ブラックチョコレート
夏目は一冊のミステリー小説を持ってきてくれて、それからいろんな本について話をした。
どうやら大学では文芸学を専攻してるらしくて、小説や文学、作家の話なんかは1聞いたら100返してくれるってくらい知識があった。ずっと聞いていられるくらいおもしろい。声も心地良い。気づいたらもう0時を回っていた。
「あ、夏目、明日は何時から授業?」
「明日1限からっすね」
「え!やばいじゃん、もうあとちょっとで1時になっちゃう!」
「え、やべえ!時間全然見てなかった」
慌ててテーブルに残ってた食べ物を口に入れたら、お会計して、荷物を持って店の外に出た。
「すみません、なんか奢ってもらっちゃった上に時間まで…」
「全然気にしないで。むしろごめんね、遅くまで付き合わせて。めっちゃ楽しかった!」
夏目は髪を触りながらはにかんだ。
「俺も楽しかったです。なんかすげえ喋ったのにまだ、全然話し足りないってくらい…いや俺どんだけ喋んだって話ですね、」
「俺もまだ聞いてたいよ、夏目の話…え、うち来る?」
「え、いいんすか」
「大学遅刻しても責任取れないけど」
「行きたいです」
絶対そんなわけないのに、ちょっと勘違いしそうになって怖かった。
夏目は俺の右側を歩いていて、たまにそっちに目を向ける。
柔らかそうに波打った黒い髪の隙間から、きれいな形の耳が見える。耳から下に辿って少しのところに小さなほくろがあった。
触ってみたい、そう思った。
俺は夏目が好きだ、
『ノンケはしんどくない?叶わぬ恋だもんね…』
同じ志向の、仲のいい大学の先輩のセリフを思い出した。
『だよね。不毛すぎるもんなー』
俺はそう言った。
なのに自分から、しんどくなりに行ってるよ今、
「おじゃまします、」
夏目は玄関で靴を脱いだ。