さまーでいず
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
そうして、何度対戦していただろうか。気が付けばすっかり夕暮れ時で、児童の帰宅を促すチャイムがそこかしこで聞こえて来た。これ以上遅くなるのはあれだから、と今日のところはお開きとなった。若干ボロボロな靴を履いて、鞄を持ち、十文字にぺこりとお辞儀をする。
「ありがとな、こんなに付き合ってくれて」
「ううん、元々ゲーム好きだし」
ここまで遅くなっても、どうせ家に両親はいないだろう。中学に上がってからはめっきり付き合いが減ったと思うし。だから気にする事も無いという気持ちも込めて答える。
「こちらこそ、ここまで付き合わせちゃってごめんね。あんなに何度も何度もやらせて結局一度も勝てなかったし……本当にごめん」
「いーって。今まで来たやつ、誘っても一回で終わっちまうからつまんなかったんだ」
確かに彼の持ってるゲームは全て、私達が知らないものが多い。新しいゲームしか持たない私の同級生にとっては変わっていると思うのであろう。……それこそ私程の負けず嫌いであれば、彼に負けてつまらないと感じてすぐ帰ってしまうのだろう、きっと。
「そっ、か」
「だから、俺の方こそゴメンな。知らないゲームばっかりでつまんなかっただろ?」
「……そんな事、無いよ」
え、と彼は目を丸くする。私も驚いた。こんな事を言うとか、思って無かったのだ。適当なとこで切り上げて帰るはずだったのに、今日は何もかも狂うらしい。
言葉を塞き止めようにも、口は自らの意に反して止まらず、ひたすら動き続ける。
「誰かとまともに遊んだ事、今日が久しぶりだったし、今までやらなかったジャンルにも手を出せたし、久々に楽しかった、と思う」
止まれ、止まれ、なんて馬鹿みたいに思っても、口は止まることを知らないかのように喋り続ける。ただ言いたい事をのべつまくなしに喋るだけだ。ああ、穴があるなら入ってそのまま埋まりたい……。
「だから、その、私みたいに楽しいって、思ってる人も、いると思い、ます……」
そこまで言って、自分はとても恥ずかしい事を言ってるのでは無いか、出過ぎた事を言ったのではないかとようやく我に返る。無意識にスラスラ言ってたとはいえ、自分なんかがここまで言って良いのだろうか。慌てて咄嗟に話題を変える。
「そ、それに!やっぱり何度も同じゲームに付き合わせた私の方こそ申し訳ないって言うか……。他のゲームとか、やりたかっただろうし……」
目を伏せながらそう言えば、彼はまたしても目を丸くし、驚いたと言う風に言った。
「俺、別につまんないとか思わなかったぞ?」
え、と今度は私が間抜けな声を出す。面食らう私をよそに、頬をぽりぽりと掻きながら照れ臭そうに彼は続けた。
「さっきも言ったけどさ、俺、こんなに長く誰かとゲームしたことってあまり無いんだ。本当に一回とか、良くて二回くらいで、どいつも張合いがねぇなって思ってたんだよ」
「だから、お前がここまで付き合ってくれたの、本当に嬉しかった」
ありがとな、と言って、優しい笑みを浮かべる。嘘だ、絶対嘘だ、信じたら痛い目を見ると心の底で何かが囁いても、目の前の彼はきっと素直なのだろうか、嘘をついている様には見えなくて。
誰かに純粋な感謝を述べられたのはいつぶりだろうか。どんな事であっても、だいたい嫌味ったらしい皮肉めいたものだけだったから、こんな事だけでも私の飢えに飢えた欲求は満たされてしまう。気付けば視界が滲んでいて、咄嗟に顔を逸らす。
「……こちらこそ、ありがとう、だよ」
呟いてそのまま、エレベーターまで走る。恥ずかしくて挨拶どころじゃ無くなってしまった。
「なあ」
エレベーターの前まで来て降下のボタンを押して待っているところを十文字に追い付かれ、おずおずと振り向く。彼も走って追い掛けて来たのか、肩を上下に揺らしていた。
「お前の名前、教えてくれないか?」
名字くらいしか知らねぇし、と彼は言う。出会ってまだ一日で普通名前呼ぶか?とも思うが、そもそもこいつがクラス表を持ってるか怪しいし、と納得し、滲んだ視界を袖で拭い、向き直る。
「……音羽」
私の名前、と続けた所でエレベーターが到着する。そのまま何も言わずに乗り、一階のボタンを押して閉じるボタンを押す。そのまま閉まるまで十文字に小さく手を振った。
扉が完全に閉まった時、壁にもたれかかってずるずるとしゃがみ込む。脳裏に浮かぶのはあの眩しい笑顔。
「……ずるいよ」
