第三章
夢小説設定
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大理石の長いコンコースを抜けると惨状……ではなく、芝の戦場で震えながらも両の足で地に立ち、
偽りの神たちに向かって闘志を稲妻の如く轟かせるサッカー武者たちの姿が見えました。
ええ!雷門サッカー部の皆さんはたとえどんな状況であっても、
最後まで芝に膝をつけてしまうわけがないと信じておりましたとも!
主審は不躾にも試合を半ばで決着しようとしていたようですが、
鬼道様が何か声を張り上げられたのを見るやいなや掲げた腕から力が抜けてゆき、
すんでのところで神殺しの戦は続行となったようです。
しかし、未だフィールドを支配しているのは髪の一糸も乱さず、汗の一滴だってみせていない
アフロディーテを騙るあの悪鬼でした。
「ゴットノウズ!」
ヒトに似つかわしくない3対6枚の羽根が天からの陽光を集めて幻のように煌めき、
足元に携えた合皮のボールが白色矮星のごとく眩さを解き放とうとしています。
凶星が見据えるのは頭からつま先まで泥と芝、生傷に塗れた円堂さんでした。
体を支えるので精一杯でしょうに、落星を受け止めようと両の腕を伸ばしグローブを広げています。
はたとスコアボードに目をやると、0対3、これ以上ゴールを決められてしまっては
満身創痍の雷門にとって非常に厳しい後半戦となるでしょう。
そんな杞憂が届いたのか、ブロンドの足がボールに振りかぶられるといったところで
ホイッスルが前半の終わりを告げ、間一髪となりました。
互いに肩を貸しあいながらピッチから戻っていく選手たちの姿を見つめながら、
規定のため大理石の先に入ることのできない己に二の足を踏んでいると、
夏未様が芝を巻き上げながらこちらへ駆け寄ってこられました。
「奉、バックヤードであったことをみんなに話すわ。
あなたもこっちへ来なさい。」
「お嬢様…ですが、もうベンチには枠がありません。」
「そんなこと!むこうを見てみなさいよ。」
ハーフラインの先のベンチでは、明らかに規定数以上のスタッフが
ゼウスの子供たちを取り囲んでいるようです。
大会規定を自ら無視している、というよりそもそも倫理から外れたような連中に
咎められるような所以はありませんね。
芝に足を踏み出して円堂さんたちのもとへ駆け寄り、夏未様と先ほどの出来事、
とくに体力増強剤、もといドーピング剤が敵の選手たちに投与されていることについて
詳らかにお伝えしました。
どんなサッカー少年にも根付いているはずのスポーツマンシップとは対極に位置するような悪逆非道の行いに、円堂さんは目を見開いて信じられないといった顔をされてから、
肌で感じられたであろう彼らの文字通りの人間離れした力を思い出されたのか、絞りだすように呟かれます。
「神のアクア……」
「体力増強のドリンク!……っ許せない!」
「サッカーを、俺たちの大好きなサッカーを、
どこまで汚せば気が済むんだっ!」
憤怒と侮蔑とが入り混じって激昂された円堂さんに続くように、
鬼道様が世宇子側スタンドの上方、試合前に影山が現れたあの場所へ向けてゴーグルを光らせました。
記憶のなかの地図と照らし合わせる限りあの視線の先が執務室のはずですが、
鬼瓦刑事は彼の仕事を完遂されたでしょうか。
暗色ガラス張りの窓からは中の様子を窺うことはできません。
それならと世宇子側のベンチに目線を下げると、
試合開始当初と同じく神のアクアが11人分用意されているではありませんか!
