第二章
夢小説設定
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視界を占領する年代物の機械は、
ラーメンの屋台を長く伸ばしたような枠組みの真ん中にベルトコンベアが鎮座して、
台に対して垂直に据えられた鉄や木の円柱から中心に向かって棍棒が伸びている
その珍妙な姿をして、マジン・ザ・ハンド養成マシンというらしいです。
40年前の雷門サッカー部、つまりおじいさまの世代が作ったものらしいですが、
ネーミングもデザインもセンスが斜め上です。
加えて、この合宿に際して持ち込まれたマシンはなんと手動式で、
読んで字の如く、側面に取り付けられたタイヤサイズの円盤ハンドルを
同時に回すことでベルトコンベアや飛び出す棍棒の仕掛けを作動するというものでした。
そのため、雷門イレブンの主要メンバーらがハンドルにつき、
必殺技を習得せんとする円堂さんがベルトコンベアが動き出すのを構えています。
「いくぞ円堂!」
「おう!
……って、ん?」
「か、固い……」
巨大な機械はビクともしません。
サッカープレイヤー特有の腕の力が弱さゆえか、
長い間眠っていたマシンを無理矢理起こすことはできないようでした。
「こういうこともあろうかと。」
用意のいい菅田先生のおかげで、
錆付き、すっかり固まってしまった機械に真新しい油が注がれます。
命を吹き返した機械は、先ほどまでの姿が嘘のように素直に作動して、
轟々と回り出すベルトコンベアと空を切るいくつもの棍棒のセッションで
目覚めの声をあげて見せました。
「いくぞ円堂!」
「おう!」
一度目と同じく円堂さんは気持ちを引き締めるように声を上げて、
ゴールへひっきりなしに向かってくる豪速球に見立てられた
棍棒の中へと歩みを進めましたが、5~6歩進んだところで、棍棒に足元をすくわれ、
顔を正面からベルトコンベアに打ち付けて開始地点まで戻って行ってしまいました。
「もう一度だ!」
「はい!」
次の回では頬をかすめとられて転倒、さらに次では背後から痛撃されて転倒、
立ち上がることができても天から強襲されるといった棍棒との攻防を幾度も繰り返しています。
マジン・ザ・ハンドという伝説の必殺技習得のためとはいえ、
小さな体に痣まで作りながら何度も立ち上がっては目標に手を伸ばし、
それをつかもうとする姿を目の前にして、
「サッカーのことしか考えていないバカ」と夏未様のお言葉を反芻し、
彼のまぶしさから目をそらしました。
「はっはっ……大丈夫か?」
「…っああ。」
染岡さん、鬼道様までもが息を切らしているのを見るに
先に限界が来たのはハンドルの回し手のほうでした。
「ちょっと休憩するか?」
一番消耗しているはずの円堂さんが颯爽と台から飛び降り、
ハンドル組に問いかけたところで、壁山さんら一年四人組が名乗りをあげました。
「先輩たちが頑張っているのに、
俺たちだけ休んでるなんてできないっス!」
「俺たちにも手伝わせてください!」
「キャプテン!私たちも手伝います!」
「ここまできたら完成させたいもんね!」
「私もお力になります!」
木野さん、音無さんに続いて決意を掲げました。
どうやってもかなわない恋敵ではありますが、
今は少しでも彼の力になりたいという気持ちに嘘偽りはありません。
そうすることが夏未様、いえ、自分にとっても一番なのですから。
「何やってんだ俺は……
こんな仲間がいたのにマジン・ザ・ハンドができないからって一人で焦って、
俺は世界一の大バカ者だ!」
「円堂さん……」
「頼むぜ、みんな!俺絶対完成させてみせるから!」
円堂さんが仲間を動かして、仲間が彼を動かしている輪の中に組み込まれて、
彼が前に進めるように、彼を慕う人たちの思いが報われるように、
そして彼への夏未様の献身が無駄にならないように私もハンドルを回します。
邪な思いを抱えたままですが、私も雷門サッカー部の一員になれているでしょうか。
やはり円堂さんよりも先に体力の限界がきたので次の回し手にハンドルを預け、
荷物置き場にたどり着いたところで、
あろうことか夏未様がタオルを差し出してくださいました。
「お……う…さ…め……う…ごッ」
疲労と驚きのあまりまともに声も出せない私を見かねてか、
タオルをスポーツドリンクに取り換えて、口元まで寄せてくださいましたので、
恥ずかしながら断りも入れず飲み口に吸いつきました。全身に潤いが行き渡ります。
「やっといつもの円堂くんになったわ。
ありがとう奉。」
「とんでもありません!お礼を言っていただくなんてことは何も!」
「もう、そんなに汗まで流して何言ってるの。」
「それに、直に特訓に関われましたから、
夏未様があの時言っていたことがよくわかった気がします。」
「あの時?あの時って……!」
夏未様の頬がみるみる朱く染まってゆきます。
「バカバカ!今ここで言わなくたっていいじゃない!
