第三章
夢小説設定
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勝利のためなら手段を選ばない男の決勝戦一手目は
少年サッカー協会副会長という自身の地位を乱用し、
当日にして試合会場を変更するという卑怯極まりないものでした。
本来の開催地であった競技場の頭上から、
5万人は収容できるであろうサッカースタジアムが
私たち雷門中サッカー部を招くように空から舞い降りてくるという
この世のものとは思えない光景に白昼夢でも見ているかのようです。
スタジアム外壁に設置された神話通りのスケールのアンゲロス風彫像から
こちらを見下げるような視線を感じつつも
正気を取り戻しながらスタジアムへと進む部員たちに続いて、
世宇子が勝利せんと告げてくる月桂樹のレリーフに囲まれたゲートをくぐりました。
21人が靴を鳴らす音だけが重く響くコンコースを抜けて、
一対のアンゲロス風彫像がそれぞれのゴールを威圧しているフィールドに出ると
夏未様が両手を組み軽蔑と警戒が混じった視線を宙に向けました。
「決勝当日になってスタジアムの変更……。
影山の圧力ね。どういうつもりかしら。」
きっとこの企みはサッカー協会理事である旦那様が
事故によって入院された時から仕組まれていたのでしょう。
なんて狡猾で用意周到な男でしょうか!
「影山!」
噂をすれば影とはよく言ったもので、
勢いよく体を振り返らせた円堂さんの目線を追うと、
スタジアムのはるか上部から芝生を見下ろす影山の姿がありました。
黒煙のごときサングラスを鉛色に光らせた男の表情まではとらえられませんでしたが、
してやったとばかりにこちらを嘲りにでもきたのでしょう。
彼の監督としての技量は素人の私には評価できるものではありませんが、
円堂さん、鬼道様、それにあの豪炎寺さんまでもが恐れと怒りにこぶしを震わせているのを見るに
試合相手の神経を逆なですることに対して右に出るものはいないことは確信しました。
「円堂、話がある。」
悪行の権化のような男の登場に重い雰囲気が漂う中、
響木監督が徐に口を開きました。
「大介さん、お前のおじいさんの死には影山が関わっているかもしれない。」
「じいちゃんが……影山に……?」
晴天の霹靂のごとく告げられた過去のありさまに、
円堂さんの丸い瞳が凝縮して左右に揺れました。
「響木監督!なぜこんな時に!」
夏未様のおっしゃる通り、身内の死因など繊細な事柄について
試合前の選手に聞かせるなんて監督は一体何を考えているのでしょうか。
丸サングラスの下にわずかに透けて見える瞳は、
強いショックを与えられ、必死に脳へと酸素を供給している円堂さんを
ただ、見つめているようでした。
サッカー部の精神的主柱である円堂さんが心を乱している姿に
この場の誰もが息を飲み、万鈞の空気に押しつぶされてしまっている中、
豪炎寺さんが芝を踏みしめて円堂さんへ距離を詰めます。
エースがキャプテンの乱れた右肩に左手を添えて目線を交わしあうと
円堂さんは大きく息を吸い込んでやや落ち着きを取り戻してみせました。
その様子に豪炎寺さんが信頼を預けるようにして首を縦に振った後、
円堂さんへ歩み寄った夏未様に続いて、
私たち雷門サッカー部は方々に声を上げました。
「「円堂くん。」」
「「円堂。」」
「「キャプテン。」」
私たちの言葉に耳を寄せて、体の緊張を解き、ゆっくりと息を吐いた円堂さんには
もう困惑の色はありませんでした。
「監督、みんな。
こんなに俺を思ってくれる仲間に出会えたのはサッカーのおかげなんだ。
影山は憎い。けどそんな気持ちでプレーしたくない。
サッカーは楽しくて、面白くて、ワクワクする、
一つのボールにみんなが熱い気持ちをぶつける最高のスポーツなんだ!
この試合も俺はいつもの、俺たちのサッカーをする!