あんな笑顔で『ありがとう』なんて言われたら、もっと言われたくなってしまうじゃないか。あいつなら優しくしてくれるかもって、期待しちゃうじゃないか。……もっと、あの笑顔が見たいと、思ってしまうじゃないか。
一階に降りて帰路についても、顔の熱は冷めず、十文字の笑顔も離れることはなかった。
「ありがとな、こんなに付き合ってくれて」
「ううん、元々ゲーム好きだし」
ここまで遅くなっても、どうせ家に両親はいないだろう。中学に上がってからはめっきり付き合いが減ったと思うし。だから気にする事も無いという気持ちも込めて答える。
「こちらこそ、ここまで付き合わせちゃってごめんね。あんなに何度も何度もやらせて結局一度も勝てなかったし……本当にごめん」
「いーって。今まで来たやつ、誘っても一回で終わっちまうからつまんなかったんだ」
確かに彼の持ってるゲームは全て、私達が知らないものが多い。新しいゲームしか持たない私の同級生にとっては変わっていると思うのであろう。……それこそ私程の負けず嫌いであれば、彼に負けてつまらないと感じてすぐ帰ってしまうのだろう、きっと。
「そっ、か」
「だから、俺の方こそゴメンな。知らないゲームばっかりでつまんなかっただろ?」
「……そんな事、無いよ」
え、と彼は目を丸くする。私も驚いた。こんな事を言うとか、思って無かったのだ。適当なとこで切り上げて帰るはずだったのに、今日は何もかも狂うらしい。
言葉を塞き止めようにも、口は自らの意に反して止まらず、ひたすら動き続ける。
「誰かとまともに遊んだ事、今日が久しぶりだったし、今までやらなかったジャンルにも手を出せたし、久々に楽しかった、と思う」
止まれ、止まれ、なんて馬鹿みたいに思っても、口は止まることを知らないかのように喋り続ける。ただ言いたい事をのべつまくなしに喋るだけだ。ああ、穴があるなら入ってそのまま埋まりたい……。
「だから、その、私みたいに楽しいって、思ってる人も、いると思い、ます……」
そこまで言って、自分はとても恥ずかしい事を言ってるのでは無いか、出過ぎた事を言ったのではないかとようやく我に返る。無意識にスラスラ言ってたとはいえ、自分なんかがここまで言って良いのだろうか。慌てて咄嗟に話題を変える。
「そ、それに!やっぱり何度も同じゲームに付き合わせた私の方こそ申し訳ないって言うか……。他のゲームとか、やりたかっただろうし……」
目を伏せながらそう言えば、彼はまたしても目を丸くし、驚いたと言う風に言った。
「俺、別につまんないとか思わなかったぞ?」
え、と今度は私が間抜けな声を出す。面食らう私をよそに、頬をぽりぽりと掻きながら照れ臭そうに彼は続けた。
「さっきも言ったけどさ、俺、こんなに長く誰かとゲームしたことってあまり無いんだ。本当に一回とか、良くて二回くらいで、どいつも張合いがねぇなって思ってたんだよ」
「だから、お前がここまで付き合ってくれたの、本当に嬉しかった」
ありがとな、と言って、優しい笑みを浮かべる。嘘だ、絶対嘘だ、信じたら痛い目を見ると心の底で何かが囁いても、目の前の彼はきっと素直なのだろうか、嘘をついている様には見えなくて。
誰かに純粋な感謝を述べられたのはいつぶりだろうか。どんな事であっても、だいたい嫌味ったらしい皮肉めいたものだけだったから、こんな事だけでも私の飢えに飢えた欲求は満たされてしまう。気付けば視界が滲んでいて、咄嗟に顔を逸らす。
「……こちらこそ、ありがとう、だよ」
呟いてそのまま、エレベーターまで走る。恥ずかしくて挨拶どころじゃ無くなってしまった。
「なあ」
エレベーターの前まで来て降下のボタンを押して待っているところを十文字に追い付かれ、おずおずと振り向く。彼も走って追い掛けて来たのか、肩を上下に揺らしていた。
「お前の名前、教えてくれないか?」
名字くらいしか知らねぇし、と彼は言う。出会ってまだ一日で普通名前呼ぶか?とも思うが、そもそもこいつがクラス表を持ってるか怪しいし、と納得し、滲んだ視界を袖で拭い、向き直る。
「……音羽」
私の名前、と続けた所でエレベーターが到着する。そのまま何も言わずに乗り、一階のボタンを押して閉じるボタンを押す。そのまま閉まるまで十文字に小さく手を振った。
扉が完全に閉まった時、壁にもたれかかってずるずるとしゃがみ込む。脳裏に浮かぶのはあの眩しい笑顔。
「……ずるいよ」
あんな笑顔で『ありがとう』なんて言われたら、もっと言われたくなってしまうじゃないか。あいつなら優しくしてくれるかもって、期待しちゃうじゃないか。……もっと、あの笑顔が見たいと、思ってしまうじゃないか。
一階に降りて帰路についても、顔の熱は冷めず、十文字の笑顔も離れることはなかった。