第二話
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深「(さて……)」
じゃれつきながら帰る二人の声を耳に入れつつ、店の準備に掛かろうとした途端、何かが背の辺りをぞわりと這う様な感覚が襲う。
深「っ、何でしょう……。」
夕「嫌な感じね……。」
ぐるりと辺りを見回しても特に変わった様子は見受けられなかった。が、夕凪も同じ様に感じたということは気のせいでは無い。
洸「深命ッ!」
同じ様な悪寒を感じたのか、少し焦った様子で洸達が戻ってきた。
深「二人とも、」
紅「何か嫌な感じがしたから戻って来ちゃった」
洸「こりゃ虚か?これだけ強い悪寒がするんだから近い所かでかい奴だろうな……」
どうしたものか。
今の自分達では位置までは分からないが、徐々に近づいてきている事だけは、はっきりとしている。どの方向に避難すればいいのか、そもそも街の人達にどう説明すればいいのか、下手なことを言ったら素性がバレかねない。
あぁ、無力だ。
危険が迫っている事がわかっているのに、結局何も出来ない。
ピキピキッ パリィン
ウ"オ"オ"オ"オオオォォォッ!!!!!!!
深·夕·洸·紅「「「「っ!!」」」」
ハッとさせられた音は空の割れる音、それと
異形の、声。
声のした方を見れば、そう遠くは無い所に二つ程の黒い影。
夕「ありゃ、近いね」
深「二十七番あたりでしょうか……」
街がざわつき始めた。
不安が、広がる。
そうだ、何かも分からない程怖いものは無い。相手を知っている、ましてや対抗手段も知っているなら私達がこの人達を、街の人達を護らなくては。
深「(きっと奏斗が既にいるでしょう。しかし彼一人では住民の避難まで手が回りきらない。護廷の方が来るにも時間が掛かりま)」
ドオオオォォォォォン
深「っ!」
思考を巡らしていると突如衝撃音が響いた。悲鳴がする。近くだけでは無く、先の災害地から酷く恐れを含んだ声が。
深「(っこんな熟考している暇はない、動きながら最善の手を考えなくては)……夕凪と紅音は近くの区域の方々を十番台の地区まで避難誘導、洸は瀞霊廷に連絡をお願いします!私は奏斗の補助に向かいます!」
そう伝えると身を翻し走り出した。
それぞれの了承の返事を背に受け、災害の地へ急ぐ。
紅「近くに化物が出たの!避難しよう!」
夕「急いで!いつ此方を攻撃してくるか分からないわ!」
店が並ぶ通りを叫びながら走る。その声を聞いた人々は困惑した表情をしながらも、必要な物を鷲掴んで逃げ始めた。子供や老人には手を貸しつつ避難誘導を進める。
-二十七地区-
突然現れた化け物が人々を襲う。建物も壊され、中に身を潜めるのはより危険だ。
また衝撃。反射のように悲鳴をあげる。化け物から少しでも距離を取ろうと皆が必死に足を動かす。
老人「あっ」
人の流れにもまれ、一人の老人が足を縺れさせてしまった。おばあちゃんっと何度も叫ぶ泣きそうな孫の声がする。だがその声も徐々に離れていく。上手く動かない足で何とか立とうと試みるも、老いた体は中々言う事を聞いてくれない。
背後からは化け物の影が近づいてくる。私はあの世でも助からないのか。なら精一杯、この世で良くしてくれた孫に精一杯笑おう。
グオオオオオオオッ
咆哮。死はもうそこに。
僅かに、土を蹴るような音がした。
それと共に化け物より近くに現れた気配。
恐る恐る振り返ると、人が自分を庇うように立っていた。
外套のフードを深くを被った人物。
少しも此方を見遣る事も無い。何を言うでも無い。しかし
それと同時に、なんて馬鹿な人だとも思った。被害は自分一人で良いと思っていたのに、態々巻き込まれに来るなんて。
退きなさいと言おうとした次の瞬間、その人物が姿を消した。はて何処に。
ドゴオォ
突然の轟音と舞い上がる土煙に思わず顔を逸らす。
視界が晴れてきた頃、音のした方に目を凝らすとあの化け物が地面に倒れていた。その傍らに立つ人影は先程目の前にいた人物か。
風に靡く外套から見えた顔は、狐の面に隠され見えなかった。
ぽん、と肩に手を置かれ呆けていた意識を戻す。振り返るとそこには美しい女性が優しい微笑みを自分に向けていた。
天女と見間違う程だった。今し方命を助けられたというのに、お迎えに天女様が来たのかと一瞬思ったが、どうやら彼女は実物らしい。
深「お怪我はございませんか?」
その言葉を何処か上の空気味に頭に通す。何度か反芻した所で漸く肯定の返事ができた。
はて今のは声になっていただろうか。不安に思ったがどうやら通じていたようで、彼女の唇は再び弧を描き、細められた目からは先程よりも焦りの消えた瞳が見えた。
深「ようございました、では避難しましょう。お手を」
老人の手を握り、腰を支えながらゆっくりと立ち上がらせる。兎に角身を隠させなければ。ちらりと奏斗の方を見やると逆方向で暴れる数体の虚に対応していた。
セロを打とうとする虚には例の玉を喰わせ、暴れようとするものには地面に叩きつける。こちらに気を引かせないよう全部相手していた。
深「(すみません、奏斗…任せます)」
壊された家屋の瓦礫の上を通って隣の道に出る。少しずつ、少しずつ歩を進め虚から距離をとる。
通りに出たところで向こう側から子供が掛けてくる。
孫「おばあちゃんッ!!」
その声を聞いた老人は驚きと嬉しさの混ざった顔をしていた。その様子を目にした深命はそっと老人の背を押し、笑いかけた。こちらを見た老婆は目一杯に涙を溜め、辛うじて口角を上げ一つ頷くとよろよろと、しかし一歩ずつ孫の元へ歩いていく。
ぎゅぅと互いに抱きしめあう。そこに居る事を確かめるように。離れていた時間はほんの僅か、その合間にもう二度と会うことは出来なくなっていたかもしれない危機があった。命あっての再会に涙を流した。
しかし、絶望は終わらない。
--頭上でヒュッと風を切る音がした。
ドォン
現れた二体の虚。その存在は、垣間見えた未来を打ち砕くには十分だった。