みんなと優勝を目指す、サッカーが好きだから!」
瞳に輝きを取り戻した円堂さんに応えるようにそろって頷き、
雷門中のサッカーにかける情熱が息を吹き返すように煌々と燃え上がりました。
「さあ!試合の準備だ!」
「はい!」
部員もマネージャーも駆けだして、影山から逃げるのではなく
自分たちが最高のサッカーをするためにフィールドを後にしました。
選手たちが雷門中更衣室、私たちマネージャーが控室へと別れたのち、
先ほどの監督の告白を反面教師に言葉を選ぶようにして
夏未様が声をかけてくださいました。
「奉、あなたは平気なの?」
「ええ、特に問題はありませんが……なぜそうお思いに?」
「だってあなたの祖父、場寅だって影山の被害者じゃない。」
「それは……私も円堂さんと同じように
サッカーをしている皆さんを応援するのが、
その選手たちを支えるお嬢様、木野さん、音無さんの力になるのが好きだから
ということにさせてくださいませ。
それに、おじいさまはまだピンピンしていますし!」
「それもそうね。」
華やかで品があり、それでいて無邪気に聞こえる夏未様のころころと笑うお声が、
冷え切った大理石の壁にこだまして陽気に染めていくようでした。
少年サッカー協会副会長という自身の地位を乱用し、
当日にして試合会場を変更するという卑怯極まりないものでした。
本来の開催地であった競技場の頭上から、
5万人は収容できるであろうサッカースタジアムが
私たち雷門中サッカー部を招くように空から舞い降りてくるという
この世のものとは思えない光景に白昼夢でも見ているかのようです。
スタジアム外壁に設置された神話通りのスケールのアンゲロス風彫像から
こちらを見下げるような視線を感じつつも
正気を取り戻しながらスタジアムへと進む部員たちに続いて、
世宇子が勝利せんと告げてくる月桂樹のレリーフに囲まれたゲートをくぐりました。
21人が靴を鳴らす音だけが重く響くコンコースを抜けて、
一対のアンゲロス風彫像がそれぞれのゴールを威圧しているフィールドに出ると
夏未様が両手を組み軽蔑と警戒が混じった視線を宙に向けました。
「決勝当日になってスタジアムの変更……。
影山の圧力ね。どういうつもりかしら。」
きっとこの企みはサッカー協会理事である旦那様が
事故によって入院された時から仕組まれていたのでしょう。
なんて狡猾で用意周到な男でしょうか!
「影山!」
噂をすれば影とはよく言ったもので、
勢いよく体を振り返らせた円堂さんの目線を追うと、
スタジアムのはるか上部から芝生を見下ろす影山の姿がありました。
黒煙のごときサングラスを鉛色に光らせた男の表情まではとらえられませんでしたが、
してやったとばかりにこちらを嘲りにでもきたのでしょう。
彼の監督としての技量は素人の私には評価できるものではありませんが、
円堂さん、鬼道様、それにあの豪炎寺さんまでもが恐れと怒りにこぶしを震わせているのを見るに
試合相手の神経を逆なですることに対して右に出るものはいないことは確信しました。
「円堂、話がある。」
悪行の権化のような男の登場に重い雰囲気が漂う中、
響木監督が徐に口を開きました。
「大介さん、お前のおじいさんの死には影山が関わっているかもしれない。」
「じいちゃんが……影山に……?」
晴天の霹靂のごとく告げられた過去のありさまに、
円堂さんの丸い瞳が凝縮して左右に揺れました。
「響木監督!なぜこんな時に!」
夏未様のおっしゃる通り、身内の死因など繊細な事柄について
試合前の選手に聞かせるなんて監督は一体何を考えているのでしょうか。
丸サングラスの下にわずかに透けて見える瞳は、
強いショックを与えられ、必死に脳へと酸素を供給している円堂さんを
ただ、見つめているようでした。
サッカー部の精神的主柱である円堂さんが心を乱している姿に
この場の誰もが息を飲み、万鈞の空気に押しつぶされてしまっている中、
豪炎寺さんが芝を踏みしめて円堂さんへ距離を詰めます。
エースがキャプテンの乱れた右肩に左手を添えて目線を交わしあうと
円堂さんは大きく息を吸い込んでやや落ち着きを取り戻してみせました。
その様子に豪炎寺さんが信頼を預けるようにして首を縦に振った後、
円堂さんへ歩み寄った夏未様に続いて、
私たち雷門サッカー部は方々に声を上げました。
「「円堂くん。」」
「「円堂。」」
「「キャプテン。」」
私たちの言葉に耳を寄せて、体の緊張を解き、ゆっくりと息を吐いた円堂さんには
もう困惑の色はありませんでした。
「監督、みんな。
こんなに俺を思ってくれる仲間に出会えたのはサッカーのおかげなんだ。
影山は憎い。けどそんな気持ちでプレーしたくない。
サッカーは楽しくて、面白くて、ワクワクする、
一つのボールにみんなが熱い気持ちをぶつける最高のスポーツなんだ!
この試合も俺はいつもの、俺たちのサッカーをする!
みんなと優勝を目指す、サッカーが好きだから!」
瞳に輝きを取り戻した円堂さんに応えるようにそろって頷き、
雷門中のサッカーにかける情熱が息を吹き返すように煌々と燃え上がりました。
「さあ!試合の準備だ!」
「はい!」
部員もマネージャーも駆けだして、影山から逃げるのではなく
自分たちが最高のサッカーをするためにフィールドを後にしました。
選手たちが雷門中更衣室、私たちマネージャーが控室へと別れたのち、
先ほどの監督の告白を反面教師に言葉を選ぶようにして
夏未様が声をかけてくださいました。
「奉、あなたは平気なの?」
「ええ、特に問題はありませんが……なぜそうお思いに?」
「だってあなたの祖父、場寅だって影山の被害者じゃない。」
「それは……私も円堂さんと同じように
サッカーをしている皆さんを応援するのが、
その選手たちを支えるお嬢様、木野さん、音無さんの力になるのが好きだから
ということにさせてくださいませ。
それに、おじいさまはまだピンピンしていますし!」
「それもそうね。」
華やかで品があり、それでいて無邪気に聞こえる夏未様のころころと笑うお声が、
冷え切った大理石の壁にこだまして陽気に染めていくようでした。