さまーでいず
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あれから十文字のガイドの下アキバの街を満喫し、いつの間にか夕方に差し掛かっていた。西へと沈む太陽が、街を橙色に染めている。帰路につこうと駅へと向かう最中、掛けられた声に足を止めた。
「あれぇ、諷枉さんじゃ〜ん」
何重にも高さを上げたような、甘ったるい猫撫で声。思わずギギギ、と錆びたロボットみたいに首を向ける、と。
「こんなとこでぐぅぜ〜ん」
「そ、そう、ですね……」
積極的に私をいじめるカーストぶっちぎりの女子とその取り巻きがいらっしゃるではありませんか。にしたって何故こんなにもある意味最悪なタイミングで会ってしまったのか。
「音羽、知り合いか?」
「えっと、その、クラスの、ひと……」
この人らの素性を当然知らない十文字は興味深げにこちらへ問う。その瞬間、取り巻きの一人があっ、と声を上げた。
「もしかして、十文字君?」
その声を皮切りに彼女達は口々に話し始める。
「十文字君ってあのいつも休んでる?」
「れとろげぇむ?っていうのが好きなんだって〜」
「よくわかんないけどちょっとイケメンかも……」
「確かにぃ」
何を話しているのかはわからないが、どうせろくでもない事なのだろう。ひそひそ話を繰り広げていたと思えば、突如としてこちらに向き直った。
「そう言えば諷枉さん、それどうしたのぉ?まさか、また盗んだりしたぁ?」
それ、というのは私が腕に抱えるぬいぐるみの事だろう。当然盗んだりとかはしていないしクレーンゲームからのものだから取り出し口から無理矢理伸ばすとかでもしない限り盗めもしないのだが、これはわかってて言ってるのか否か。でも反論したら面倒だから言わない。
「音羽は盗んでねぇぞ」
黙っていようとしていた矢先、十文字がそう言う。十文字の言葉を耳にしたカーストトップ集団は眉をひくつかせた。思わぬ迎撃だったらしい。
「そのぬいぐるみ、音羽がクレーンゲームで取ったやつだぜ。俺見てたし」
「……十文字くん?諷枉さんの事何も知らないの?」
その問いに、十文字はキョトンとしながら頷く。それを見た主犯格の顔はまあ、なんとも見事な悲劇のヒロインを演じていた事だろう。
「可哀想……諷枉さんから何も聞かされていないなんて……」
この言い草には覚えがある。だからか妙に、冷静になれた──胸の奥底が痛んだ気がしたけど、多分気のせいだ。
「あのね、諷枉さんはね」
いつもの事のはずなのに、どうしてだかその先を言って欲しくなくて、やめてと言おうにも口からその言葉が出る事はなく、ただ見るだけしか出来なかった。
「諷枉さんは、とっても悪〜い泥棒さんなんだよぉ」
心臓が痛む感触を、ぬいぐるみを抱き締める力を強めて誤魔化した。いつもこうなのだ。誰かと仲良くなれたと思ったら、こうして台無しにされる。小学校からこうだったから、何も言わない様になっていた。じゃあ、なんでこんなに悲しいんだ?
「……音羽、それ、ほんとか?」
首を横に振ってしまえばいいのだろうが、目の前の人達はそれを許さない。うん、と頷いた時の声は、自分でもわかるくらい酷く弱々しかった。
「……ごめん、十文字。今日はもう帰る」
今日はありがと、と返事も聞かないまま駅へと走る。定期券を改札に翳してそのまま階段を駆け登り、ちょうど来ていた電車へ飛び乗った。全力疾走で来たからか、肺が痛い。ついでに、心臓も。
「……最っ悪」
いつもの事なのに、ここまで悲しいなんて。
「あれぇ、諷枉さんじゃ〜ん」
何重にも高さを上げたような、甘ったるい猫撫で声。思わずギギギ、と錆びたロボットみたいに首を向ける、と。
「こんなとこでぐぅぜ〜ん」
「そ、そう、ですね……」
積極的に私をいじめるカーストぶっちぎりの女子とその取り巻きがいらっしゃるではありませんか。にしたって何故こんなにもある意味最悪なタイミングで会ってしまったのか。
「音羽、知り合いか?」
「えっと、その、クラスの、ひと……」
この人らの素性を当然知らない十文字は興味深げにこちらへ問う。その瞬間、取り巻きの一人があっ、と声を上げた。
「もしかして、十文字君?」
その声を皮切りに彼女達は口々に話し始める。
「十文字君ってあのいつも休んでる?」
「れとろげぇむ?っていうのが好きなんだって〜」
「よくわかんないけどちょっとイケメンかも……」
「確かにぃ」
何を話しているのかはわからないが、どうせろくでもない事なのだろう。ひそひそ話を繰り広げていたと思えば、突如としてこちらに向き直った。
「そう言えば諷枉さん、それどうしたのぉ?まさか、また盗んだりしたぁ?」
それ、というのは私が腕に抱えるぬいぐるみの事だろう。当然盗んだりとかはしていないしクレーンゲームからのものだから取り出し口から無理矢理伸ばすとかでもしない限り盗めもしないのだが、これはわかってて言ってるのか否か。でも反論したら面倒だから言わない。
「音羽は盗んでねぇぞ」
黙っていようとしていた矢先、十文字がそう言う。十文字の言葉を耳にしたカーストトップ集団は眉をひくつかせた。思わぬ迎撃だったらしい。
「そのぬいぐるみ、音羽がクレーンゲームで取ったやつだぜ。俺見てたし」
「……十文字くん?諷枉さんの事何も知らないの?」
その問いに、十文字はキョトンとしながら頷く。それを見た主犯格の顔はまあ、なんとも見事な悲劇のヒロインを演じていた事だろう。
「可哀想……諷枉さんから何も聞かされていないなんて……」
この言い草には覚えがある。だからか妙に、冷静になれた──胸の奥底が痛んだ気がしたけど、多分気のせいだ。
「あのね、諷枉さんはね」
いつもの事のはずなのに、どうしてだかその先を言って欲しくなくて、やめてと言おうにも口からその言葉が出る事はなく、ただ見るだけしか出来なかった。
「諷枉さんは、とっても悪〜い泥棒さんなんだよぉ」
心臓が痛む感触を、ぬいぐるみを抱き締める力を強めて誤魔化した。いつもこうなのだ。誰かと仲良くなれたと思ったら、こうして台無しにされる。小学校からこうだったから、何も言わない様になっていた。じゃあ、なんでこんなに悲しいんだ?
「……音羽、それ、ほんとか?」
首を横に振ってしまえばいいのだろうが、目の前の人達はそれを許さない。うん、と頷いた時の声は、自分でもわかるくらい酷く弱々しかった。
「……ごめん、十文字。今日はもう帰る」
今日はありがと、と返事も聞かないまま駅へと走る。定期券を改札に翳してそのまま階段を駆け登り、ちょうど来ていた電車へ飛び乗った。全力疾走で来たからか、肺が痛い。ついでに、心臓も。
「……最っ悪」
いつもの事なのに、ここまで悲しいなんて。