第二章
夢小説設定
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「出たっす〜!!!!」
あとはルーを煮るだけといったところで、壁山さんの絶叫が夜空に響きました。
「出出出た出出出、出た出出出た出た出た出た出た出た出たっすよ~!」
大きな体を揺らして砂埃と涙をまき散らしながら、校舎から飛び出してきた壁山さんは、
目金さんの背後に隠してすっかり小さくなって震えています。
「出たって何が?」
「でででででで、だからおばけが!さささささ3組の教室に!」
「何言ってるんですか!そんなおばけみたいなものがこの世にィ!?」
「確かに誰かいた。だれか大人の人が。」
壁山さんの背後からどろりと顔を出して目金さんの目を回せしめた影野さんいわく、
夜の校舎にお仲間のおばけではなく生きた人間がいたということしょうか。
「え?でも監督も場寅さんも菅田先生もここにいるし……」
「影山。」
半田さんの言葉に空気が凍りつきます。
「もしかしたら影山の手下じゃないか?
決勝戦前に事故を起こして相手チームが試合に出られないようにするのは影山の手だ。」
影山と彼の卑劣さについては先ほど聞きかじったばかりですが、
あの男なら今回もやりかねないでしょう。なんと見境のない人間なのでしょうか。
同じようにFF予選決勝戦前の雷門中全滅未遂事件のことを思い起こされていらっしゃるのか、
夏未様を含め皆さんの目の色が変わり、警戒を強められているようです。
「よし!いくぞ、みんな!そいつを捕まえて正体を暴くんだ!」
主人の憂いを払ってみせなければと、円堂さんの一声で発足した捜索隊に加わりました。
「お嬢様、カレーが煮え切るころには戻ってまいります。」
「ええ、気を付けて。」
暗い校舎へと向かう道すがら、室外調理用に着けておいたベルトループホルダーに
とっさにしまいこんだ愛用包丁の位置を確かめます。
これを使うことにならないのがよいのはもちろんですが、
不審者に容赦するつもりもありません。
捜索隊は二手に分かれて、音を殺して階段をのぼり、
3組の教室を囲い込むようにドアの前で臨戦体制を整えました。
「あきらめろ!逃げても無駄だ!」
円堂さんが飛び込みましたが、教室はもぬけの殻で、
幽霊のひとかけらでさえも染み入ってしまうほどしんとしています。
「逃がしたか?」
いえ、逃げたというよりはこちらを警戒して身をひそめたのでしょう。
卑怯の限りを尽くしている男の手先なのですから、
きっと物陰からこちらの様子をうかがっているはずです。
そう警戒して周囲に注意を配ると、
教室の右手側の渡り廊下から奥に続く階段へと暗い人影を捕らえました。
「いました!こちらです!」
「逃がさないぞ!そおれっ!」
ホルダーにかけた手が包丁を抜き切るというところで、
円堂さんが宍戸さんから低反発まくらをひったくって容赦なく蹴りを入れ、
硬く鋭い弾丸となったまくらでゆれる人影にヘッドショットを決めてみせました。
「ぐあ!」
「正体を見せろ!」
間抜けな断末魔に近寄ってみると、おばけでも巨悪の手先でも何でもない、
ごく普通のよれた中年の男性がこちらに苦笑を向けていました。
「マ、マスター?」
「あ、あははは……」
「なんだ、今の音は!って、お?」
取り越し苦労に気を抜かしていると、中年男性がさらに3人階段の下から現れたようです。
「備流田さん、髪村さん、それに会田さんまで!」
「どういうことだ?」
どうやらみなさんの顔馴染みのようですが、この世代の方たちってひょっとして……。
「それじゃあみなさん、順番に並んでくださいね!」
寸胴鍋におたまを手にして、サッカー部員、響木監督、それとOBの面々にカレーライスの配膳を始めました。
騒動があったせいか十分すぎるほどに煮込まれたカレーは水分が飛んでとろみが強いので、
お玉からゆっくりと移動してつややかな白米を優しく覆うたびに
飢えた男子たちをらんらんとさせてゆきます。
先ほどの緊張感はどこに行ったのでしょうと半ば呆れていますと、
いつのまにかジャージに身を包んだおじいさまが目の前にライスを差し出してきました。
旧友と卓を囲めるからでしょうか、憎いほどにいい笑顔をされています。
「おじいさま、最初からご存じだったでしょう。」
「はてさて、なんのことやら。
さて、昔話にでも花を咲かせにいきますかね。」
まったく、いい大人のくせにホウレンソウがなってないんですから!
文句の一つでも声に出したい気持ちを振り払いながらルーをよそう作業に戻ろうとすると、
次に鍋の前に来た鬼道様に手を静止されました。
「すまないが、具材を選り好みしても構わないだろうか。」
鬼道家のご息子といえども、同い年の14歳ですし苦手なものもあるのですねと
これも口には出さず、快諾します。
「では、今からいう具材をよそってくれ。
右手前で半分顔を出しているそのじゃがいも、
左奥で上に花のにんじんが乗っかっているじゃがいも、
それに鍋の中心におたまを1.4秒沈めて底にあたる過ごし煮崩れしたじゃがいもだ。」
「ええっと、これとこれとこれ、でしょうか?」
「ああ、完璧だ。さすが雷門家のメイドだな。感謝する。」
あとのルーは私の裁量でよそい、鬼道様は満足そうに列を後にしました。
じゃがいもがそんなにお好きだったんでしょうかと疑問符を浮かべていると、
横でライスをよそっていた音無さんが真っ赤になっていました。
「すみません…お兄ちゃんが頼んだじゃがいも、多分全部私が剥いたやつです。」
お互い、身内には苦労しますね。
あとはルーを煮るだけといったところで、壁山さんの絶叫が夜空に響きました。
「出出出た出出出、出た出出出た出た出た出た出た出た出たっすよ~!」
大きな体を揺らして砂埃と涙をまき散らしながら、校舎から飛び出してきた壁山さんは、
目金さんの背後に隠してすっかり小さくなって震えています。
「出たって何が?」
「でででででで、だからおばけが!さささささ3組の教室に!」
「何言ってるんですか!そんなおばけみたいなものがこの世にィ!?」
「確かに誰かいた。だれか大人の人が。」
壁山さんの背後からどろりと顔を出して目金さんの目を回せしめた影野さんいわく、
夜の校舎にお仲間のおばけではなく生きた人間がいたということしょうか。
「え?でも監督も場寅さんも菅田先生もここにいるし……」
「影山。」
半田さんの言葉に空気が凍りつきます。
「もしかしたら影山の手下じゃないか?
