数字をつらつら並べる先生の退屈な呪文に、瞼が鉛のようになってしまいます。
あと10分耐えきればやっと夏未様をお迎えに行けるのだから耐えなくては。

朝練があるからと言って早くに登校されていましたから、
きっといつもよりもお腹を空かせていらっしゃることでしょう。

雷門家の跡取りたるもの空腹だってコントロールできなくてどうするのと
都度おっしゃられてはおられますが、
夏未様の血となり肉となるのですもの、しっかり食べていただかなくては。

チャイムの音を皮切りに動かした私の足が扉へたどり着こうとするのと、
木野さんが私に声をかけようとしてくださったのとはほとんど同時でした。

「すみません、お食事の時間は私お嬢様のところへ行かなくてはならないので、
それでは！」
なんとお優しい方なのでしょう。でもこればかりはお許しくださいまし。

「行っちゃった。そういうのもなの…かな。ね、円堂くん。」

「ん、ああ、そうだな。」

「もうっご飯の時くらいノートはお休み！
いっぱい残ったお弁当なんて、おばさんが見たらきっと悲しんじゃうよ。」

「ん、ああ、そうだな。」

「ちゃんと食べなさい。ほら、口開けて。」

「ん、ああ、ふごっ…………うまい。」


廊下を歩きぬけて、一つ角を曲がった先にあるのが夏未様のいる特進クラスです。

南向きの教室ですから、夏未様が窓辺の席にお座りになった時には光を背負っていらっしゃるのでしょう。

息と身なりを整えて、いざ手をかけようとした扉が勢いよく開いたので思わず声を漏らしてしまいました。
特進となれば自動扉なんてものも備え付けているのかと思いましたが、
目の前の凸凹二人組が答えだったようです。

「っとわるいわるい、大丈夫かい？」

「駄目じゃないか、女の子にけがをさせるところだったんだぞ。
君ごめんね、うちのクラスに何か用かな？」

「おじょ、いえ雷門夏未様に、
お迎えに上がりましたと伝えていただけますか？」

「夏未ちゃんなら、理事長室に行ったぜ。」

この男今なんと言いましたか。
日本有数の名家、雷門家のご嫡子であらせられる夏未様のことを、
そんな馴れ馴れしく呼ぶだなんて、なによこの男！


「ななな夏未様のことを、ち、ちゃん付けだなんて！
教えてくれた礼は言いますけど、次はお覚悟なさい！き～っ！！！」

こんな男を視界に入れ続けるのに耐えかねて、一秒でも早くと理事長室へと踵を返しました。
夏未様のお姿とお声にこの乱れた心を癒していただかないと気が持ちません！

「あれ、もしかして俺嫌われた？」

「すごいね、あんなセリフ初めて聞いたな。後でちゃんと謝っておきなよ。
それにしてもなんだか知ってる雰囲気の子だったよね。
おーい鬼道、君なら何か知ってる？」

「ああ、それなら場寅奉だ。
イナズマイレブンの場寅の孫で雷門の、我らがマネージャーの所謂メイドってやつだな。」

「へ～、本物はメイド服着てないんだな。」

「メイドに偽物なんているのか？」

「君の妹さんもコスプレしたことあるらしいよ、ニセモノメイドさん。」

「何っ、春奈が。詳しく聞かせろ！」