第一話
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-瀞霊廷-
大きな風呂敷を持った橙髪の女性と水色髪の少女が瀞霊廷の門の前に現れた。
???「こんにちは、呉服屋新麻です」
証明の家紋を門番に見せる。
門番「お疲れ様です。お話は伺っております。どうぞお通り下さい。」
???「どうも」
最初に向かったのは大きく十二と書かれた巨大な扉の前。
御免下さい、と声を掛けると隊員が出てくる。隊長に羽織りを届けに来た事を伝えると隊首室まで案内された。
西「曳舟隊長、十席西野です。呉服屋がいらっしゃいました。」
曳「どうぞ」
持ち場に戻る隊員にお礼を言い、部屋の中に入る。部屋の主に挨拶をしようとしたその時、視界の端で何かが素早く動いた。
???「きりお〜っ!!」
???「あ、こら!」
しまったと思った。さっきまで大人しくしていたものだから油断した。少女の首根っこを掴もうとした手は襟を掠め、虚しく空を掴んだ。
女性の静止を聞かず、曳舟をはっ倒さん勢いで少女が飛び付く。予測していたのか、しっかりと少女を抱き止める。
曳「はっはっは!よく来たねぇ!おや、また少し大きくなったんじゃないか?お露」
露「えへへ……へっ!?」
お露と呼ばれた少女が突然の浮遊感に困惑していると、頭上から声がした。
???「すみません、曳舟隊長」
曳「夕凪!構わないさ。私はね、貴女達に会うのが楽しみなんだよ。」
そう言って曳舟が笑えば夕凪も照れ臭そうにはにかむ。
それを聞いた露珠はパッと夕凪を見上げた。良いって言ってるよ!ねっ!ねっ!?と目で、顔全体で訴えてくる。
反省の色が全く見えないその顔を見て思わずぺちっと額を叩けば小さくあうっと聞こえた。
夕「…楽しみにして下さるのは嬉しい限りですが、あまり羽織は汚されないで下さいね。出来上がりの確認をお願いします」
曳舟から引き剥がした露珠を降ろし、風呂敷を開くと綺麗に畳まれた羽織をそっと取り出し渡す。曳舟がそれを受け取りバサッと広げると一点の曇も無い真っ白な羽織が現れる。その白さが背中に刻まれた十二の文字をより際立たてる。
曳「いやー、素晴らしい!毎度思うが、新品の卸したての様だよ!」
夕「お褒めに預かり光栄です」
露「わぁ〜!!桐生!!着て着て!!」
きらきらとした目を向ける幼子の要望に応え、今まで来ていた仮の羽織を脱ぎ、渡された羽織に袖を通す。すぐ着られるように畳跡を付けない心配りも流石御三家だと言えよう。
露「桐生かっくい〜!」
曳「ありがとう、お露」
夕「勝手ながら、以前直した所も改めました。その分は無償ですので、以前お伝えした通り、7500環です」
曳「それは有難い!だが、その値段では些か気が引けるな……」
夕「何をおっしゃいますか、護挺一三隊の皆様にはいつも尸魂界を護って頂いておりますし、服飾関連を一任して貰っています。恩返しと思って下さい」
曳「うーん、しかしなぁ……そうだ!腹は減らずとも味覚はあるだろう?」
そう言うと、戸棚から和菓子を沢山出してくる。
喜ぶ露珠には存分に持たせ、お気持ちだけという夕凪には
十二番隊を出た後は8,7,5,4番隊の順に周り、出来上がったものを渡したり直しの依頼を受けたりした。
夕「さて、帰りますか」
露「あい!」
―流魂街外れ―
二人でまったりしているとよく知った霊圧を感じた。
深「お露達が帰ってきた様ですね。……奏斗?」
反応が無いので様子を伺おうと僅かに動けば、奏斗の体重が背中にかかり慌てて元の所に戻る。息を吐いて落ち着けば穏やかな息遣いが聞こえる。珍しいと思いつつ、二人を出迎えることに意識を戻す。起こすのも忍びないが故、思考を巡らした末に自身の斬魄刀の名を呼ぶと、白い霧が立ち込める。徐々に形を成し、中型犬程の大きさの白く美しい狼が現れる。
深「〖すみません、ハク。二人を出迎えて頂けますか?〗」
《ええ、もちろんよ》
玄関へ向かい腰を落着ける。ゆらゆらとしっぽを揺らしているとカラカラと戸が開いた。
夕「ただいまーってあれ、ハクだ」
《おかえりなさい、今奏斗が眠ってるのよ。それで深命の代わりにお出迎えって
夕「なるほどね、深命は奏斗の部屋に?」
《いいえ、茶の間よ》
夕「ん、じゃあお露、これ居間に置いてきてもらえる?」
露「うん」
ハクと夕は足音を立てないようにして茶の間へ向かう。
夕「〖ただいまぁ~〗」
開いている襖から顔だけだし小声で伝えると、深命もニコリと笑い小声でおかえりなさい、と返す。部屋の中に入り二人の横に腰を下ろす。ハクは小型犬程に小さくなると、真っ直ぐに深命の膝の上に乗り、丸まる。深命もハクを受け入れ背を撫でる。