初めて目にしたそれよりも若干白みが増したような増強剤の水溶液の杯を
再び、いえ三度になるのでしょう、悪鬼たちは何の疑問も持たず乾かして見せました。
「皆様、申し訳ありません。敵の策略を止めるには、遅かったようです。」
自身の失態のせいで、醜行の産物であるドーピングプレイヤーを相手どらなければならない少年選手に対してできることは、
己の非力さに下唇を噛み締め、ただ頭をできうる限り下げることしかありませんでした。
「奉、あなたは充分やってくれたわ。さあ顔をあげなさい。」
「お嬢様、ですが…。」
「雷門のいう通りだ、奴らの力の仕掛けがわかったのなら恐ろしくはないさ。」
「むしろ燃えてくる、というやつだな。」
「そうだな、神のアクア…
そんなものをサッカーに持ち込むなんてっ。」
「円堂くん……。」
先ほどは凛々しくも私へ激励のお言葉をかけていただいた夏未様でしたが、
あれほどの傷を負ってなお戦場に臨もうとする円堂さんを引き留めたいという心中が
思わず転び出てしまわれたかのように牡丹の唇が彼の名を呼びました。
想い人が危険の真っただ中に赴くとなれば、気を揉まない乙女がどこにおりましょうか。
この私だって、大切な方をお守りしたい一心がために奥の手の射撃術まで披露することになったのですから、
どんなに強く思っていようと白線に隔たれてしまう夏未様のお心の内ははかりしれません。
すると、円堂さんは先ほどまでの憤激を潜め、
見送るこちらを安心させるように落ち着いた口調で言葉を紡がれました。
「大丈夫!俺はやれる、やらなきゃならない。
俺たちは世宇子のサッカーが間違っていることを示さないといけないんだ。」
夏未様を捉えるその両の瞳には己の信念に基づいた固い意思が燃えているようでした。
円堂さん、あなたはそういう方でしたね、だからこそ私は……。
「よしッ、行けぃ!」
キャプテンの覚悟に応えるように監督が声を張ると、
鬼道様をはじめフィールド選手たちは力強く白線を越え、
一人足りないハンディを感じさせないほどの存在感をもってそれぞれのポジションをとりました。
円堂さんは使い込まれた紅いグローブをしっかりと嵌め、
偽りの神たちから浴びせられる視線を露ともせず、ゴールエリアに両の手を構えました。
そして、私の左でベンチから芝に目線を向けられている夏未様の潤む瞳には
あなたと、あなたの背負うゴールが映っています。
だから最後まで諦めず戦ってください。
あなたの、みんなのサッカーを守るために!
偽りの神たちに向かって闘志を稲妻の如く轟かせるサッカー武者たちの姿が見えました。
ええ!雷門サッカー部の皆さんはたとえどんな状況であっても、
最後まで芝に膝をつけてしまうわけがないと信じておりましたとも!
主審は不躾にも試合を半ばで決着しようとしていたようですが、
鬼道様が何か声を張り上げられたのを見るやいなや掲げた腕から力が抜けてゆき、
すんでのところで神殺しの戦は続行となったようです。
しかし、未だフィールドを支配しているのは髪の一糸も乱さず、汗の一滴だってみせていない
アフロディーテを騙るあの悪鬼でした。
「ゴットノウズ!」
ヒトに似つかわしくない3対6枚の羽根が天からの陽光を集めて幻のように煌めき、
足元に携えた合皮のボールが白色矮星のごとく眩さを解き放とうとしています。
凶星が見据えるのは頭からつま先まで泥と芝、生傷に塗れた円堂さんでした。
体を支えるので精一杯でしょうに、落星を受け止めようと両の腕を伸ばしグローブを広げています。
はたとスコアボードに目をやると、0対3、これ以上ゴールを決められてしまっては
満身創痍の雷門にとって非常に厳しい後半戦となるでしょう。
そんな杞憂が届いたのか、ブロンドの足がボールに振りかぶられるといったところで
ホイッスルが前半の終わりを告げ、間一髪となりました。
互いに肩を貸しあいながらピッチから戻っていく選手たちの姿を見つめながら、
規定のため大理石の先に入ることのできない己に二の足を踏んでいると、
夏未様が芝を巻き上げながらこちらへ駆け寄ってこられました。
「奉、バックヤードであったことをみんなに話すわ。
