さまーでいず
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朝。スマホのアラームを止めて時計を見る。時刻は朝六時半。
もそもそとベッドから這い出して洗面所で顔を洗い、制服に着替える。この前の休日は家にいたから大して買い物もしてないし、貰ったおかずは残っているが、夕食用に残しておきたい。という事で食パンを一枚取り出してトースターに入れる。バター無しで食べる方が私は好きだ。
そんなこんなで朝食を終えれば、時刻は七時ほど。食器を洗って支度を終え、外に歩み出す。正直この時点でもう帰りたい。けど行かなかったら、明日はもっと酷い事になりそうだから。
今日の天気も憎たらしい程の晴れだ。長袖がいい加減暑いけど、腕の傷を見られたら後が怖い。変に先生とか周りの大人にバレて報復を喰らうのは勘弁だ。
通学路から校門へと着いても誰もいない。この調子だと、今日は教室から仕掛けるんだろうか。と、下駄箱を開けて、落書きまみれでやけにずぶ濡れの上履きに履き替える。靴下越しに伝わる水の感覚が気持ち悪い。雨の中を歩いているみたいだ。
すっかり慣れて雑音の域に達してしまった周囲の嘲笑やひそひそ話を聞き流して、重い足取りで教室へ向かう。微妙に開いている引き戸の上には掃除用のバケツが挟まっていて、恐らく水のたっぷり入ったアレを頭の上に落としてやろう、という何とも古典的な思惑だろう。けれど引っ掛からないと彼らの機嫌を損ねるだけなので、大人しく水を掛けられる事にする。
「……寒」
冷房の風が、水で貼り付いた袖を撫ぜる。まるで外を全力疾走して汗をかいた後、冷房の効いた部屋に入った後みたいだ。今の私はきっと、雪だるまみたいに青いバケツを帽子の様に被って、全身水に濡れた間抜けな様相なんだろう。くすくすとそこかしこから聞こえる嘲笑と、好き放題に油性ペンで落書きされた机を無視して一限の用意を始めた。
始業のベルが鳴り、朝礼を終えて授業が始まったとしても平穏なんて来ない。いじめなんてものは、時間も場所も問わずにやって来るのだから。例えば今だって、落書きや切り傷が邪魔して教科書の文字は読みにくいし、その状態で先生から当てられてもどの部分なのか判別出来ない。それで口ごもってたら怒られる──余談だが、いじめが始まってからというものの教師ですら全部私が悪いという事になっているらしい──ので、それを見て周りが笑う、そんなサイクルだ。
「諷枉さんって、本当にダメダメだよねぇ」
「どうして皆みたいにきちんと出来ないの」
「"泥棒"さんにはお似合いの格好だよ」
一人の声を皮切りに、教室中が笑いに包まれる──ただしそれは嘲笑である──。傍から見ればみんなニコニコ仲良しクラス、しかし現実はそうでは無く、ただ一人の生徒を協力していたぶっている様に私には見える。周りは微塵もそんな事思っちゃいないのだろうが。
とまあ、明るく楽しく皆が笑顔な授業を終え、明らかに自分だけ少なく配膳された給食も食べ終え、昼休みを人気の無い場所で隠れて過ごし、さっきと同じような授業を受けて放課後。そう言えば今日は愛読しているゲームの雑誌の新刊の発売日だと思い出し、急ぎ足で帰ろうとした矢先に囲まれた。人気の無い校舎裏に連れ込んで囲むとは随分と古典的だなと、ぼんやり思っていた。中心にいるのは、所謂カースト上位と思しき女子。
「……何の用ですか」
「わたしねェ、ちょーっと今イライラしてるんだぁ」
だから、と彼女は一幕置いて私の胸倉を掴む。
「諷枉さんで、ストレス発散させて?」
思い切り腹に入れられた時が、開始の合図。腹を押さえて蹲る私を余所に、彼女らは私を取り囲んで蹂躙し始めた。
腕や足の骨を砕く勢いでそれらを踏み付ける脚。
内臓物を吐き出させるかの如く腹を蹴り付け、殴り付ける脚や拳。
それらは奇妙なまでに顔やスカートと靴下の間といった露出する箇所には当たらず、必ず服の下とかに当たるように降り注ぐ。それを私は胎児の様に背中を丸めて耐えるしかない。でも前髪を掴まれて無理矢理前を向かされる為それは叶わず、代わりにいつもの事だから痛くないと言い聞かせるしか出来ない。けど悲鳴とか涙を流したら、相手の思う壷だ。だからなるべく泣かないように、痛みを感じないように、耐える。
ある程度蹴り殴り終わったら満足したのか、最後にカースト上位女子は前髪を掴んだまま私に目線を合わせて、言う。
「良い?諷枉さんは、悪い悪い泥棒さんなの。だからこれもしかたの無い事なの」
ね?と言う様な目に、力なく頷く。そうすれば終わりだ。いつも通り私は制裁されて、それで終わり。カースト上位女子とその取り巻きは満足気に、それでもどこか物足りなさげに帰って行った。
残ったのは私と、リンチの最中もみくちゃにされて放り投げられた鞄だけ。それをボロボロの腕で引っ掴んで、よたよたと昇降口へ向かう。
