ジェットコースター ロマンス
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「こういうのって苦手なんだよなあ、くすぐったくて…」
佐賀美陣、夢ノ咲学院保険医、2年A組担任教諭、身長178センチ、体重65kg、未婚、趣味は昼寝・お酒、そして、元スーパーアイドル。
「おーい、聞いてるか?」
夢ノ咲学院に編入してわけもわからずプロデューサーという仕事を担ってから半年が過ぎようとしている頃、担任で保健医の冴えない教師が一世を風靡したスーパーアイドルだという事を聞かされた。その時はあまりにも信じられなくてついついその場にいた氷鷹くんになんでやねん!と強めに突っ込んでしまったわけだが。(私のツッコミを受けた氷鷹くんに「お前もそんな風に取り乱すんだな」とまじまじと観察されてとても居た堪れない気持ちになった)
その後、当時の映像を見せてもらって、その時にやっと気がついたのだ。私が幼い頃テレビで観たこと、聴いたことのあるこの曲を歌っていたアーティストが今、目の前にいる冴えない教師だということに。
「もしもーし?」
「…え、」
「ボーッとしてるからどうしたかと思って」
「あ、すいません」
Saga企画、という何やら新しい試みのためにスーパーアイドル佐賀美陣が復活するらしい。その為の衣装製作を私が担当することになったわけで、今はその採寸をしているところである。
胸囲を計るため、大きく腕を広げてくれている先生の胸にメジャーをあてながら、ふと、初めて聞いた時の事を思い出しつい手が止まってしまっていたのだ。
「ん?」
「先生が、スーパーアイドルだったと聞かされた時の衝撃を思い出してしまって」
「あー、はははは、まあそうだろうな」
苦笑いにも近い笑みを浮かべた先生をみて、ああ悪い言い方をしてしまったなと少し後悔をした。ただ、ここで謝るのはなんというか少し違う気もして私は何も言わずに作業を再開することにした。
いつも着ているヨレヨレの白衣にはシミがついている。血…にしては茶色みが強いのできっとコーヒーのシミだろう。食品のシミは放置すると血液と同じくらい落とすのが面倒だというのに、自身のことには無頓着なこの元スーパーアイドルはそんなことも気にせず穏やかな(穏やかなようでいろいろな事件はたくさん起きている)学園生活を送っている。
「先生って着痩せするタイプなんですね」
「そう?」
「うん、なんか、…いい身体してる」
「いい身体って…やーらしい」
含んだ笑いをみせる先生の顔を見ないようにして、分厚い胸板に手を置き0の目盛りを数字に合わせる。佐賀美先生の方が明らかに仕上がっている身体だな、とふともう1人の校則に厳しい我が校の教員のことを思い出した。(椚先生を直接採寸したことはまだないが、嵐ちゃんがスリーサイズを教えてくれたのを思い出した。なんで知ってるんだろう。今になって疑問に思ったが人の恋路を邪魔するものは馬に蹴られてなんとやら、と言われている、踏み込むのはやめておこうと決めた)
「それ、セクハラですよ」
「はいはい、ごめんごめん」
そういいながら自然と大きな手が私の頭に乗せられてゆっくりと左右に行き来するのを感じる。何が起きたのか理解できなくて目盛りから目を離し先生を見上げると、
「うーん、…これもセクハラかな、」
何とも言えない、ともすれば少し照れているようにみえる表情でつい見入ってしまった。
飄々とのらりくらりと生きている佐賀美陣しかみたことがないのだ。
「あ、あの」
「んー?」
嫌、と言わないのをいいことにその手はまるで愛でるかのように柔く私の髪を弄ぶのである。その度に今まで全く意識していなかった成人の、元スーパーアイドルの男が立っていることをまざまざと認識させられて急に恥ずかしくなってしまう。
気にしたこともなかった佐賀美陣の匂い。
存外甘めな香水を付けているらしい、仄かに香るそれと入り混じる男性の匂い。
アイドルという生き物は汗臭さとは無縁の特殊な生き物なのだろうか。そういえばクラスメイトの男子高校生達もキラキラと汗を光らせていながらまったく汗臭さを感じさせない。私よりもいい匂いがする人もいるくらいだ。(自分に自信があるわけではないが、人並み程度には清潔感に気を遣っているはずなのに、斎宮先輩やにーちゃんなんかはとても良い匂いがする。おおっぴらに嗅ぐと「ノンッ!」ってめちゃめちゃに怒られるのでこっそり嗅いだりしているのは内緒の話)
ただ、佐賀美先生からは、クラスメイトからは感じられない、なんというか、色香の様なものまで感じてしまう。実際の嗅覚の問題ではなく、纏っている雰囲気のせいかもしれない。
大人の、男性の匂い。
その刹那、息苦しさを感じるほど胸がギュッとなって、それから撫でられる手に多幸感を得た。あれ、なにこれ。
どうしたものかと視線を外せない私を見てふわりと優しく微笑んだ佐賀美陣、まるで何かを愛おしく想うようなそんな顔をしている。
…え、待って、
「むむむむむ、むり、むりですむり!!」
「おっ、と」
顔をぶんぶんと左右に振り、その勢いで手に持っていたメジャーが床に転がり落ちる。
頭から手を離し、ハンズアップ状態でメジャーを拾うために佐賀美先生は屈んだ。
「悪い、ちょっとやりすぎたな」
私が警戒していると勘違いした佐賀美先生はその場から立ち上がらず、腕だけを伸ばして私の手にメジャーを渡す。
また私の言葉足らずで佐賀美先生を傷つけてしまっているのかもしれない。
「あ、いや、無理じゃないんです、あの、」
「ん?」
私を急かさず優しく先を促す。佐賀美先生のこの表情が私はとても好きだな、と思いもよらない自分の中の感情を見つけてしまって、もうどうしようもなくなってしまった。
「す、好きになっちゃいそうで、無理、なんで、す…!」
グッと両手を両脇で握りしめて、佐賀美先生とは目が合わないように床の一点を見つめる。あれ、私なに言ってるの、あまりに激しい感情の波についていけずに私はただただ一点を見続けるだけ。
「っはははは!あーほんとお前、可愛いなあ」
床を見つめる私とあえて目を合わさないようにして、佐賀美先生はその場に立ち上がると、
「なあ、らいむ」
少しだけ詰められた距離。
また嗅覚をくすぐる大人の匂い。
「好きになっちゃっても、いいんだけど」
お茶目な物言いと共に、壊れ物を扱うように優しく抱き寄せられる。
まるで急転直下するジェットコースターのよう。私はもうこの予測不可能な大人の男の愛情に身を委ねることしか出来なかった。
佐賀美陣、夢ノ咲学院保険医、2年A組担任教諭、元スーパーアイドル、で、好きになってしまいそうな、大人の男の人。
終
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