さまーでいず
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ようやくアパートに着いた時には、既に陽は沈んでいた。あれから逃げる様にして十文字宅を後にした私は、あの距離を全力疾走して帰っていた。それもこれもあの眩しい笑顔を頭から消し去る為……だったのだが、結局消える事はなかった。
よたよたと棒のような足を動かし、家の鍵をドアに挿し込む。そのままくるりと回して鍵を開け、自分の根城に転がり込んだ。暑い中走って帰って来たからか、身体が汗まみれで気持ち悪い。こりゃ先にシャワーかな。
自室の扉を開け、灯りを灯す。先に目に入るのはお世辞にも綺麗に整頓されているとは言えない机。それを無視してベストとスカートを脱ぎ捨て、リボンと鞄をそこらに放り投げる。今この家にいるのが私だけでよかったと思う。この調子じゃあの二人は暫くこっちに来なさそうだし。
「……相変わらずグロいな」
着ていた長袖のワイシャツを脱ぎ捨て、洗面所の鏡に写った傷に顔を顰める。腹に集中的に付いている傷は、もうすっかり青ざめて気持ちの悪い痣になっている。腕に付いた赤の斑点は、確か誰かが呼んだ高校生に付けられたものだっけ。顔は殴らずに服の下とか、目立たない所を殴るんだもんなあ。
この一週間の仕打ちは今日で一旦終わりだし、明日明後日は家にいようかな。出先でクラスのやつらと鉢合わせはごめん願いたい。シャワーを浴びながらそうぼんやりと考える。その間も、あの笑顔は消える事も無くこびり付いていたが。
シャンプーとトリートメントを終えて身体に石鹸を纏わせている時、インターホンが鳴り響く。まずい、出ないとと急いでシャワーで洗い流し、タオルで身体だけ拭いてパジャマを着る。肩にタオルを掛けてどたどたと慌しく玄関に向かい、ドアを開けると、一人の老婦人が立っていた。
「音羽ちゃん、おかえりなさい」
「ただいま、高崎さん」
隣人の高崎さん。親が家にいる事を見ない私を見兼ねてか、しょっちゅうウチに世話を焼きに来る人。お子さんは独立してて旦那さんと二人で暮らしているとか。手にはタッパーが二つある。
「今日遅かったけど、何かあったの?」
「あー……欠席の子の連絡押し付けられちゃって……そのままその子の家にいたんで、遅くなっちゃいました」
「あらまぁ。音羽ちゃんは頼りにされてるのね」
「いやぁ、まあ、ははは……」
苦笑いで誤魔化す。いじめの事は一切伏せている為、高崎さんの思う私の人物像は実物とだいぶ違う、気がする。
「これ、里芋の煮物とほうれん草のおひたし。良かったら食べてねぇ」
「いつもありがとうございます」
「いいのよ、音羽ちゃんがなんだか孫みたいに見えるから」
「……そう、ですか」
高崎さんには私と同い年くらいのお孫さんがいるらしい。だが、盆暮れ正月辺りでしか来ないのだという。だから隣に住んでる私を孫みたいに扱うのか。ちょっと複雑だ。そんな気持ちは言えるはずもないからしまっておく。
「これ、美味しく頂きますね」
「ええ。」
じゃあね、とにっこり笑って手を振る高崎さんを見送り、ドアを閉めた。
食器を棚から出し、タッパーの中身を少量取り分けて残りを冷蔵庫に入れる。出来たてなのか里芋はホクホクしてて、美味しかった。
夕食を済ませて食器を洗い、時計を見遣る。時刻はまだ七時半程で、寝るには少し早い。自室に戻り、今日がイベントの周回する予定だったと思い出してパソコンを立ち上げたが、やはりあのこびり付いて離れない笑顔が目に浮かんだ。結局、周回する気にはなれず、代わりに某有名な通販サイトを開く。そこで手当り次第に今日十文字の家でやったゲームの名前や機種の名前を打ち込んで検索を繰り返した。
「うわ、何これたっか……」
液晶に表示されるそれは、近年生産されていない事からプレミア価格でも付いているのか、通常価格よりかは高いであろう数字が。市場に出回る事が少なくて価値があるというのはわかるが、にしたってここまで高くなるとは……。古いからと甘く見ていたのかもしれない。
というかなんでこんな事を調べているのか。ひょっとしたら私はあの笑顔に毒されたのか。
「……マジか。いや、絶対無いな」
今日出会ったばかりだし、うん。そう結論付ける。
