第一章
夢小説設定
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「我がチームのキーパーなら、こんなもの指一本でとめてみせるだろうね。」
反対側のゴール前で軽々と人差し指でサッカーボールを遊ばせるブロンドに、
グラウンド中の目線が注がれました。
好敵手だと嬉々とした表情を見せていた円堂さんも、彼のその言葉には閉口した様子です。
「あれは世宇子中の……」
「!……そういうことか!」
夏未様と監督がいぶかしむように目線を交わしたところで、
ブロンドのボールの影をおろした目元が画面の中で相手チームを見下ろしていた顔とつながりました。
あの涼しげな笑みで一体何人の少年たちに膝をつかせてきたのでしょうか、
クリティオスの彫刻のように見目麗しい姿から底の見えない恐ろしさを覚えさせます。
「そのチームってのは世宇子中のことだろう、アフロディ。」
あの鬼道様が語気を強めて近づいているというのに、
ブロンドはさも興味がないとばかりに体を翻して円堂さんに語り続けています。
彼の手元からはじき出されたボールは、
こちら側のゴール手前に引かれた白線の枠を超えて、
2、3度地面に弾かれてから視界の先に消えていきました。
「改めて自己紹介させてもらおう。世宇子中のアフロディだ。
君のことは影山総帥から聞いている。」
影山という言葉がブロンドの口から出たかと思うと場の空気が一気に張り詰めて、
頭に血が上ったのか鬼道様、染岡さんが詰め寄っているようです。
「影山の奴、また汚い手を。」
こちらでは監督が肩を震わせながらサングラスでは遮れないほどの侮蔑の目をブロンドに向け、
警戒の体制をとる夏未様は左上腕にかけた右手がブラウスの袖にしわを寄せています。
世宇子中、影山、勝つためには手段を選ばない極悪人。
なるほど、彼がその影山とやらの斥候というわけでしょうね。
夏未様の背中に手を添えながらコートの先を見据えると、
雷門と世宇子の火花はさらに熱が上がっているようです。
「私は君たちと闘うつもりはない。君たちも闘わないほうがいい。それが君たちのためだよ。」
「なぜなら、負けるからさ。」
ブロンドはこちらの神経を逆なでするように、不敵な笑みを浮かべました。
「試合はやってみなきゃわからないぞ!」
円堂さんが声を荒げて返した言葉さえどこ吹く風の様子で、
自らを神とのたまうブロンドはいかに結果がわかりきっているかとご高説を垂れ続けます。
「だから練習もやめたまえ、神と人間の間の溝は練習では埋められるものじゃないよ。
無駄なことさ。」
「うるさい。」
キャプテンの口から出た予想外の言葉にグラウンド中の空気が凍りつき、
自称神までも目を見開いて言葉に詰まった様子です。
「練習が無駄だなんて誰にも言わせない!
練習はおにぎりだ!俺たちの血となり肉となるんだ!」
円堂さんの鬼気迫る表情とは裏腹に、
ブロンドはおにぎりという単語がよほどお気に召したのか、せせら笑いを響かせました。
「笑うとこじゃないぞ。」
地獄の底から響くような声で円堂さんが返し、上瞼にまでついた瞳孔がブロンドをとらえ続けています。
「……円堂くん。」
私の手から夏未様の体温が離れ、一歩、二歩と円堂さんに向かって体を寄せられました。
ああ、おっしゃっていたあのバカとは、彼のことだったのですね。
貴女が想いを込めて握った米粒の一つ一つが、今彼を燃え上がらせているのでしょう。
「しょうがないなあ。じゃあそれが無駄なことだと、証明してあげるよ!」
ブロンドはボールを後方へ蹴り上げたかと思うと、一瞬で天高くに姿を見せ、
再び足元に戻したボールで地上の円堂さんに照準を定めました。
ブロンドの蹴ったボールは二重らせん式に回転する空気の尾を引きながら急降下し、
中央の白線を通過するころには禍々しい赤の光を纏って最後まで勢いを加速させながら
凶星の如くゴールへ向かって墜ちていきました。
「だああああッッ!!!!」
常人であれば逃げ出してしまうであろうその火球を円堂さんは両手で受け止め、
決死の攻防の末、強烈な閃光を放ってボールはゴールの上方へ、
円堂さんの体はそのネットへと弾き飛ばされました。
「円堂!」「円堂!」
「円堂くん!」
自称神を除いたグラウンドの誰もが彼の名を叫び、ゴールへと走り寄りました。
駆け出した夏未様が動揺のためか体制を崩されたので、その手を掬い取るだけして背中を押しました。
再び彼のもとへと走れるように。
「しっかりしなさい!」
「どけよ!」
彼の名を呼び続ける豪炎寺さんを、彼をかかえる鬼道様を、
膝をついてまで彼の身を案じた夏未様を円堂さんは振り払い、
鬼道様の制止も、風丸さんの視線も露知らず、
ただ、目の前の悪神に向かって敵意を顕わにされました。
「こいよ、もう一発!
