さまーでいず
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暑い。煌々と道道を照らす太陽を睨み付ける。ビビって傷を隠そうと長袖なんか着てくるんじゃ無かった。
私はこの夏の昼空の中、欠席者への連絡物とその欠席者の家の地図やら写真やらを持って歩いている。
なんで私がこんな事をしなければならないのか、それは私のクラスでの立場が所謂いじめられっ子 に近いからであろうか、今日任せる予定の子は担任曰く『家の用事があるから』とそそくさと帰ってしまったという。まあ、放課後になった時猫撫で声でクラスの憧れ的な男子を呼んでいた事から、それらは嘘なのだろうが。全く、自分の責務を全うせず人に押し付けて極めて自分本意の用事を優先するとは。せめて本当に家の用事とかであって欲しかったものだ。……後が怖くて断れなかった私が言えた事じゃ無いけれど。
ぺら、と欠席者の家の地図と写真とを見て、溜息をつく。名を十文字アタリ。記憶が正しければ一年の時からクラスが同じだった生徒。しかし入学式で顔を見た事も無ければ、運動会や文化祭ですら見た事がない。誰も──それこそ係とか、委員会でも無ければ──名前以外知らないという謎めいている──と個人的に思う──生徒。故に今回欠席者への連絡の役目を押し付けられた事自体はいいんだろうが……今日を耐え切ったらイベントの周回するって決めてたんだけどなあ。出遅れちゃうや。
一度もクラスに来てないとはいえ、私の前に来たクラスメイトからある事ないこと吹き込まれてたらどうしようか、その時はササッと渡して帰ろうかな。なんてぼんやり考えながら歩く。中学からはまともに人と会話した事無いのに、とも思うけど、あいつらはそれが狙いだ。何を今更。
とぼとぼと歩を進め、一つのマンションの前に立つ。建物の写真と地図からしてここの様だ。
「……けっこー大きいのな」
多分私の住んでるアパートだかマンションだかよりは大きい。この辺は団地になってる様だから当たり前か。
エントランスに備え付けられた簡素なドアホンに、地図と共に書かれた部屋番号を入力する。速まる鼓動を深呼吸で無理矢理抑えつけ、インターホンを鳴らした。ぴんぽーん、という機械音が一回の後に数秒、返事は来ない。がくっ、と小さく拍子抜けした。ここまで緊張してたというのに、何だか馬鹿らしくなってくる。壁を蹴りたい気持ちを抑え、もう一度鳴らした。またも来ない。寝てるだけか、何かに熱中してるだけか知らないが、少々無礼じゃないか?思いっ切り文句言ってやりたい。苛立ちから軽く歯軋りし、三回目のインターホンを鳴らした。これで出なかったら集合ポストに放り込んで帰ってやる。
『はーい?』
今度はきちんと返されて来た声に思わず驚く。声の高さからして、こいつが十文字だろうか。父親という線はまずない。うおっ、なんて色気のかけらも無い悲鳴を小さく上げ、返した。
「お、同じクラスの、諷枉、です。十文字、くんに届け物があって、来ました。手渡ししたいので、降りて来て貰っても、い、いいですか?」
久しぶりの他人との会話で声が吃り、喉が渇く。ああどうか、こいつがクラスの連中で同じタイプでありませんように。
スピーカーから聞こえたのは、『Yes』。わざわざ私が登って渡すなんて足労は無くなる訳で、心の中で小さくガッツポーズをした。本人が降りて来るのを、自動ドアの前でじっと待つ。どんな人が来ても、多分これっきりのつきあいだ。サッと渡してサッと帰ろう。
ガーッ、という音に、居住棟に続くドアへ目を向ける。片目が隠れる程の前髪の、太陽みたいな黄色い髪に青空みたいなつり目、そして人あたりの良さそうな笑顔。ハーフなのだろうか、美人と言うよりカッコイイ寄りの顔に一瞬見蕩れるも、すぐ我に返る。大方こいつがかの十文字アタリだろう。腕に抱えていたクリアファイルの中から紙束を抜き取り、はい、と差し出した。
「これ、今日の授業分のプリントと連絡事項」
「サンキュ」
差し出せば、彼はにぱっという効果音が付きそうな笑顔を見せる。クラスの女子が黄色い声を上げそうな──というか既に会っている人達は上げていそうな──笑顔、頂きました。
雰囲気からして、どうやら私に関する悪評を吹き込まれているだとかは無さそうだった。
どういたしまして、それじゃあね、と返して踵を返す。これで後は帰るだけ──と思ったが、「なあ」という声に足を止める。
「礼って言っちゃあ何だけど、良ければ上がってかないか?」
なんと、訪問のお誘いを受けてしまった。話すのですらやっとだし早いとこ帰りたいのに、どうやらパーソナルスペースが近いか広いらしい。みんな友達みたいな。
断る、と返そうとした口は、次の言葉で噤まれた。
「おもしれーゲームがあるんだ!」