何となくそれ以上調べる気にはならず、今日は少し早いがもう寝る事にした。……歯磨きしてる時も、ベッドに入って目を瞑った後も、あの笑顔が消える事は結局無かった。
よたよたと棒のような足を動かし、家の鍵をドアに挿し込む。そのままくるりと回して鍵を開け、自分の根城に転がり込んだ。暑い中走って帰って来たからか、身体が汗まみれで気持ち悪い。こりゃ先にシャワーかな。
自室の扉を開け、灯りを灯す。先に目に入るのはお世辞にも綺麗に整頓されているとは言えない机。それを無視してベストとスカートを脱ぎ捨て、リボンと鞄をそこらに放り投げる。今この家にいるのが私だけでよかったと思う。この調子じゃあの二人は暫くこっちに来なさそうだし。
「……相変わらずグロいな」
着ていた長袖のワイシャツを脱ぎ捨て、洗面所の鏡に写った傷に顔を顰める。腹に集中的に付いている傷は、もうすっかり青ざめて気持ちの悪い痣になっている。腕に付いた赤の斑点は、確か誰かが呼んだ高校生に付けられたものだっけ。顔は殴らずに服の下とか、目立たない所を殴るんだもんなあ。
この一週間の仕打ちは今日で一旦終わりだし、明日明後日は家にいようかな。出先でクラスのやつらと鉢合わせはごめん願いたい。シャワーを浴びながらそうぼんやりと考える。その間も、あの笑顔は消える事も無くこびり付いていたが。
シャンプーとトリートメントを終えて身体に石鹸を纏わせている時、インターホンが鳴り響く。まずい、出ないとと急いでシャワーで洗い流し、タオルで身体だけ拭いてパジャマを着る。肩にタオルを掛けてどたどたと慌しく玄関に向かい、ドアを開けると、一人の老婦人が立っていた。
「音羽ちゃん、おかえりなさい」
「ただいま、高崎さん」
隣人の高崎さん。親が家にいる事を見ない私を見兼ねてか、しょっちゅうウチに世話を焼きに来る人。お子さんは独立してて旦那さんと二人で暮らしているとか。手にはタッパーが二つある。
「今日遅かったけど、何かあったの?」
「あー……欠席の子の連絡押し付けられちゃって……そのままその子の家にいたんで、遅くなっちゃいました」
「あらまぁ。音羽ちゃんは頼りにされてるのね」
「いやぁ、まあ、ははは……」
苦笑いで誤魔化す。いじめの事は一切伏せている為、高崎さんの思う私の人物像は実物とだいぶ違う、気がする。
「これ、里芋の煮物とほうれん草のおひたし。良かったら食べてねぇ」
「いつもありがとうございます」
「いいのよ、音羽ちゃんがなんだか孫みたいに見えるから」
「……そう、ですか」
高崎さんには私と同い年くらいのお孫さんがいるらしい。だが、盆暮れ正月辺りでしか来ないのだという。だから隣に住んでる私を孫みたいに扱うのか。ちょっと複雑だ。そんな気持ちは言えるはずもないからしまっておく。
「これ、美味しく頂きますね」
「ええ。」
じゃあね、とにっこり笑って手を振る高崎さんを見送り、ドアを閉めた。
食器を棚から出し、タッパーの中身を少量取り分けて残りを冷蔵庫に入れる。出来たてなのか里芋はホクホクしてて、美味しかった。
夕食を済ませて食器を洗い、時計を見遣る。時刻はまだ七時半程で、寝るには少し早い。自室に戻り、今日がイベントの周回する予定だったと思い出してパソコンを立ち上げたが、やはりあのこびり付いて離れない笑顔が目に浮かんだ。結局、周回する気にはなれず、代わりに某有名な通販サイトを開く。そこで手当り次第に今日十文字の家でやったゲームの名前や機種の名前を打ち込んで検索を繰り返した。
「うわ、何これたっか……」
液晶に表示されるそれは、近年生産されていない事からプレミア価格でも付いているのか、通常価格よりかは高いであろう数字が。市場に出回る事が少なくて価値があるというのはわかるが、にしたってここまで高くなるとは……。古いからと甘く見ていたのかもしれない。
というかなんでこんな事を調べているのか。ひょっとしたら私はあの笑顔に毒されたのか。
「……マジか。いや、絶対無いな」
今日出会ったばかりだし、うん。そう結論付ける。
何となくそれ以上調べる気にはならず、今日は少し早いがもう寝る事にした。……歯磨きしてる時も、ベッドに入って目を瞑った後も、あの笑顔が消える事は結局無かった。