歩を進める度に痛む足に鞭を打ちながら、今日雑誌買いに行くのはやめよう、とぼんやり思った。
もそもそとベッドから這い出して洗面所で顔を洗い、制服に着替える。この前の休日は家にいたから大して買い物もしてないし、貰ったおかずは残っているが、夕食用に残しておきたい。という事で食パンを一枚取り出してトースターに入れる。バター無しで食べる方が私は好きだ。
そんなこんなで朝食を終えれば、時刻は七時ほど。食器を洗って支度を終え、外に歩み出す。正直この時点でもう帰りたい。けど行かなかったら、明日はもっと酷い事になりそうだから。
今日の天気も憎たらしい程の晴れだ。長袖がいい加減暑いけど、腕の傷を見られたら後が怖い。変に先生とか周りの大人にバレて報復を喰らうのは勘弁だ。
通学路から校門へと着いても誰もいない。この調子だと、今日は教室から仕掛けるんだろうか。と、下駄箱を開けて、落書きまみれでやけにずぶ濡れの上履きに履き替える。靴下越しに伝わる水の感覚が気持ち悪い。雨の中を歩いているみたいだ。
すっかり慣れて雑音の域に達してしまった周囲の嘲笑やひそひそ話を聞き流して、重い足取りで教室へ向かう。微妙に開いている引き戸の上には掃除用のバケツが挟まっていて、恐らく水のたっぷり入ったアレを頭の上に落としてやろう、という何とも古典的な思惑だろう。けれど引っ掛からないと彼らの機嫌を損ねるだけなので、大人しく水を掛けられる事にする。
「……寒」
冷房の風が、水で貼り付いた袖を撫ぜる。まるで外を全力疾走して汗をかいた後、冷房の効いた部屋に入った後みたいだ。今の私はきっと、雪だるまみたいに青いバケツを帽子の様に被って、全身水に濡れた間抜けな様相なんだろう。くすくすとそこかしこから聞こえる嘲笑と、好き放題に油性ペンで落書きされた机を無視して一限の用意を始めた。
始業のベルが鳴り、朝礼を終えて授業が始まったとしても平穏なんて来ない。いじめなんてものは、時間も場所も問わずにやって来るのだから。例えば今だって、落書きや切り傷が邪魔して教科書の文字は読みにくいし、その状態で先生から当てられてもどの部分なのか判別出来ない。それで口ごもってたら怒られる──余談だが、いじめが始まってからというものの教師ですら全部私が悪いという事になっているらしい──ので、それを見て周りが笑う、そんなサイクルだ。
「諷枉さんって、本当にダメダメだよねぇ」
「どうして皆みたいにきちんと出来ないの」
「"泥棒"さんにはお似合いの格好だよ」
一人の声を皮切りに、教室中が笑いに包まれる──ただしそれは嘲笑である──。傍から見ればみんなニコニコ仲良しクラス、しかし現実はそうでは無く、ただ一人の生徒を協力していたぶっている様に私には見える。周りは微塵もそんな事思っちゃいないのだろうが。
とまあ、明るく楽しく皆が笑顔な授業を終え、明らかに自分だけ少なく配膳された給食も食べ終え、昼休みを人気の無い場所で隠れて過ごし、さっきと同じような授業を受けて放課後。そう言えば今日は愛読しているゲームの雑誌の新刊の発売日だと思い出し、急ぎ足で帰ろうとした矢先に囲まれた。人気の無い校舎裏に連れ込んで囲むとは随分と古典的だなと、ぼんやり思っていた。中心にいるのは、所謂カースト上位と思しき女子。
「……何の用ですか」
「わたしねェ、ちょーっと今イライラしてるんだぁ」
だから、と彼女は一幕置いて私の胸倉を掴む。
「諷枉さんで、ストレス発散させて?」
思い切り腹に入れられた時が、開始の合図。腹を押さえて蹲る私を余所に、彼女らは私を取り囲んで蹂躙し始めた。
腕や足の骨を砕く勢いでそれらを踏み付ける脚。
内臓物を吐き出させるかの如く腹を蹴り付け、殴り付ける脚や拳。
それらは奇妙なまでに顔やスカートと靴下の間といった露出する箇所には当たらず、必ず服の下とかに当たるように降り注ぐ。それを私は胎児の様に背中を丸めて耐えるしかない。でも前髪を掴まれて無理矢理前を向かされる為それは叶わず、代わりにいつもの事だから痛くないと言い聞かせるしか出来ない。けど悲鳴とか涙を流したら、相手の思う壷だ。だからなるべく泣かないように、痛みを感じないように、耐える。
ある程度蹴り殴り終わったら満足したのか、最後にカースト上位女子は前髪を掴んだまま私に目線を合わせて、言う。
「良い?諷枉さんは、悪い悪い泥棒さんなの。だからこれもしかたの無い事なの」
ね?と言う様な目に、力なく頷く。そうすれば終わりだ。いつも通り私は制裁されて、それで終わり。カースト上位女子とその取り巻きは満足気に、それでもどこか物足りなさげに帰って行った。
残ったのは私と、リンチの最中もみくちゃにされて放り投げられた鞄だけ。それをボロボロの腕で引っ掴んで、よたよたと昇降口へ向かう。
歩を進める度に痛む足に鞭を打ちながら、今日雑誌買いに行くのはやめよう、とぼんやり思った。