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ブラックチョコレート



9月になって、大学が始まった。

夏休み中は、たまに夏目とバイト終わりにご飯を食べたけど、それだけだった。
やっぱ好きだなあとかいろいろ悩んだけど、いつの間にか吹っ切れた。もういいや、って気分になった。
どうせ一生、夏目とは恋人になれるわけなんかないし、ご飯行こうって言われたら、いいよって一緒に行く、それでいいじゃん、それ以上でもそれ以下でもないよ、って。

だらだらと同じ人と、やることだけはやっていた。相変わらず、顔と仮名しか知らない。あ、体に関しては詳しくなってきた。どこにどう触れられるのが好きかとか、そういうの。
もしかしたら、そういうところから付き合い始めてもいいんじゃないの?って思ったけど、彼は既婚者だった。
年上だろうなとは思ってたけど既婚者かい!勝手に不倫相手みたいになってんのかい!!ってつっこまざるを得ない……ふーん、としか言わなかったけど。
でも、まあいいや、って思ってだらだら続けて、会う間隔はどんどん縮まった。今は1週間に2回くらい会ってる。そしてご飯も行っちゃってる。向こうの奥さんにバレたら、俺死んじゃうかもじゃん、って思った。それでも、やめられなかった。


夏目がご飯誘ってくれた日、その人と会う予定だったから、俺は誘いを断った。そういうのが何回か続いた。

「彼女できたんすか?」

夏目は聞いた。

「んー…付き合ってはないんだけどね」
「そうなんだ…なんか、さみしいっすよ」
「いやいや夏目も彼女いるじゃん」
「まあまあそうですけど!俺ともたまにはご飯行って下さい!」
「うんうん、またタイミング合ったら行こー」

断りながら、俺って好きな人の誘いを断って不倫してんだ、って思ったらちょっと泣きそうになった。



その人とご飯食べて、セックスして、ホテルから出る時はいつも彼が先に出て行く。

「そういえば、うちの奥さん妊娠したんだよね、」

帰り支度をしながら彼はそう言った。
おいーーーー、お前ーーーーーー、みたいな。
まあそうですよね、だから今後はきっともっとコンスタントに会いたいってことですよね、だって奥さんとセックスできないもんね

「おめでとう」
「ありがとう」

案の定、先出てって30分くらいしたら、明後日また会いたいって連絡来た。

ホテルを出て、普通に歩いて駅に向かった。

彼のメッセージを睨みつけながら、どうしようか、明後日会うか、それか奥さんのこと大事にしろよってことで、スパッと切っちゃうか、

「あー!泉さん!」
「………ああ、夏目」
「すごい偶然ですね!こんな時間にこんなとこで会うなんて」
「そうだよ…今11時か。えー、なにしてんの?」
「本屋で本買って、ハンバーガー食いながら読んでたらこんな時間になってました」
「すげえ、まさかの理由」
「止まんなくなっちゃって!泉さんは?なにしてるんですか?」

夏目の真っ黒な瞳はガラス玉みたいだ。
なんでも、鏡みたいに映してしまいそう。
夏目は一点の曇りもないから、俺みたいなクズが映ったら、どうなるんだろう?思いっきり跳ね返されちゃうのかな。
そんな出来心が芽生えた。

「フリンしてきた」
「は?え?」
「不倫。既婚者とやってきた」

夏目は目玉が出てきちゃいそうなくらい目を見開いた。
その顔がおもしろかったから、声出して笑ってしまった。

「ふ、ふりんって、ダメですよね…え、え、大丈夫なんですか…その、そんなんして、」
「大丈夫だよきっと。その人の奥さんね、妊娠したんだって。だから多分俺、もっと召集かかっちゃうわ、今後」
「ん?妊娠?」
「うん、相手の奥さんがね」
「相手の奥さん?」
「そう」
「泉さんが父親…?」
「ちがうちがう!父親が不倫相手」
「…え、ちょっと待って下さい…頭がついてけてない…えーっと…奥さんと、父親っていうのは…?」
「俺、男しか好きになれないの」

夏目はもう、目玉出ちゃったんじゃないかな。
怖くて、顔をちゃんと見られない。

「きもいよね、ばったり会ってそんなん言われたら!ごめんね。あー、無理だなこいつって思ったら、普通にこれから無視してくれたらいいよ」
「いやいやいや、無視とかないですけど、」
「無理しなくていいって!別に俺、慣れてるから。じゃあ、俺帰るわ」
「待って下さい!」

腕を掴まれた。

「泉さん、きもいとか全然思ってません。…びっくりは、しましたけど…でも、…うーん…話、したいかも、今」
「えー?何聞きたいの?」
「…好きになるのに、性別なんか関係ない。って、彼女に言われたことがあるんです。泉さんと話したら、なんかこう、そういうモヤっとしたことがクリアになる気がします」
「…じゃあ、どこ行く?」
「俺のうち、来ません?前行かせてもらったし」

男しか好きにならないって言ってんのに、普通に家誘ってきてびっくりした。
でも、お言葉に甘えてみることにして、夏目の隣を歩いた。


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