【短編】恋愛要素なし
幼馴染が死んだ。自殺であったらしい。自宅のドアノブに延長コードを引っ掛けて、丸くして、そこに首をかけて死んでいたのだという。
あくまで聞いた話であって、実際そうであったのかは定かではないけれども、股からは糞尿を垂れ流して、そのこの部屋は畳張りであったからひどく浸透してしまっていて、それはそれは酷い状況であったらしい。いやぁねと言いながら、隣の家のおばさんが洗濯物を干している私に話しかけているのに対して、私は曖昧に相槌を打って、適当なところで部屋に戻った。
その幼馴染は、とても『いい子』であった。誰に対しても笑顔を向けて、近所の人とすれ違えば必ず挨拶をする。対して私は無愛想で、近所の人とすれ違っても会釈程度でそそくさと去ってしまうから、きっと周りからはよく思われていないのであろう。だけれども、そんなあまり評判の良くない私に対しても、嬉々として噂話を振ってくるのだ。それほどに自殺とはセンセーショナルなものであり、例えそれがどんなに評判のいい人間であったとしても、人々のおもちゃにされてしまうのだ。
なんとも、まあ、悲しいことであると思った。
母は私に何か困っていることや悩んでいることはないかと聞いてきた。その表情には心配の色がありありと浮かんでいて、なんとも珍しく感じられた。私が「ない」と答えれば、母は安堵したように息を吐いて、それから「何か辛いことだとか、大変なことがあったら言うのよ」と言って仕事に向かっていった。対して私は学校が臨時休校になったため、リビングのローテーブルを陣取って、リモコンをいじってテレビで気になっていた映画を流した。
四五インチの液晶画面に、海外の俳優が映る。その様をぼんやりと眺めながら、先ほどの母との会話を思い出していた。母は去り際も私を気にかけるような表情をしていたけれども、本当に私は何も悩んでなどいないし、困ってなどいないのだ。だって、その原因はつい先日自分で首を吊って死んでしまったのだから。
幼馴染は、人々にとって大変『いい子』であった。それはこの近辺のみならず、学校内でもそうであった。
肌が白くて小さい体躯に、あまり自己主張をしない大人しい性格、それなりに頭が良く、だけれども運動神経はそこまで良いわけではない。何をするにも可愛い、可愛いと言われて、みんなにはどこか小動物を相手取るような、そんな態度で受け入れられていた。
誰とでも仲が良く、そして誰からも嫌われていない、本当に、本当に優秀で優等で優しい私の幼馴染は、いつも私と行動を共にしていた。
正直に言えば、鬱陶しかった。真っ白い肌と華奢な体つきは、私の肌の浅黒さと体つきの良さを強調するようであったし、自分の意見を言わずに相手に合わせるところも気に食わなかった。大人しいと言えば聞こえがいいけれども、小さくボソボソと喋る声は、喧騒の中では聞き取りづらくて、何度聞き返したかわからない。頭はいいけれども運動神経があまり良くないと言うのも、どこかノロマな印象を受けて、それでもヘラヘラしているところが嫌だった。
更に、私が少し彼女に冷たく接すると、周囲は決まって私を責めた。根暗でプライドが高くて、だから友達がいないあなたの為に、幼馴染だから仕方なく一緒にいてあげているのに、どうしてそうやって突き放すの。そう言うあの正義ヅラした女子生徒の鬼のような表情は、今思い出しても腹がたつ。
だけれども、幼馴染自身、そんな自身の特別待遇に悩んでいるようであった。腫れ物扱いされて、面白がられている気がする。それが辛いの。ねえ、どうしたらいいと思う?そう私に聞く彼女の顔は正に被害者であって、それが更に私を苛立たせた。
そうしてついに、つい数日前にこう言われたのだ。ねえ、私死にたいの、と。きっとみんな私のことを馬鹿にしていて、おもちゃにして遊んでいるのと。対して私は彼女の話に何も興味がなかったので、適当に相槌を打ちながら、自分で決めたらいいんじゃないと、そう返したはずである。
そしたら、死んだ。遺書はあったらしいけれど、私のことは特に悪くは書かれていなかったらしく、彼女の両親は私に向かって今までありがとうねと言って頭を下げてきた。私も合わせて頭を下げた。
あ、尿意。トイレに行く為に映画を一時停止して立ち上がる。
それにしても皮肉なものである。おもちゃにされるのが辛いからと死んだのに、死んだらまたおもちゃにされてしまうだなんて。
