ブラックチョコレート
まさか泉さんの部屋に行くことになるとは思ってなかった。
部屋に入ると、日中の日差しの余韻なのか少し暖かい。すごく居心地のいい部屋だった。
部屋についたらもう1時で、それなのに、本棚を見せてもらったら泉さんってこういうの読むんだ、とか思ってまた、それについて色々喋っちゃって、
「…やば、俺めっちゃ喋ってる」
「なに急に我に帰ってんの」
「もう2時半じゃん」
「うそ!やべえな、やっぱ夏目の話はずっと聞いてられちゃうな」
「褒め…褒められてます?」
「うん、褒めてる褒めてる!」
泉さんはそう言って、にっこり笑った。
猫みたい、そう思った。
「あれだね、シャワーとかする?部屋着貸すし」
「ありがとうございます、お借りしますっ」
先にシャワーさせてもらって、部屋着も借りた。
サイズぴったり。
交代で泉さんはシャワーしに行った。
その間ずっとほったらかしてたスマホを見た。
彼女から何回か着信があった。それとメッセージ。
『ごめん、いっぱい電話しちゃったけど特に用事じゃなくて、声聞きたかっただけーおやすみ』
遅くに送信すんの微妙かな、と思ったけど、一応返しとこう
『出られなくてごめんね🙏バイト先の先輩とご飯してた!今日の昼、寝坊してて行けなかったらごめん💦』
シャワーを終えて部屋に戻った泉さんは、ベッドの隣にマットレスを敷いてくれて、並んで横になった。電気は消える。
「久しぶりかも、こんな夜更かししたの」
「すみません、俺のせいで」
「違う違う!楽しいなって、思って」
ベッドの方が高いから、姿は見えなくて声だけが聞こえる。心地いい。
「夏目は、話すの上手だね」
「え!そんなことないですって!一回話しだしたら長いから、しょっちゅう彼女にうんざりされてます」
「そうなの?おもしろいのにね」
「…どうしよう、嬉しいです」
「じゃあ、話したいことがたくさんになったらまた、話しにおいでよ。俺も聴きたいし、夏目の話」
「えー、やばい…泉さんんんんん」
「あはは、なにそれ」
「嬉しさの表現です」
泉さんは声を上げて笑う。
思わず体を起こして、泉さんを見た。
「ん?」
今日は満月だった。
今日は月がきれいですねとかあるけども…
そういう表現が作られたっていうのは、こういう、息を思わず飲んでしまうような、月明かりの光景があったからなんじゃないかって、
泉さんはきれいだった。
「夏目?」
「あ、いや、…泉さんは彼女とかいるんですか?」
「え、彼女?いない」
「えーーーー!!!」
「しーーー!真夜中!」
「すいません…!」
にっこり、唇の端がきれいに引き上がる。
「いないんだって思ったら、叫んじゃいました…」
「いい人いたらいいんだけどね」
「え、すぐ見つかりますよ、こんなきれい…イケメンなのに、」
「ありがと。でもさ、俺条件うるさいタイプだから」
そうか…まあ、このイケメンっぷりだと、そこそこ条件つけられたってぐうの音も出ないわな…
「眠くなっちゃった…夏目、なんか話してよ」
「寝かしつけっすか」
「そう。寝かしつけて、俺のこと」
泉さんのお腹に手を乗せた。
ぽんぽんしながら、適当に話をした。
だんだん閉じていくまぶたを見つめた。