……蛇足しておくと、私はゲームが好きだ。RPGとか、シューティングとか、アクションにパズルにetc……ガチゲーマーって程では無いけど、面白いゲームがあったならやりたくなるし買う、そういう感じ。そして先程の発言から、面白そうなゲームがあると聞いたらやりたくなる私は緊張なんか吹っ飛んでしまい。気付けば首を縦に振り、エレベーターに乗っていた。
通された部屋は床にゲームのカセットが散乱し、デカいテレビの横の棚にもゲームのカセットやゲーム機が幾つか。この部屋がゲーム置き場になるんじゃないかと言うほどゲーム機やカセットで溢れ返っている。本人が飲み物とかを取りに行ったことをいい事に、私は部屋を舐め回す様に見ていた。ふと気付いた事がある。十文字の部屋には、私くらいの年代が持ってる最新のゲーム機がそんなに無い。どれもこれも私らが産まれるより昔に作られたもの、所謂レトロゲームというやつばかりだ。今でこそ最新機種で過去のゲームが出来るサービスはいくつかあるが、こいつの場合どの機種もソフトも現役レベルで残っている。
「お待たせ」
そうこうしている内に、部屋の主が帰って来た。手にはコップが二つとコーラの入ったペットボトル、それとポテトチップスの乗ったお盆。「やっぱゲームにはこれだよな」なんて笑って床に置き、隣に座る。はい、と手渡されたのはやはりゲームのコントローラ。あまり見たことの無い形状をしている。
「何やるの?」
「そうだな……お前、なんか好きなジャンルとかあるか?」
「好きなジャンル……アクションとか、シューティングとかかな。基本何でもやるけど」
そう答えれば、ふむふむと頷きながらカセットを物色し始める。しばらくそうしていたかと思いきや、「これだ!」と1つのカセットを取り出してゲーム機へ挿し込んだ。画面に表示されたのは、かの有名な格闘ゲームシリーズのタイトル。このシリーズなら何度もやった事あるし、操作法も今のゲームと変わらないだろう。これなら勝てるかもしれない。──そうタカをくくっていたら、あっさり負けた。
そもそも私が普段使うコントローラにはスティックが付いていて、移動操作をする時必ず使うものだった。だがこのコントローラにはそれがなく、移動操作は全て十字ボタン。さほど使い慣れていない操作方法に戸惑い──要するに、使ってるコントローラが全然違っていたのと相手の方がこの手のゲームに慣れているから負けた、と言い訳したい。
だが問題はここからだ。どうも私はゲームに関してのみ負けず嫌いなきらいがあるらしい。例えばオンラインゲームとかで一回負けると、「次こそは!」と何度も続けてしまう事が多いとかで、当然今回もその例に漏れず。
「……もう一回」
と呟いていた。思わず出た言葉を取り消そうと十文字の方を振り返るが、何故だか本人は嬉しそうな顔をしている。その後また笑顔で「おう!」と頷いた。
私はこの夏の昼空の中、欠席者への連絡物とその欠席者の家の地図やら写真やらを持って歩いている。
なんで私がこんな事をしなければならないのか、それは私のクラスでの立場が所謂
ぺら、と欠席者の家の地図と写真とを見て、溜息をつく。名を十文字アタリ。記憶が正しければ一年の時からクラスが同じだった生徒。しかし入学式で顔を見た事も無ければ、運動会や文化祭ですら見た事がない。誰も──それこそ係とか、委員会でも無ければ──名前以外知らないという謎めいている──と個人的に思う──生徒。故に今回欠席者への連絡の役目を押し付けられた事自体はいいんだろうが……今日を耐え切ったらイベントの周回するって決めてたんだけどなあ。出遅れちゃうや。
一度もクラスに来てないとはいえ、私の前に来たクラスメイトからある事ないこと吹き込まれてたらどうしようか、その時はササッと渡して帰ろうかな。なんてぼんやり考えながら歩く。中学からはまともに人と会話した事無いのに、とも思うけど、あいつらはそれが狙いだ。何を今更。
とぼとぼと歩を進め、一つのマンションの前に立つ。建物の写真と地図からしてここの様だ。
「……けっこー大きいのな」
多分私の住んでるアパートだかマンションだかよりは大きい。この辺は団地になってる様だから当たり前か。
エントランスに備え付けられた簡素なドアホンに、地図と共に書かれた部屋番号を入力する。速まる鼓動を深呼吸で無理矢理抑えつけ、インターホンを鳴らした。ぴんぽーん、という機械音が一回の後に数秒、返事は来ない。がくっ、と小さく拍子抜けした。ここまで緊張してたというのに、何だか馬鹿らしくなってくる。壁を蹴りたい気持ちを抑え、もう一度鳴らした。またも来ない。寝てるだけか、何かに熱中してるだけか知らないが、少々無礼じゃないか?思いっ切り文句言ってやりたい。苛立ちから軽く歯軋りし、三回目のインターホンを鳴らした。これで出なかったら集合ポストに放り込んで帰ってやる。
『はーい?』