今の本気じゃないだろ、本気でどんとこいよッ!」
感情をむき出しにした剣幕にも微動だにしないブロンドの一方で、
円堂さんは先ほどのダメージからか膝を震わせて地面に手をついてしまいました。
再び立ち上がることはできないことは自身で理解されているでしょうに、
気持ちがおさまりきらないのでしょう、悪神をにらみつける目には怒りが燃えています。
「あははは!おもしろい!神のボールをカットしたのは君が初めてだ。
決勝が少し楽しくなってきたよ。」
数刻前とは打って変わった少年のような朗笑を浮かべた悪神に目を疑いましたが、
次の瞬間には神出鬼没が如く舞い上がった胡蝶蘭の花渦の中に消え行ってしまいました。
「お嬢様!お怪我はありませんか。」
場の緊張が解けたと同時に夏未様のもとへ駆け寄り、
あまりの出来事に放心なさった様子でしたので、お手を取ってなんとか地面から膝を離していただきました。
「……あんな円堂くん、知らない。」
夏未様はご自身の口からこぼれ出た言葉が信じられないというように瞳孔を丸くされ、
それ以上は目線を下に向けられたままグラウンドを後にしました。
反対側のゴール前で軽々と人差し指でサッカーボールを遊ばせるブロンドに、
グラウンド中の目線が注がれました。
好敵手だと嬉々とした表情を見せていた円堂さんも、彼のその言葉には閉口した様子です。
「あれは世宇子中の……」
「!……そういうことか!」
夏未様と監督がいぶかしむように目線を交わしたところで、
ブロンドのボールの影をおろした目元が画面の中で相手チームを見下ろしていた顔とつながりました。
あの涼しげな笑みで一体何人の少年たちに膝をつかせてきたのでしょうか、
クリティオスの彫刻のように見目麗しい姿から底の見えない恐ろしさを覚えさせます。
「そのチームってのは世宇子中のことだろう、アフロディ。」
あの鬼道様が語気を強めて近づいているというのに、
ブロンドはさも興味がないとばかりに体を翻して円堂さんに語り続けています。
彼の手元からはじき出されたボールは、
こちら側のゴール手前に引かれた白線の枠を超えて、
2、3度地面に弾かれてから視界の先に消えていきました。
「改めて自己紹介させてもらおう。世宇子中のアフロディだ。
君のことは影山総帥から聞いている。」
影山という言葉がブロンドの口から出たかと思うと場の空気が一気に張り詰めて、
頭に血が上ったのか鬼道様、染岡さんが詰め寄っているようです。
「影山の奴、また汚い手を。」
こちらでは監督が肩を震わせながらサングラスでは遮れないほどの侮蔑の目をブロンドに向け、
警戒の体制をとる夏未様は左上腕にかけた右手がブラウスの袖にしわを寄せています。
世宇子中、影山、勝つためには手段を選ばない極悪人。
なるほど、彼がその影山とやらの斥候というわけでしょうね。
夏未様の背中に手を添えながらコートの先を見据えると、
雷門と世宇子の火花はさらに熱が上がっているようです。
「私は君たちと闘うつもりはない。君たちも闘わないほうがいい。それが君たちのためだよ。」
「なぜなら、負けるからさ。」
ブロンドはこちらの神経を逆なでするように、不敵な笑みを浮かべました。
「試合はやってみなきゃわからないぞ!」
円堂さんが声を荒げて返した言葉さえどこ吹く風の様子で、
自らを神とのたまうブロンドはいかに結果がわかりきっているかとご高説を垂れ続けます。
「だから練習もやめたまえ、神と人間の間の溝は練習では埋められるものじゃないよ。
無駄なことさ。」
「うるさい。」
キャプテンの口から出た予想外の言葉にグラウンド中の空気が凍りつき、
自称神までも目を見開いて言葉に詰まった様子です。
「練習が無駄だなんて誰にも言わせない!