決勝戦前に事故を起こして相手チームが試合に出られないようにするのは影山の手だ。」
影山と彼の卑劣さについては先ほど聞きかじったばかりですが、
あの男なら今回もやりかねないでしょう。なんと見境のない人間なのでしょうか。
同じようにFF予選決勝戦前の雷門中全滅未遂事件のことを思い起こされていらっしゃるのか、
夏未様を含め皆さんの目の色が変わり、警戒を強められているようです。
「よし!いくぞ、みんな!そいつを捕まえて正体を暴くんだ!」
主人の憂いを払ってみせなければと、円堂さんの一声で発足した捜索隊に加わりました。
「お嬢様、カレーが煮え切るころには戻ってまいります。」
「ええ、気を付けて。」
暗い校舎へと向かう道すがら、室外調理用に着けておいたベルトループホルダーに
とっさにしまいこんだ愛用包丁の位置を確かめます。
これを使うことにならないのがよいのはもちろんですが、
不審者に容赦するつもりもありません。
捜索隊は二手に分かれて、音を殺して階段をのぼり、
3組の教室を囲い込むようにドアの前で臨戦体制を整えました。
「あきらめろ!逃げても無駄だ!」
円堂さんが飛び込みましたが、教室はもぬけの殻で、
幽霊のひとかけらでさえも染み入ってしまうほどしんとしています。
「逃がしたか?」
いえ、逃げたというよりはこちらを警戒して身をひそめたのでしょう。
卑怯の限りを尽くしている男の手先なのですから、
きっと物陰からこちらの様子をうかがっているはずです。
そう警戒して周囲に注意を配ると、
教室の右手側の渡り廊下から奥に続く階段へと暗い人影を捕らえました。
「いました!こちらです!」
「逃がさないぞ!そおれっ!」
ホルダーにかけた手が包丁を抜き切るというところで、
円堂さんが宍戸さんから低反発まくらをひったくって容赦なく蹴りを入れ、
硬く鋭い弾丸となったまくらでゆれる人影にヘッドショットを決めてみせました。
「ぐあ!」
「正体を見せろ!」
間抜けな断末魔に近寄ってみると、おばけでも巨悪の手先でも何でもない、
ごく普通のよれた中年の男性がこちらに苦笑を向けていました。
「マ、マスター?」
「あ、あははは……」
「なんだ、今の音は!って、お?」
取り越し苦労に気を抜かしていると、中年男性がさらに3人階段の下から現れたようです。
「備流田さん、髪村さん、それに会田さんまで!」
「どういうことだ?」
どうやらみなさんの顔馴染みのようですが、この世代の方たちってひょっとして……。
「それじゃあみなさん、順番に並んでくださいね!」
寸胴鍋におたまを手にして、サッカー部員、響木監督、それとOBの面々にカレーライスの配膳を始めました。
騒動があったせいか十分すぎるほどに煮込まれたカレーは水分が飛んでとろみが強いので、
お玉からゆっくりと移動してつややかな白米を優しく覆うたびに
飢えた男子たちをらんらんとさせてゆきます。
先ほどの緊張感はどこに行ったのでしょうと半ば呆れていますと、
いつのまにかジャージに身を包んだおじいさまが目の前にライスを差し出してきました。
旧友と卓を囲めるからでしょうか、憎いほどにいい笑顔をされています。
「おじいさま、最初からご存じだったでしょう。」
「はてさて、なんのことやら。
さて、昔話にでも花を咲かせにいきますかね。」
まったく、いい大人のくせにホウレンソウがなってないんですから!
文句の一つでも声に出したい気持ちを振り払いながらルーをよそう作業に戻ろうとすると、
次に鍋の前に来た鬼道様に手を静止されました。
「すまないが、具材を選り好みしても構わないだろうか。」
鬼道家のご息子といえども、同い年の14歳ですし苦手なものもあるのですねと
これも口には出さず、快諾します。
「では、今からいう具材をよそってくれ。
右手前で半分顔を出しているそのじゃがいも、
左奥で上に花のにんじんが乗っかっているじゃがいも、
それに鍋の中心におたまを1.4秒沈めて底にあたる過ごし煮崩れしたじゃがいもだ。」
「ええっと、これとこれとこれ、でしょうか?」
「ああ、完璧だ。さすが雷門家のメイドだな。感謝する。」
あとのルーは私の裁量でよそい、鬼道様は満足そうに列を後にしました。
じゃがいもがそんなにお好きだったんでしょうかと疑問符を浮かべていると、
横でライスをよそっていた音無さんが真っ赤になっていました。
「すみません…お兄ちゃんが頼んだじゃがいも、多分全部私が剥いたやつです。」
お互い、身内には苦労しますね。