今度はきちんと返されて来た声に思わず驚く。声の高さからして、こいつが十文字だろうか。父親という線はまずない。うおっ、なんて色気のかけらも無い悲鳴を小さく上げ、返した。
「お、同じクラスの、諷枉、です。十文字、くんに届け物があって、来ました。手渡ししたいので、降りて来て貰っても、い、いいですか?」
久しぶりの他人との会話で声が吃り、喉が渇く。ああどうか、こいつがクラスの連中で同じタイプでありませんように。
スピーカーから聞こえたのは、『Yes』。わざわざ私が登って渡すなんて足労は無くなる訳で、心の中で小さくガッツポーズをした。本人が降りて来るのを、自動ドアの前でじっと待つ。どんな人が来ても、多分これっきりのつきあいだ。サッと渡してサッと帰ろう。
ガーッ、という音に、居住棟に続くドアへ目を向ける。片目が隠れる程の前髪の、太陽みたいな黄色い髪に青空みたいなつり目、そして人あたりの良さそうな笑顔。ハーフなのだろうか、美人と言うよりカッコイイ寄りの顔に一瞬見蕩れるも、すぐ我に返る。大方こいつがかの十文字アタリだろう。腕に抱えていたクリアファイルの中から紙束を抜き取り、はい、と差し出した。
「これ、今日の授業分のプリントと連絡事項」
「サンキュ」
差し出せば、彼はにぱっという効果音が付きそうな笑顔を見せる。クラスの女子が黄色い声を上げそうな──というか既に会っている人達は上げていそうな──笑顔、頂きました。
雰囲気からして、どうやら私に関する悪評を吹き込まれているだとかは無さそうだった。
どういたしまして、それじゃあね、と返して踵を返す。これで後は帰るだけ──と思ったが、「なあ」という声に足を止める。
「礼って言っちゃあ何だけど、良ければ上がってかないか?」
なんと、訪問のお誘いを受けてしまった。話すのですらやっとだし早いとこ帰りたいのに、どうやらパーソナルスペースが近いか広いらしい。みんな友達みたいな。
断る、と返そうとした口は、次の言葉で噤まれた。
「おもしれーゲームがあるんだ!」
……蛇足しておくと、私はゲームが好きだ。RPGとか、シューティングとか、アクションにパズルにetc……ガチゲーマーって程では無いけど、面白いゲームがあったならやりたくなるし買う、そういう感じ。そして先程の発言から、面白そうなゲームがあると聞いたらやりたくなる私は緊張なんか吹っ飛んでしまい。気付けば首を縦に振り、エレベーターに乗っていた。
通された部屋は床にゲームのカセットが散乱し、デカいテレビの横の棚にもゲームのカセットやゲーム機が幾つか。この部屋がゲーム置き場になるんじゃないかと言うほどゲーム機やカセットで溢れ返っている。本人が飲み物とかを取りに行ったことをいい事に、私は部屋を舐め回す様に見ていた。ふと気付いた事がある。十文字の部屋には、私くらいの年代が持ってる最新のゲーム機がそんなに無い。どれもこれも私らが産まれるより昔に作られたもの、所謂レトロゲームというやつばかりだ。今でこそ最新機種で過去のゲームが出来るサービスはいくつかあるが、こいつの場合どの機種もソフトも現役レベルで残っている。
「お待たせ」
そうこうしている内に、部屋の主が帰って来た。手にはコップが二つとコーラの入ったペットボトル、それとポテトチップスの乗ったお盆。「やっぱゲームにはこれだよな」なんて笑って床に置き、隣に座る。はい、と手渡されたのはやはりゲームのコントローラ。あまり見たことの無い形状をしている。
「何やるの?」
「そうだな……お前、なんか好きなジャンルとかあるか?」
「好きなジャンル……アクションとか、シューティングとかかな。基本何でもやるけど」
そう答えれば、ふむふむと頷きながらカセットを物色し始める。しばらくそうしていたかと思いきや、「これだ!」と1つのカセットを取り出してゲーム機へ挿し込んだ。画面に表示されたのは、かの有名な格闘ゲームシリーズのタイトル。このシリーズなら何度もやった事あるし、操作法も今のゲームと変わらないだろう。これなら勝てるかもしれない。──そうタカをくくっていたら、あっさり負けた。
そもそも私が普段使うコントローラにはスティックが付いていて、移動操作をする時必ず使うものだった。だがこのコントローラにはそれがなく、移動操作は全て十字ボタン。さほど使い慣れていない操作方法に戸惑い──要するに、使ってるコントローラが全然違っていたのと相手の方がこの手のゲームに慣れているから負けた、と言い訳したい。
だが問題はここからだ。どうも私はゲームに関してのみ負けず嫌いなきらいがあるらしい。例えばオンラインゲームとかで一回負けると、「次こそは!」と何度も続けてしまう事が多いとかで、当然今回もその例に漏れず。
「……もう一回」
と呟いていた。思わず出た言葉を取り消そうと十文字の方を振り返るが、何故だか本人は嬉しそうな顔をしている。その後また笑顔で「おう!」と頷いた。