練習はおにぎりだ!俺たちの血となり肉となるんだ!」
円堂さんの鬼気迫る表情とは裏腹に、
ブロンドはおにぎりという単語がよほどお気に召したのか、せせら笑いを響かせました。
「笑うとこじゃないぞ。」
地獄の底から響くような声で円堂さんが返し、上瞼にまでついた瞳孔がブロンドをとらえ続けています。
「……円堂くん。」
私の手から夏未様の体温が離れ、一歩、二歩と円堂さんに向かって体を寄せられました。
ああ、おっしゃっていたあのバカとは、彼のことだったのですね。
貴女が想いを込めて握った米粒の一つ一つが、今彼を燃え上がらせているのでしょう。
「しょうがないなあ。じゃあそれが無駄なことだと、証明してあげるよ!」
ブロンドはボールを後方へ蹴り上げたかと思うと、一瞬で天高くに姿を見せ、
再び足元に戻したボールで地上の円堂さんに照準を定めました。
ブロンドの蹴ったボールは二重らせん式に回転する空気の尾を引きながら急降下し、
中央の白線を通過するころには禍々しい赤の光を纏って最後まで勢いを加速させながら
凶星の如くゴールへ向かって墜ちていきました。
「だああああッッ!!!!」
常人であれば逃げ出してしまうであろうその火球を円堂さんは両手で受け止め、
決死の攻防の末、強烈な閃光を放ってボールはゴールの上方へ、
円堂さんの体はそのネットへと弾き飛ばされました。
「円堂!」「円堂!」
「円堂くん!」
自称神を除いたグラウンドの誰もが彼の名を叫び、ゴールへと走り寄りました。
駆け出した夏未様が動揺のためか体制を崩されたので、その手を掬い取るだけして背中を押しました。
再び彼のもとへと走れるように。
「しっかりしなさい!」
「どけよ!」
彼の名を呼び続ける豪炎寺さんを、彼をかかえる鬼道様を、
膝をついてまで彼の身を案じた夏未様を円堂さんは振り払い、
鬼道様の制止も、風丸さんの視線も露知らず、
ただ、目の前の悪神に向かって敵意を顕わにされました。
「こいよ、もう一発!
今の本気じゃないだろ、本気でどんとこいよッ!」
感情をむき出しにした剣幕にも微動だにしないブロンドの一方で、
円堂さんは先ほどのダメージからか膝を震わせて地面に手をついてしまいました。
再び立ち上がることはできないことは自身で理解されているでしょうに、
気持ちがおさまりきらないのでしょう、悪神をにらみつける目には怒りが燃えています。
「あははは!おもしろい!神のボールをカットしたのは君が初めてだ。
決勝が少し楽しくなってきたよ。」
数刻前とは打って変わった少年のような朗笑を浮かべた悪神に目を疑いましたが、
次の瞬間には神出鬼没が如く舞い上がった胡蝶蘭の花渦の中に消え行ってしまいました。
「お嬢様!お怪我はありませんか。」
場の緊張が解けたと同時に夏未様のもとへ駆け寄り、
あまりの出来事に放心なさった様子でしたので、お手を取ってなんとか地面から膝を離していただきました。
「……あんな円堂くん、知らない。」
夏未様はご自身の口からこぼれ出た言葉が信じられないというように瞳孔を丸くされ、
それ以上は目線を下に向けられたままグラウンドを後にしました。