ひぃこらひぃこらと鞄を肩に自宅へ帰宅した時にはもう、空はオレンジ色に染まっていた。十文字と会った時と似ているな、とぼんやり考えてベッドへ沈む。雑誌買いに行くの、いつにしようか。なるべく早く読みたいけど、今日みたいに腹いせに付き合わされたらそれどころじゃない。
　そう言えば今週で夏休みに入るっけ。その時に買えばいいか。今日はもう疲れた。制服のまま瞼を綴じる。そのまま私の意識は沈んだ。

　目が覚める。辺り一面暗闇で、前を凝視しても先なんて見えない。私はそこを、とぼとぼと歩いていた。ここは一体どこだろう、どうして私はここにいるのだろう、なんて思いながら亡者の様に歩いていると、いきなり何かに足を掴まれる。身構えも出来ずに当然転んだ。痛くないから、きっとこれは夢だ。足をその場に縫い止める様に絡み付く何かは、逃がさないと言わんばかりに力を強める。まるで罪人の足枷の様だ。じゃあ周りから聞こえる罵詈雑言は、きっと罪人（わたし）を責める民衆だろうか。

『あなたが盗ったのでしょう？』

『わたし見たもん！音羽ちゃんが盗ったところ！』

『お母さん達も謝るから、ね？だから本当の事を話して』

『諷枉さんは悪い悪い泥棒さんなの。だからこれもしかたの無い事なの』

　そうだ、これは仕方の無い事だ。仕方の無い仕打ちだ。けどどうしてか、どこかが苦しいと、助けてと言うのだ。声は段々と大きくなり、私を囲うように反響する。やがて私はそれらに押し潰され、意識を放した。

　パッと目が覚める。いつの間にか寝てしまっていたらしい。気付けば上半身全体が汗でびっしょり濡れていた。それが寝汗か、暑くて発汗したものかはわからない。
　気付けばとっくに日は沈んでいて、夜になっていた。ぴとりと張り付く感触が気持ち悪くて、シャワーを浴びる事にした。ボタンをぷちぷちと外してシャツをネットに入れて洗濯機に放り込む。ふと見えた鏡に写った自分の身体は、昨日までより明らかに傷が増えていた。あの女子の力の強さは同年代の平均より上なのかもしれない。
　中学に上がって以来、見る頻度が増した気がする。夢は自分が思ってる事とか記憶とかが影響するとは言うが、だとしたら相当ろくでもない記憶なんだろうな、と自嘲した。
　パジャマに着替えて脱ぎっぱなしの制服を片付け、冷蔵庫のタッパーからおかずを適量取り出す。そろそろ少なくなって来たな。自炊とか始めてみようかな。
　ご馳走様、と両手を合わせて皿を洗い、歯磨きを済ませてベッドに転がり込む。今日はもうやる事そんなに無いし、寝てしまえ。スマホに充電器を挿し、そのまま目を閉じた。