あなたもこっちへ来なさい。」
「お嬢様…ですが、もうベンチには枠がありません。」
「そんなこと!むこうを見てみなさいよ。」
ハーフラインの先のベンチでは、明らかに規定数以上のスタッフが
ゼウスの子供たちを取り囲んでいるようです。
大会規定を自ら無視している、というよりそもそも倫理から外れたような連中に
咎められるような所以はありませんね。
芝に足を踏み出して円堂さんたちのもとへ駆け寄り、夏未様と先ほどの出来事、
とくに体力増強剤、もといドーピング剤が敵の選手たちに投与されていることについて
詳らかにお伝えしました。
どんなサッカー少年にも根付いているはずのスポーツマンシップとは対極に位置するような悪逆非道の行いに、円堂さんは目を見開いて信じられないといった顔をされてから、
肌で感じられたであろう彼らの文字通りの人間離れした力を思い出されたのか、絞りだすように呟かれます。
「神のアクア……」
「体力増強のドリンク!……っ許せない!」
「サッカーを、俺たちの大好きなサッカーを、
どこまで汚せば気が済むんだっ!」
憤怒と侮蔑とが入り混じって激昂された円堂さんに続くように、
鬼道様が世宇子側スタンドの上方、試合前に影山が現れたあの場所へ向けてゴーグルを光らせました。
記憶のなかの地図と照らし合わせる限りあの視線の先が執務室のはずですが、
鬼瓦刑事は彼の仕事を完遂されたでしょうか。
暗色ガラス張りの窓からは中の様子を窺うことはできません。
それならと世宇子側のベンチに目線を下げると、
試合開始当初と同じく神のアクアが11人分用意されているではありませんか!
初めて目にしたそれよりも若干白みが増したような増強剤の水溶液の杯を
再び、いえ三度になるのでしょう、悪鬼たちは何の疑問も持たず乾かして見せました。
「皆様、申し訳ありません。敵の策略を止めるには、遅かったようです。」
自身の失態のせいで、醜行の産物であるドーピングプレイヤーを相手どらなければならない少年選手に対してできることは、
己の非力さに下唇を噛み締め、ただ頭をできうる限り下げることしかありませんでした。
「奉、あなたは充分やってくれたわ。さあ顔をあげなさい。」
「お嬢様、ですが…。」
「雷門のいう通りだ、奴らの力の仕掛けがわかったのなら恐ろしくはないさ。」
「むしろ燃えてくる、というやつだな。」
「そうだな、神のアクア…
そんなものをサッカーに持ち込むなんてっ。」
「円堂くん……。」
先ほどは凛々しくも私へ激励のお言葉をかけていただいた夏未様でしたが、
あれほどの傷を負ってなお戦場に臨もうとする円堂さんを引き留めたいという心中が
思わず転び出てしまわれたかのように牡丹の唇が彼の名を呼びました。
想い人が危険の真っただ中に赴くとなれば、気を揉まない乙女がどこにおりましょうか。
この私だって、大切な方をお守りしたい一心がために奥の手の射撃術まで披露することになったのですから、
どんなに強く思っていようと白線に隔たれてしまう夏未様のお心の内ははかりしれません。
すると、円堂さんは先ほどまでの憤激を潜め、
見送るこちらを安心させるように落ち着いた口調で言葉を紡がれました。
「大丈夫!俺はやれる、やらなきゃならない。
俺たちは世宇子のサッカーが間違っていることを示さないといけないんだ。」
夏未様を捉えるその両の瞳には己の信念に基づいた固い意思が燃えているようでした。
円堂さん、あなたはそういう方でしたね、だからこそ私は……。
「よしッ、行けぃ!」
キャプテンの覚悟に応えるように監督が声を張ると、
鬼道様をはじめフィールド選手たちは力強く白線を越え、
一人足りないハンディを感じさせないほどの存在感をもってそれぞれのポジションをとりました。
円堂さんは使い込まれた紅いグローブをしっかりと嵌め、
偽りの神たちから浴びせられる視線を露ともせず、ゴールエリアに両の手を構えました。
そして、私の左でベンチから芝に目線を向けられている夏未様の潤む瞳には
あなたと、あなたの背負うゴールが映っています。
だから最後まで諦めず戦ってください。
あなたの、みんなのサッカーを守るために!