第三章
夢小説設定
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二度目の雷門中全滅未遂事故といえば、
FF地区予選決勝戦にて室内スタジアムの天井部を支える鉄骨が
フィールドに大量落下した事故のことを一般的に差します。
事故の原因は会場設備の『経年劣化』で、
奇跡的に死傷者は出ずそのまま試合は続行されたとだけ、
当時のニュースには記されていました。
しかし、事の真相は帝国学園総帥の影山の指示によって
鉄骨をつなぎとめていた螺子が意図的に外され、
雷門中側のコートにだけ落下するようにと仕組まれたものでした。
この事実は何らかの圧力により隠蔽され、
無罪放免された影山は帝国中に戻り今日にいたるというわけです。
今回のFF決勝戦のために、男が用意せしめた大理石の会場は
外観の古典礼賛主義とは反して最新の勾配移動方式の開閉屋根となっているようで、
黄色い陽光が天然芝の青に乱反射する様子がうかがえる通り、
前回と全く同じ手を使ってくるというわけではなさそうです。
「では皆様、手筈通り私はここで。」
「奉先輩、本当によかったんですか?今からでも監督に……」
「どうかお構いなく。
それに元々ベンチのマネージャーは3人までという大会規定ですから。」
「円堂くんたちならきっと大丈夫だから、信じていてね。」
「それじゃあ、奉、任せたわよ。」
「……はい!不肖奉、場寅の名にかけまして皆様の安全をお守りいたします!」
深緑のフィールドを踏みしめて決戦準備へと歩みだしていく夏未様たちを見送ってから、
冷たく重い影が落ちたコンコースへと踵を返しました。
わずかな明かりが照らす関係者用階段を静かに駆け上がりながらスカートの上に巻いた
ベルトループの吊り袋を手で確かめました。
今日は馴染んだ包丁の木目の感触は返ってこず、
おじいさまからもしものためにと託された
ガンタイプの催涙スプレーの硬く冷ややかな手触りが眉に力を入れさせました。
そうこうするうちに階段を登り切り、前科のある天井付近からスタンドの一階席まで、
怪しい物、人、設備がないかと大理石から大理石へと目を光らせて回りました。
しかし、特段不審な箇所はなく、ただ上空ゆえの肌を刺すような風だけがあり、
あの悪逆非道の男はどうやら今回は会場設備からの物理的な介入を
目論んではいないということが確認できました。
では一体何を?どんな企みを隠しているというのでしょうか。
思考を巡らせているうちにスタンド席は次々と観客で埋まってゆき試合開始まであとわずかとなっていました。
『雷門中、40年ぶりの出場でこの決勝戦にまで昇りつめたッ!
果たしてFFの優勝をもぎ取ることができるのでしょうか!?』
実況アナウンスを耳にして見下ろした先のフィールドでは、
雷門中の面々がアップ前にベンチで意気込んでいるというところで、
中心になって何かを話している円堂さんと
それを柔らかな目線で見守る夏未様、木野さんの姿がとらえられました。
お二人はお互いの恋慕を知っているはずですのに、
ただ彼に向けて信頼と純粋な応援の気持ちを向けられている、
なんと美しいお姿なのでしょうか。
二柱の女神の清廉さに感嘆していたのも束の間、
空間を裂くような風が会場全体を吹き荒らし、視界を遮りました。
『今大会最も注目を集めている世宇子イレブンだ!
決勝戦まで圧倒的な強さで勝ち続けてきた大本命ッッ!!
決勝でもその力を見せつけるのか!?』
つむじ風の目から仲間を引き連れたブロンドの悪鬼が姿を現しました。
雷門中グラウンドでのことを含めて
神出鬼没のたとえのどちらにも当てはまるなんて、まったく気のいいかたですこと!
もちろんあのブロンドの場合、神は神でも悪神の類ですけれども。
『さあまもなく試合開始です!』
決戦前の円陣組みをしている雷門中を横目に、
監督でも審判でもない研究者のような恰好をした大人の男性が
中型のステンレスカートを世宇子中ベンチまで押していくのが見えました。
カートの配膳台にはスポーツドリンクのような薄い乳白色の液体の注がれた小さな杯が
丁度11人分用意されており、
世宇子イレブンはそれを揃って天へ掲げた後口へと運び、杯を乾かしてみせました。
ただ、彼らはそれを地に叩きつけるといったことはなく、
空になった11の杯は再び台に置かれ、芝から去ってゆきました。
戦意高揚のための酌み交わしであるというのに杯を割らないとは、
古典に染められた世宇子中の風体と合わず、妙な引っかかりを覚えます。
この試合は杯を割り決死の覚悟を表わすほどではないという挑発なのでしょうか、
それとも、彼らにはまたあの杯を、乳白色の液体を再び口にする機会が確実にあるのだとしたら……?
