【シリーズ】谷保くんと百村くん

 公園のベンチに座ってぼうっとしていたら、唐突にハトが上下に重なり始めた。まるで鏡餅みたいになってる。何ともシュールな光景である。
 数秒後上に乗っかっていた鳩は飛び立っていった。一体何だったのだろうか。マウント合戦……?
 そんなことを考えながら、またベンチに背中を預けてぼうっとしていると、不意に背後から両肩に手を置かれた。
「やーん。百村くんのエッチ」
 振り返る。谷保がいた。俺は眉間に皺を寄せて谷保の顔を見上げる。
「…………は?」
 たっぷり三秒、間をおいて聞き返す。谷保は目を丸くしてこちらを見下ろした。
「え、何。百村しずかちゃんの名ゼリフ知らないの?」
「そっちは知っとるわ。何がエッチだったんだよ」
「えー。鳩の交尾、知らんの?」
 鼻にも皺が寄る。谷保の目は丸くなる。
「知らん」
「ツイッターであんなに言われてたのに!?」
「俺インスタしかやらないし。あとエックスな」
 そう言い返せば谷保は口を尖らせてぶちぶちと文句を言っていた。俺は全部無視していた。
 また地面にハトが降りてきて、忙しなく頭を前後に動かしながら歩いている。酔わないのだろうか。酔わないからそんな動きをしているのか。そうか。
 その様子を眺めながら、湧いてきた疑問をそのまま口にする。
「ハトってさぁ」
「ォン?」
「どんぐらいの確率で着床するんだろうな」
 そう呟くように言えば、谷保は大して長くもない足を勿体ぶるようにして組んで、それからこちやも大して長くもない腕を組んで唸り始めた。
「まあ……。割と成功率高いんじゃない?そこらでハト大量発生してるし」
「えぐ」
「まあ動物なんてそんなもんしょ。ドンドコ交尾してポコポコ産卵」
「やだ〜。谷保さんのえっち〜」
「やめろや」
 先ほどされたことをやり返してやれば、谷保は軽い力で俺の肩を小突く。こいつは手の甲が骨張っているからちょっと痛い。
 人間もハトと同じくらい簡単に交尾ができて、ポンポン産むことができたらこんな少子化になんてならなかったであろうに。どこで進化を間違えて交尾に難解な手順を踏むようになってしまったのだろうか。
 どうやら谷保も同じようなことを考えていたらしく「人間ってさぁ」とぼやくようにして呟いた。
「人間ってさぁ、何?」
「ん、そう。人間ってさ、本能だけで生きてるわけじゃないじゃん。理性もあるわけで。だから交尾に対してブレーキかかってんのかなって思ったりして」
「はぁ……。ブレーキ」
「何で言えばいいかなー。わかんねえや」
「んにゃ。何となくわかるから大丈夫」
「そ」
 穏やかな陽気の中、人の少ない公園で男子大学生二人がハトを眺めている。大層シュールである。
 だけれどもシュールなのは人間の造りそのものじゃあなかろうかとも思う。生殖本能を理性で押し留めて、その本能を毛嫌いする節がある。その本能がなければ次の世代に続くことはないと言うのに。
 まあ、しゃーない。これがよく宗教で見かける神が人に与えた罰なのであろう。
 欠伸を漏らす。穏やかな陽気が心地よかった。
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