夕「〖ぐっすりね···。何かあったの?〗」
深「〖数刻前に西流魂街の端まで虚の対処を。何か良くない事を思い出してしまったのかもしれません……。最近お店の方もお願いしていたので無理をさせてしまったのでしょうか……〗」
申し訳なさげに眉尻を下げる深命に夕凪は笑いかける。
夕「〖やぁね、それくらい大丈夫よ。きっと夜中に刀ぶん回してるからよ。唯の睡眠不足!〗」
深「〖フフッ、そうかも〗」
夕凪の言葉に笑みを零す。
夕「〖そうだ、さっき新しく2着依頼を受けたわ。五番隊からは死覇装の定期手入れ、四番隊からは隊長羽織の解れ直しですって〗」
深「〖では、五番隊の物は家へ送って下さい。もう一方は私の机の上へ〗」
夕「〖はーい。あ、お昼ご飯は私が作るわね。〗」
深「〖ありがとうございます。出来上がる頃に声をかけて頂けますか?出来るだけ寝かしてあげたいので〗」
夕「〖ん、了解〗」
夕凪は立ち上がり、台所へ向った。
半刻程で露珠が呼びに来た。
露「深命ちゃん!もうすぐ出来るよ!」
深「ありがとうございます。……奏斗」
奏「んっ……んー?」
声を掛け、肩を数回叩くとすぐに目を覚ました。深命に預けていた背中を起し、瞬きを数回、欠伸を一つ零す。
露「奏斗ちゃん!お昼ご飯出来たよ!起きてー!」
奏「んぁ……」
まだ寝惚け眼な奏斗に露珠が水を渡す。
水を飲み、体を解すと大分目が覚めてくる。
奏「よく寝た……」
深「一刻半程ですかね。ご飯食べられますか?」
奏「ん……」
深命は座り直し、ハクを抱えて立ち上がる。奏斗も続くと三人で居間に向かった。
まだ眠気が後を引き、くぁとあくびが出る。
奏「悪ぃな深命、背中借りた」
深「私で良ければいつでもどうぞ」
露「深命ちゃん!今度は露と!」
深「えぇ、勿論良いですよ」
露「わあい!やったぁ!」
夕「なぁに?楽しそうじゃない」
談笑していると居間に着き、夕凪が机にお昼ご飯を並べていた。
途端に露珠が駆けていき、夕凪の足元に抱き着く
露「夕ちゃん!深命ちゃんがねー、今度露と一緒に寝てくれるって!」
夕「あら、そうなの!良いわねぇ。」
そう言って露珠の頭を撫でる。露珠は心地良さそうに受け入れ、えへへと笑う。
さ、食べましょ、と夕凪が言うと席を二つ開けて座る。いただきますと声を揃え、団欒の一時を楽しむ。
昼食を終え太陽が西に傾き始めた頃、夕凪が広間で組紐を編んでいると襖から深命が顔を出した。
深「夕凪、そろそろ行きましょうか」
夕「んー!ちょっと待って、今行く!」
手早く仮止めをし、直ぐに深命の元へ掛けて行く。深命が持ってきた上着を礼を言いつつ羽織ると玄関に向かう。草履を履き、風呂敷を持ち、行ってきますの言葉と共に家を後にした。
二人は瞬歩を使って森を抜け、流魂街へ向かう。
深命達の家から最寄りの流魂街の番号は二十三。贅沢な生活とはいかないが、商店街も多く活気づいた地域。深命達の商う呉服屋兼薬局はその商店街に軒並みを連ねる店の一つだ。店名は高級呉服屋のものだが安価な着物や小物類を置いており、流魂街の奥地でしか取れない薬草もある為需要がある。
森を抜ける手前で地に降り、ゆったりと歩き始めた。少しすればざわざわと人の声が多く聞こえてくる。賑わう通りに足を踏み入れると自然と気分が高揚するのは老若男女を問わない摂理だろう。
「おや、深命ちゃんじゃないか。」
深「ウメさん、こんにちは。お加減いかがですか?」
「お陰様でもうすっかり。ありがとうね」
「よう、深命さん!」
「新麻さん!」
商店街を通れば各店や住人から声を掛けられ、それぞれに挨拶や返事等丁寧な対応をする。常連さんや近所に店を構える方にも声をかけつつ、自分の店に行くと若い男が品物を整理していた。
深「洸、替わります」
色素の薄い髪を後ろで束ねた男が振り向く。おう、と返すと襷掛けを取りつつ 、奥にいた女性にも声をかける。
洸「紅音、あがるぞー」
はーい、という返事と共に紅音と呼ばれた女性がパタパタと前掛けを外しながら表へ出てくる。
洸「今日の昼飯何だった?」
深「お蕎麦ですよ。夕凪が作って下さいました。」
紅「やった!早く帰ろ!お腹すいちゃった」
紅音が洸をグイグイと引っ張る。
洸「ちょっ、待てって。深命!夜は俺がやるかんな!」
深「はい、お願いします。お疲れ様でした」
紅音に引き摺られながらも深命に要件を叫び、それが通じたと分かれば引っ張るんじゃねぇと紅音といがみ合いだした。
騒ぎながら帰る二人を、緩む頬を抑えることなく見送る。
夕「さて!ひと頑張りといこうか、深命」
深「えぇ」
この時までは、これが日常だった。
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