ふと浮かんだ疑問が影山という男の勝利への執着に結び付き、
最悪の答えが脳裏に浮かんで、全身の血の気が潮のように引いてゆきました。
まさか、いくら何でも、中学生相手にそんなことをするはずがないでしょう。
試合開始に間に合わせようと席へ向かう観客の流れに逆らって、
息も切れ切れに控室に戻り、罪悪感を振り払いながら
夏未様のノートパソコンを開きました。
震える手で起動スイッチを押し、
『帝国対世宇子』の文字が書かれたDVD-Rを試合開始直前から再生しました。
ただ、当時の優勝候補だった帝国目線でカメラが回っていたのか、
先ほどのように杯を交わす世宇子中の様子は撮れていなかったようでした。
しかし、プレーヤーのシークバーをキックオフから5分、10分と進め、
15分でついに恐れていた情景がモニタに映し出されました。
「そんな、全員が、同時に、飲んで……。」
芝の上に力なく倒れている帝国中選手をとらえた画角の中、ほんの一瞬だけ
ベンチであの杯を口にしている世宇子イレブンが確認できました。
はたから見れば、立ち上がれない相手を尻目に
水分補給をしているようにしか見えませんし、
その後帝国中の棄権で試合は終わってしまっていますので
よっぽどのことでなければこの不自然な動作には気が付けないでしょう。
動揺に泳ぐ目を時計に向けると試合開始時刻から丁度5分といったところで、
このままいけばきっと同じ悲劇が繰り返されてしまいます。
急いでパソコンを閉じると腰に携えた銃のセイフティを外して、
あの研究員が消えていった場所、世宇子中側のバックヤードへと続く道を駆けだしました。
FF地区予選決勝戦にて室内スタジアムの天井部を支える鉄骨が
フィールドに大量落下した事故のことを一般的に差します。
事故の原因は会場設備の『経年劣化』で、
奇跡的に死傷者は出ずそのまま試合は続行されたとだけ、
当時のニュースには記されていました。
しかし、事の真相は帝国学園総帥の影山の指示によって
鉄骨をつなぎとめていた螺子が意図的に外され、
雷門中側のコートにだけ落下するようにと仕組まれたものでした。
この事実は何らかの圧力により隠蔽され、
無罪放免された影山は帝国中に戻り今日にいたるというわけです。
今回のFF決勝戦のために、男が用意せしめた大理石の会場は
外観の古典礼賛主義とは反して最新の勾配移動方式の開閉屋根となっているようで、
黄色い陽光が天然芝の青に乱反射する様子がうかがえる通り、
前回と全く同じ手を使ってくるというわけではなさそうです。
「では皆様、手筈通り私はここで。」
「奉先輩、本当によかったんですか?今からでも監督に……」
「どうかお構いなく。
それに元々ベンチのマネージャーは3人までという大会規定ですから。」
「円堂くんたちならきっと大丈夫だから、信じていてね。」
「それじゃあ、奉、任せたわよ。」
「……はい!不肖奉、場寅の名にかけまして皆様の安全をお守りいたします!」
深緑のフィールドを踏みしめて決戦準備へと歩みだしていく夏未様たちを見送ってから、
冷たく重い影が落ちたコンコースへと踵を返しました。
わずかな明かりが照らす関係者用階段を静かに駆け上がりながらスカートの上に巻いた
ベルトループの吊り袋を手で確かめました。
今日は馴染んだ包丁の木目の感触は返ってこず、
おじいさまからもしものためにと託された
ガンタイプの催涙スプレーの硬く冷ややかな手触りが眉に力を入れさせました。
そうこうするうちに階段を登り切り、前科のある天井付近からスタンドの一階席まで、
怪しい物、人、設備がないかと大理石から大理石へと目を光らせて回りました。
しかし、特段不審な箇所はなく、ただ上空ゆえの肌を刺すような風だけがあり、
あの悪逆非道の男はどうやら今回は会場設備からの物理的な介入を
目論んではいないということが確認できました。
では一体何を?どんな企みを隠しているというのでしょうか。
思考を巡らせているうちにスタンド席は次々と観客で埋まってゆき試合開始まであとわずかとなっていました。
『雷門中、40年ぶりの出場でこの決勝戦にまで昇りつめたッ!
