絞め上げる首から掠れた声が漏れ出た。
「っく……う、ぁ……」
「……一番ノ、ヒーロー、か」
苦しさに藻掻く私を余所に、イレギュラーは気に食わない、と言う様に吐き捨てる。あいつの安心させてくれる手とは違い、本気で私を殺す気の手。こういうとこも違うなと思ったけど、今言うと逆効果だから言わない。
「何がチガウ?オれもアイツも、『十文字アタリ』ナのに。どうして他のヤツらの名前を呼ンで、おレは呼ばナイ?プれイヤー」
「う、ぐ……ぁ……だ、ぐ……」
言葉にならない声が口から漏れる。これじゃあ答えられないな。もとより答えさせる気も無いのだろうが。ギリギリと首を絞められ、目の前が霞んで来たところでパッと手が離れる。自立する事も出来ず、膝をついて咳き込んだ。
「う、ぇ、ゲホッ、がほっ……」
惨めに喉元を押さえて咳き込む私と目線を合わせる様に、イレギュラーはしゃがみ、こちらを見ろと言う様に私の顔に両手を添えて無理矢理上げる。その顔に浮かんでいるのは、ここを壊さんという意志を孕んでいる様な邪悪な笑みだ。
「どノ道、アの機械がオレ達側ニなれバ、ぷレいやーモそうなル」
まるでその日が楽しみだと言う様に、笑みを歪めるイレギュラーを私は睨む事しか出来ない。そのニヤニヤ顔が腹立たしくて、油断している隙を突いてドン、と胸板を押して突き飛ばしてやった。そのまま振り返らずに踵を返して走る。この先に行けば解析者や管理者しか通れないエリアに出るから、あいつらは追って来れないはずだ。
「諦めちまえよ、プレイヤー」
そう聞こえた気がするのは気にしない事にした。
私があのイレギュラーを『十文字アタリ』だと認めて名前を呼べば、これはいつか終わるのだろうか。けれどそれは根本的な解決にはならないし、何よりあいつの事をオリジナルの名前で呼ばないのは私のエゴだ。オリジナルの方がどう思うかは知らずに名前を呼ばないでいるのだから。
でも、消える間際になったら呼んでやってもいいか。そう思い直し、部屋への歩を進めた。
イレギュラーが発生してから、Voidollは管理者室に引き篭る様になった。突如発生した非常事態に、一から対策を練っているのだろう。私はというと、解析者──即ちプレイヤーは、こういう時何も出来ない。元々ヒーローと共にポータルキーを介して戦闘摂理を解析し、チップを集めてまた解析する、そういうものであるから、こういう事には無頓着……というか、ほぼ運営たるVoidollらの仕事になってしまう。だから当然暇を持て余すわけで、Voidollから何か指示が無い限り適当に散歩している。重要な場所には必ずロックが掛かっているし、いざとなったら管理者権限でアリーナ外でもカードを使える様にすればいい。だが私としてもあの異形連中とつるみたくは無いし、解析者にも影響を及ぼすと釘を刺されている。だからロックが甘いところギリギリまで行って引き返す、というのがいつものパターンだった……いつもは。
「ダーれダ?」
所々ノイズがかった声と共に視界を塞がれる。しくじった。少々奴らが蔓延るエリアに近付き過ぎたか。
その声の主を私は知っているが、今の状態で名前を呼びたくない。そこまで強く覆っている訳でも無い腕を振りほどいて相手を睨み付けた。
「……またあんた?イレギュラー」
目の前にいたのは、イレギュラーに侵食されて変わり果ててしまった十文字アタリ。太陽の様に眩しい黄色の髪は光ひとつ無い空の様な黒色に、青空のように綺麗な瞳は氷のようにどこか冷たい瞳に変わっている。彼の姿を模したオリジナルは、ここに来てから……というか、ここに来る前から知ってるけど、私は少々めんどくさいと自負するくらいには目の前のこいつを十文字アタリとは認めたくなかった。例えバグったここのシステムが認めても、他のイレギュラーが認めても。
「そろソろオリジなルみたイに呼んでクれよ。傷付クだロ?」
「やだ。第一あいつとあんたは違う」
というかどうして後ろにいたんだと問えば、イレギュラーはひらひらとテレパスのカードを見せ付ける。クソ、忠告素直に聞いてとっとと戻れば良かった。バカだ自分。
それはそうと、他のイレギュラー達を元と同じ名前で呼ぶのに自分だけ『イレギュラー』と呼ぶ私が、こいつは気に入らないらしい。自分も『十文字アタリ』だろ、と訴えるのだ。でもこんな異形を十文字アタリと呼んでしまうのはあいつに失礼な気がして、呼んでいない。
「どこガちがウ?おレもオリジナるもレとロゲーム好きだシ、ぷれいやーのことも好き、見た目も色ガチガうだケだシ……」
「見た目とか、趣味嗜好の話じゃないんだよ」
サラッと突っ込まれた爆弾はスルーしよう。どうせいつもの口説き文句か何かだ。そうに違いない。
「あいつはそんなニヤニヤ顔で笑わないし、いきなり視界を塞ぐイタズラなんてしないし、何より……」
私にとって、一番のヒーローだから。そう言いかけた途端、首に圧迫感を感じた。一瞬の間に首を掴まれ、壁に押し付けられる。両手を首を掴む手に添えて解こうにも、同い年とは言え男女だ、力の差があって解けない。あの大きいグローブが絞め上げる首から掠れた声が漏れ出た。
「っく……う、ぁ……」
「……一番ノ、ヒーロー、か」
苦しさに藻掻く私を余所に、イレギュラーは気に食わない、と言う様に吐き捨てる。あいつの安心させてくれる手とは違い、本気で私を殺す気の手。こういうとこも違うなと思ったけど、今言うと逆効果だから言わない。
「何がチガウ?オれもアイツも、『十文字アタリ』ナのに。どうして他のヤツらの名前を呼ンで、おレは呼ばナイ?プれイヤー」
「う、ぐ……ぁ……だ、ぐ……」
言葉にならない声が口から漏れる。これじゃあ答えられないな。もとより答えさせる気も無いのだろうが。ギリギリと首を絞められ、目の前が霞んで来たところでパッと手が離れる。自立する事も出来ず、膝をついて咳き込んだ。
「う、ぇ、ゲホッ、がほっ……」
惨めに喉元を押さえて咳き込む私と目線を合わせる様に、イレギュラーはしゃがみ、こちらを見ろと言う様に私の顔に両手を添えて無理矢理上げる。その顔に浮かんでいるのは、ここを壊さんという意志を孕んでいる様な邪悪な笑みだ。
「どノ道、アの機械がオレ達側ニなれバ、ぷレいやーモそうなル」
まるでその日が楽しみだと言う様に、笑みを歪めるイレギュラーを私は睨む事しか出来ない。そのニヤニヤ顔が腹立たしくて、油断している隙を突いてドン、と胸板を押して突き飛ばしてやった。そのまま振り返らずに踵を返して走る。この先に行けば解析者や管理者しか通れないエリアに出るから、あいつらは追って来れないはずだ。
「諦めちまえよ、プレイヤー」
そう聞こえた気がするのは気にしない事にした。
私があのイレギュラーを『十文字アタリ』だと認めて名前を呼べば、これはいつか終わるのだろうか。けれどそれは根本的な解決にはならないし、何よりあいつの事をオリジナルの名前で呼ばないのは私のエゴだ。オリジナルの方がどう思うかは知らずに名前を呼ばないでいるのだから。
でも、消える間際になったら呼んでやってもいいか。そう思い直し、部屋への歩を進めた。
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