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ブラックチョコレート



バイトが終わったらすぐにバックヤードで、前相手してくれた人に連絡した。
いいよって返信が来たから、急いで帰り支度を始めた。

できるだけ夏目に会わないでいたいと思った。

全部わかってたはずなのに、どうしようもない気分になった。
どうしようもない気分になる、ってことまでがワンセットで、俺は夏目のことを好きでいた。なのに

「お疲れさまです!」
「…お疲れ様。またね」
「え!早いですね今日」
「そう?夏目も急いだほうがいいんじゃない?彼女、待ってんでしょ」
「や、帰りました。実家から通ってるから」
「そうなんだ、」
「泉さん、急ぎですか?」
「うん、人と会う約束してるから」
「…そっか、そうなんですね」
「じゃあ、お疲れ」
「あ、泉さん!」
「なに?」

夏目の方を見てしまった。

「また今度、メシ行きたいです」

好きだよ夏目、

「うん、また行こうね」





『それはつらいでしょ…だって…懐いてくれててもそういうふうに好きってわけじゃないんだもんね…分かるよ、つらいの、』

久しぶりに先輩の声を聞いた。

顔と仮名しか知らない人に抱かれたあとだ。

ホテルの部屋で、やり終わってひとり、でかいベッドに座って電話をした。

先輩はただただ優しく共感してくれて、ダメと分かってても、やっぱりノンケを好きになってしまうこともあるよと、噛み締めるみたいに言った。

だよね、つらいし悲しいけど、そういうもんだよね、

通話を終えたらホテルを出た。

ぬるい夜だった。


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