果たしてFFの優勝をもぎ取ることができるのでしょうか!?』
実況アナウンスを耳にして見下ろした先のフィールドでは、
雷門中の面々がアップ前にベンチで意気込んでいるというところで、
中心になって何かを話している円堂さんと
それを柔らかな目線で見守る夏未様、木野さんの姿がとらえられました。
お二人はお互いの恋慕を知っているはずですのに、
ただ彼に向けて信頼と純粋な応援の気持ちを向けられている、
なんと美しいお姿なのでしょうか。
二柱の女神の清廉さに感嘆していたのも束の間、
空間を裂くような風が会場全体を吹き荒らし、視界を遮りました。
『今大会最も注目を集めている世宇子イレブンだ!
決勝戦まで圧倒的な強さで勝ち続けてきた大本命ッッ!!
決勝でもその力を見せつけるのか!?』
つむじ風の目から仲間を引き連れたブロンドの悪鬼が姿を現しました。
雷門中グラウンドでのことを含めて
神出鬼没のたとえのどちらにも当てはまるなんて、まったく気のいいかたですこと!
もちろんあのブロンドの場合、神は神でも悪神の類ですけれども。
『さあまもなく試合開始です!』
決戦前の円陣組みをしている雷門中を横目に、
監督でも審判でもない研究者のような恰好をした大人の男性が
中型のステンレスカートを世宇子中ベンチまで押していくのが見えました。
カートの配膳台にはスポーツドリンクのような薄い乳白色の液体の注がれた小さな杯が
丁度11人分用意されており、
世宇子イレブンはそれを揃って天へ掲げた後口へと運び、杯を乾かしてみせました。
ただ、彼らはそれを地に叩きつけるといったことはなく、
空になった11の杯は再び台に置かれ、芝から去ってゆきました。
戦意高揚のための酌み交わしであるというのに杯を割らないとは、
古典に染められた世宇子中の風体と合わず、妙な引っかかりを覚えます。
この試合は杯を割り決死の覚悟を表わすほどではないという挑発なのでしょうか、
それとも、彼らにはまたあの杯を、乳白色の液体を再び口にする機会が確実にあるのだとしたら……?
ふと浮かんだ疑問が影山という男の勝利への執着に結び付き、
最悪の答えが脳裏に浮かんで、全身の血の気が潮のように引いてゆきました。
まさか、いくら何でも、中学生相手にそんなことをするはずがないでしょう。
試合開始に間に合わせようと席へ向かう観客の流れに逆らって、
息も切れ切れに控室に戻り、罪悪感を振り払いながら
夏未様のノートパソコンを開きました。
震える手で起動スイッチを押し、
『帝国対世宇子』の文字が書かれたDVD-Rを試合開始直前から再生しました。
ただ、当時の優勝候補だった帝国目線でカメラが回っていたのか、
先ほどのように杯を交わす世宇子中の様子は撮れていなかったようでした。
しかし、プレーヤーのシークバーをキックオフから5分、10分と進め、
15分でついに恐れていた情景がモニタに映し出されました。
「そんな、全員が、同時に、飲んで……。」
芝の上に力なく倒れている帝国中選手をとらえた画角の中、ほんの一瞬だけ
ベンチであの杯を口にしている世宇子イレブンが確認できました。
はたから見れば、立ち上がれない相手を尻目に
水分補給をしているようにしか見えませんし、
その後帝国中の棄権で試合は終わってしまっていますので
よっぽどのことでなければこの不自然な動作には気が付けないでしょう。
動揺に泳ぐ目を時計に向けると試合開始時刻から丁度5分といったところで、
このままいけばきっと同じ悲劇が繰り返されてしまいます。
急いでパソコンを閉じると腰に携えた銃のセイフティを外して、
あの研究員が消えていった場所、世宇子中側のバックヤードへと続く道を駆けだしました。