このことは奉と私だけの秘密にしなさい!いいわね!?」
「仰せのままに、ご主人様。
って、次の手番が回ってきたみたいですので!失礼します!」
愛らしくむくれた夏未様を残すのは気が引けますが、
これ以上とがめられてしまうと墓穴を掘りかねませんので、
急いでマシンへ踵を返しました。
夏未様への想いは秘密のままにさせてください。
ラーメンの屋台を長く伸ばしたような枠組みの真ん中にベルトコンベアが鎮座して、
台に対して垂直に据えられた鉄や木の円柱から中心に向かって棍棒が伸びている
その珍妙な姿をして、マジン・ザ・ハンド養成マシンというらしいです。
40年前の雷門サッカー部、つまりおじいさまの世代が作ったものらしいですが、
ネーミングもデザインもセンスが斜め上です。
加えて、この合宿に際して持ち込まれたマシンはなんと手動式で、
読んで字の如く、側面に取り付けられたタイヤサイズの円盤ハンドルを
同時に回すことでベルトコンベアや飛び出す棍棒の仕掛けを作動するというものでした。
そのため、雷門イレブンの主要メンバーらがハンドルにつき、
必殺技を習得せんとする円堂さんがベルトコンベアが動き出すのを構えています。
「いくぞ円堂!」
「おう!
……って、ん?」
「か、固い……」
巨大な機械はビクともしません。
サッカープレイヤー特有の腕の力が弱さゆえか、
長い間眠っていたマシンを無理矢理起こすことはできないようでした。
「こういうこともあろうかと。」
用意のいい菅田先生のおかげで、
錆付き、すっかり固まってしまった機械に真新しい油が注がれます。
命を吹き返した機械は、先ほどまでの姿が嘘のように素直に作動して、
轟々と回り出すベルトコンベアと空を切るいくつもの棍棒のセッションで
目覚めの声をあげて見せました。
「いくぞ円堂!」
「おう!」
一度目と同じく円堂さんは気持ちを引き締めるように声を上げて、
ゴールへひっきりなしに向かってくる豪速球に見立てられた
棍棒の中へと歩みを進めましたが、5~6歩進んだところで、棍棒に足元をすくわれ、
顔を正面からベルトコンベアに打ち付けて開始地点まで戻って行ってしまいました。
「もう一度だ!」
「はい!」
次の回では頬をかすめとられて転倒、さらに次では背後から痛撃されて転倒、
立ち上がることができても天から強襲されるといった棍棒との攻防を幾度も繰り返しています。
マジン・ザ・ハンドという伝説の必殺技習得のためとはいえ、
小さな体に痣まで作りながら何度も立ち上がっては目標に手を伸ばし、
それをつかもうとする姿を目の前にして、
「サッカーのことしか考えていないバカ」と夏未様のお言葉を反芻し、
彼のまぶしさから目をそらしました。
「はっはっ……大丈夫か?」
「…っああ。」
染岡さん、鬼道様までもが息を切らしているのを見るに
先に限界が来たのはハンドルの回し手のほうでした。
「ちょっと休憩するか?」
一番消耗しているはずの円堂さんが颯爽と台から飛び降り、
ハンドル組に問いかけたところで、壁山さんら一年四人組が名乗りをあげました。
「先輩たちが頑張っているのに、
俺たちだけ休んでるなんてできないっス!」
「俺たちにも手伝わせてください!」
「キャプテン!私たちも手伝います!」
「ここまできたら完成させたいもんね!」
「私もお力になります!」
木野さん、音無さんに続いて決意を掲げました。
どうやってもかなわない恋敵ではありますが、
今は少しでも彼の力になりたいという気持ちに嘘偽りはありません。
そうすることが夏未様、いえ、自分にとっても一番なのですから。
「何やってんだ俺は……
こんな仲間がいたのにマジン・ザ・ハンドができないからって一人で焦って、
俺は世界一の大バカ者だ!」
「円堂さん……」
「頼むぜ、みんな!俺絶対完成させてみせるから!」
円堂さんが仲間を動かして、仲間が彼を動かしている輪の中に組み込まれて、
彼が前に進めるように、彼を慕う人たちの思いが報われるように、
そして彼への夏未様の献身が無駄にならないように私もハンドルを回します。
邪な思いを抱えたままですが、私も雷門サッカー部の一員になれているでしょうか。
やはり円堂さんよりも先に体力の限界がきたので次の回し手にハンドルを預け、
荷物置き場にたどり着いたところで、
あろうことか夏未様がタオルを差し出してくださいました。
「お……う…さ…め……う…ごッ」
疲労と驚きのあまりまともに声も出せない私を見かねてか、
タオルをスポーツドリンクに取り換えて、口元まで寄せてくださいましたので、
恥ずかしながら断りも入れず飲み口に吸いつきました。全身に潤いが行き渡ります。
「やっといつもの円堂くんになったわ。
ありがとう奉。」
「とんでもありません!お礼を言っていただくなんてことは何も!」
「もう、そんなに汗まで流して何言ってるの。」
「それに、直に特訓に関われましたから、
夏未様があの時言っていたことがよくわかった気がします。」
「あの時?あの時って……!」
夏未様の頬がみるみる朱く染まってゆきます。
「バカバカ!今ここで言わなくたっていいじゃない!
このことは奉と私だけの秘密にしなさい!いいわね!?」
「仰せのままに、ご主人様。
って、次の手番が回ってきたみたいですので!失礼します!」
愛らしくむくれた夏未様を残すのは気が引けますが、
これ以上とがめられてしまうと墓穴を掘りかねませんので、
急いでマシンへ踵を返しました。
夏未様への想いは秘密のままにさせてください。