きっと学校に行ったら、今度は妄想なんかじゃなくて、明確におもちゃにされているのだろうなと思いながら、トイレの扉を閉めた。
あくまで聞いた話であって、実際そうであったのかは定かではないけれども、股からは糞尿を垂れ流して、そのこの部屋は畳張りであったからひどく浸透してしまっていて、それはそれは酷い状況であったらしい。いやぁねと言いながら、隣の家のおばさんが洗濯物を干している私に話しかけているのに対して、私は曖昧に相槌を打って、適当なところで部屋に戻った。
その幼馴染は、とても『いい子』であった。誰に対しても笑顔を向けて、近所の人とすれ違えば必ず挨拶をする。対して私は無愛想で、近所の人とすれ違っても会釈程度でそそくさと去ってしまうから、きっと周りからはよく思われていないのであろう。だけれども、そんなあまり評判の良くない私に対しても、嬉々として噂話を振ってくるのだ。それほどに自殺とはセンセーショナルなものであり、例えそれがどんなに評判のいい人間であったとしても、人々のおもちゃにされてしまうのだ。
なんとも、まあ、悲しいことであると思った。
母は私に何か困っていることや悩んでいることはないかと聞いてきた。その表情には心配の色がありありと浮かんでいて、なんとも珍しく感じられた。私が「ない」と答えれば、母は安堵したように息を吐いて、それから「何か辛いことだとか、大変なことがあったら言うのよ」と言って仕事に向かっていった。対して私は学校が臨時休校になったため、リビングのローテーブルを陣取って、リモコンをいじってテレビで気になっていた映画を流した。
四五インチの液晶画面に、海外の俳優が映る。その様をぼんやりと眺めながら、先ほどの母との会話を思い出していた。母は去り際も私を気にかけるような表情をしていたけれども、本当に私は何も悩んでなどいないし、困ってなどいないのだ。だって、その原因はつい先日自分で首を吊って死んでしまったのだから。
幼馴染は、人々にとって大変『いい子』であった。それはこの近辺のみならず、学校内でもそうであった。
肌が白くて小さい体躯に、あまり自己主張をしない大人しい性格、それなりに頭が良く、だけれども運動神経はそこまで良いわけではない。何をするにも可愛い、可愛いと言われて、みんなにはどこか小動物を相手取るような、そんな態度で受け入れられていた。
誰とでも仲が良く、そして誰からも嫌われていない、本当に、本当に優秀で優等で優しい私の幼馴染は、いつも私と行動を共にしていた。
正直に言えば、鬱陶しかった。真っ白い肌と華奢な体つきは、私の肌の浅黒さと体つきの良さを強調するようであったし、自分の意見を言わずに相手に合わせるところも気に食わなかった。大人しいと言えば聞こえがいいけれども、小さくボソボソと喋る声は、喧騒の中では聞き取りづらくて、何度聞き返したかわからない。頭はいいけれども運動神経があまり良くないと言うのも、どこかノロマな印象を受けて、それでもヘラヘラしているところが嫌だった。
更に、私が少し彼女に冷たく接すると、周囲は決まって私を責めた。根暗でプライドが高くて、だから友達がいないあなたの為に、幼馴染だから仕方なく一緒にいてあげているのに、どうしてそうやって突き放すの。そう言うあの正義ヅラした女子生徒の鬼のような表情は、今思い出しても腹がたつ。
だけれども、幼馴染自身、そんな自身の特別待遇に悩んでいるようであった。腫れ物扱いされて、面白がられている気がする。それが辛いの。ねえ、どうしたらいいと思う?そう私に聞く彼女の顔は正に被害者であって、それが更に私を苛立たせた。
そうしてついに、つい数日前にこう言われたのだ。ねえ、私死にたいの、と。きっとみんな私のことを馬鹿にしていて、おもちゃにして遊んでいるのと。対して私は彼女の話に何も興味がなかったので、適当に相槌を打ちながら、自分で決めたらいいんじゃないと、そう返したはずである。
そしたら、死んだ。遺書はあったらしいけれど、私のことは特に悪くは書かれていなかったらしく、彼女の両親は私に向かって今までありがとうねと言って頭を下げてきた。私も合わせて頭を下げた。
あ、尿意。トイレに行く為に映画を一時停止して立ち上がる。
それにしても皮肉なものである。おもちゃにされるのが辛いからと死んだのに、死んだらまたおもちゃにされてしまうだなんて。
きっと学校に行ったら、今度は妄想なんかじゃなくて、明確におもちゃにされているのだろうなと思いながら、トイレの扉を閉めた。
